共同戦線
『いい? 焦らないで。まず画面の左上、メニューバーの「ウィンドウ」から「レイヤー」のパネルを最大化して』学食の喧騒の中、真鈴は俺のスマホに耳を押し付け、低く鋭い声で指示を飛ばした。周りの女子学生たちが「え、何、急にマジな顔して……」と困惑しているが、今の彼女にそれを気にする余裕はない。一方、HAL名古屋の実習室。俺(中身は男)は、真鈴の華奢な指先を震わせながら、目の前の巨大な液晶ペンタブレットに噛みついていた。「レイヤーパネル……出した! 出したけど、英語の項目が並んでてどれがどれだか分からない!」『「Compatibility Error」って出てるレイヤーの横にある、黄色い三角のアイコンを右クリック。……いえ、この身体の感覚だと、ペン先を少し長めに押し当てるだけでいいわ。やってみて』言われた通り、ペン先を画面に押し当てる。真鈴の指先は、俺の頭が理解するよりも早く、プロ用の液晶画面の上を驚くほど滑らかに滑った。「出た!『ラスタライズ』って項目がある!」『それよ! クリックして! 3Dのベクターデータが2Dに変換されるから、これでエラーは消えるはず。……消えた?』画面の赤点滅が消え、映画祭の美しいメインビジュアルが元の鮮やかな色彩を取り戻した。「消えた……! 戻ったぞ、世古!」「うお、すげぇ! さすが世古さん、一瞬で直した!」周りでハラハラしながら見ていた佐藤たちが歓声をあげる。俺は声が出ない設定を思い出し、慌てて「ふぅ」と胸をなでおろすジェスチャーをして、机の下で小さくガッツポーズをした。ブラジャーに包まれた胸が、その動きに合わせてわずかに弾む。『良かった……。じゃあ、私は講義に戻るから。プレゼン、絶対に噛まないでね……って、声出ない設定だったわね。頷くだけで乗り切るのよ』「ああ、ありがとな」電話が切れる。プレゼン開始まで、あと30分だった。




