夜9:30 ―― 秘密の反省会
長い、あまりにも長い一日が終わり、俺たちは「中身が真鈴の俺」が暮らす、男の一人暮らしのワンルームマンションに集まっていた。ドアを開けて入ってきたのは、俺の身体(中身は真鈴)だ。ドカッと雑にソファに腰掛けるその姿は、自分の身体ながらどこかサマになっていて、少し悔しい。対する俺(中身は男)は、真鈴の身体のまま、スカートの裾を気にして小さく膝を閉じて床に座った。胸の重みや、股間の心許ない喪失感には一日中悩まされ続け、精神的な疲労はピークに達していた。「……本当に疲れた。女子って、座るだけでもこんなに神経使うんだな」俺が真鈴の声でぼやくと、俺の身体をした真鈴がニヤリと笑った。「あなたこそ、私の身体で変な歩き方しなかったでしょうね? 名古屋駅で変な男に絡まれなかった?」「それどころか、グループの佐藤って奴に満員電車で思い切り胸を押し付けられたよ。感覚が過敏すぎて心臓が止まるかと思った」真鈴は(俺の顔で)一瞬だけ目を見開いた後、顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。「……バカ。それ、私の胸なんだからね。……まぁ、プレゼンは大成功だったって佐藤くんからLINE(Discord)が来てたから、今回は許してあげる」彼女はそう言うと、俺のゴツゴツした手を見つめ、それから自分の本来の手である、俺の細い指先を見つめた。「ねえ。あなたの大学の友達、拓海くんだっけ? 『お前今日なんかカッコいいな』って言われちゃった。男の身体って、ちょっと背筋を伸ばして、はきはき喋るだけで評価が跳ね上がるのね」「おい、俺のキャラを崩すなよ……。これからどうすんだよ、元に戻る方法も分からないのに」「焦っても仕方ないわ」真鈴は俺の身体のまま、力強く言い放った。「明日も私はあなたの大学で完璧に過ごす。あなたも、私のHAL名古屋でのキャリアを絶対に傷つけないこと。いいわね?」性別も、大学も、才能も違う。けれど俺たちは、互いの身体にかかる「胸の重み」と「股間の違和感」を共有しながら、この現実的な入れ替わり生活を、意地でも完璧に生き抜いてやるのだと、静かに視線を交わした。




