↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
”よくある話”と幸せを諦めた令嬢は、その”よくある話”で幸せを取り戻す  作者: 澪ナギ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/11

第七章

―7―


 段々と、前を向けている。

 きっとこれまで私は無意識に下を向いていたんだろう。学園を軽い足取りで歩いている中で見える景色は新鮮で。これもリンクウェル様のおかげだと、感謝と、今日まだ来ていない手紙に寂しさを覚えていれば。


「シェイレーヌ!」


 ばっと、廊下から人が出てきた。


 その人は、


「ベイル、様?」

「やっと見つけた!」


 彼は人懐っこい笑顔で私の手を取り、ぐっと迫る。


「君にお願いがあるんだ!」


 そう、言って。


「行こう!!」

「はいっ!?」


 有無を言わせぬまま、私を引っ張って歩き出した。



「っ殿下! 何事ですか!?」


 たどり着いた先は空き教室。そこに引っ張られて、ドアを背にして立たされる。


「っ」


 横に彼の手が添えられ、見上げればベイル様が近くにいた。

 前ならドキッとしていたのに、何故だろう。


 今は、――怖い。


「っあの」

「頼みがあるんだシェイレーヌ!」

「殿下近いですっ」


 こわい、やめてほしい。

 少しだけでも遠くに、と押すけれど。さすが男性、びくともしなかった。心臓が早鐘を打つ。もちろんときめきなんかじゃない。


 ただただ、恐怖だ。


「でんか」

「聞いてくれるかい?」


 それより人の話を聞いてほしい。

 少し泣きそうになりながらにらみあげると、目が合ったその人は楽しそうに言った。


「ルルエール嬢との仲を取り持ってくれないかな!?」


 と。


 その、言葉に。


「……は」


 一気に、心が冷える。この人は、今、なんて?


「……レイカリラ……?」

「そう! アタックしていてもあまりなびいてくれなくてねっ。親友の君が言えばどうだろうと!」


 この人は、なんて人なのだろう。離れてから、わかる。


 どのくらい私の心を踏みにじれば気が済むのだろうか。


 婚約が決まってからずっとおかしかった。婚約者なのに、彼は私を”友”として――いや、そもそも女としてじゃなく、男のようにして見ていた。男性の趣味になることを誘われ、女性趣味のものは「君はそんな子じゃないだろう?」と言われ、見せられなくなった。いつの日か女性の好みの話にもなった。私はどんな感じの子がいいのか、と。私は女なのでと言ってもまぁまぁとほだされた。ずっとそうだった。あまつさえ、人の親友に行こうとしている。


 この、人は。


「……君は」


 どれだけ、


「どれだけ私をバカにしたら気が済むの……?」


 言えなかったことが、ぽろぽろと出てくる。


「やりたいことも、好きなことも奪ったくせに」


 今度は、


「今度は私の親友も盗るの!?」

「っ、シェイレーヌ?」

「もう盗らないでよ」


 あの人は。


「リンクウェル様は全部大事にしてくれた!」


 好きなもの、やりたいこと、全部、全部。やっと今の私を愛せそうなのに。


「これ以上、かき乱さないでよ!!」


 なかば叫ぶように言って。


「どいて!」

「、ぉわっ」


 さっきまでびくともしなかったベイル様を振りほどいて、空き教室を出た。



「は、はぁ」


 走って、走って。どれくらい走ったか自分でもわからなくなってきたころ。


「っあ」

「!」


 曲がり角で人とぶつかった。謝るためすぐさま頭を下げる。


「すみませ――」

「シェイレーヌ嬢?」


 声に上を向くと、そこには、会いたかった人と、守りたい人。


「リンクウェル様……、レイカリラ……」

「シェイレーヌ、泣いてるの!? どうしたの!?」

「あ、いや」

「何かあったか」

「いえ、というよりなんでリンクウェル様……」

「今朝手紙が遅れたから直接渡しに」

「……そう、……ふふっ」

「シェイレーヌ嬢?」


 つくづくこの二人には癒されるなと、自然と笑みがこぼれて。


「実はね」


 私は先ほどあったことを話した。



 それをとても後悔した。


「あ、あの二人とも」


 木々が揺れる中庭。目の前には会いたかった人と守りたい人。


「ちょっと、あの」


 その、二人は。


「このルートで」

「だがこれじゃ警備兵が……」


 うちの国の王子を亡き者にしようとしています。


「本気でやらないよね……? 遊びでこう、今私を笑わせようとしてくれてるんだよね……?」

「? シェイレーヌ、国の王子の殺害計画は遊びでやっちゃだめだよ?」


 あ、そこの自覚はおありでいらっしゃる。


 じゃなくて。


「なおさらだめ!!」

「何故」

「当然でしょう!! 国の一大事になりますよ!?」

「あなたを泣かせる王子がいなくても大事には至らない」

「真顔で天然みたいな発言しないでください!!」


 なおも計画を続けようとする二人から紙を奪い取る。


「あ、シェイレーヌ!」

「怒ってくれることはありがたいことだけど、だめ!」

「どのラインならセーフ?」

「王子にどのラインもだめでしょ……」


 本気なのか冗談なのか。不服そうなレイカリラとリンクウェル様にちょっと笑う。


「シェイレーヌ?」

「ううん、ありがとう二人とも。本当に、気持ちだけで十分なんだ。取り乱してごめんね」


 改めてお礼を言って、それで、とレイカリラを見る。


「一応その、そういうお話でして」

「……」


 私が浮かべるのは、苦笑い。

 二人に一通りのことを話した。そこには彼がレイカリラに気があるという話ももちろん入っていて。


「レイカリラに、こう、婚約を持ちかけようとしてる、かな……?」


 その話題になると、レイカリラの目が一気に冷えた。


 これは、どっちなのだろう。


 落ち着いて考えた時。

 正直なところ、彼女がどちらに傾くか私もわかっていなかった。婚約破棄をされて、レイカリラとベイル様の不思議な接触があったのは事実。気持ちが落ちていた私は、それをマイナスな方向に捉えていた。きっと二人は、と。でも、と思う自分もいる。


 その理由はレイカリラだ。


 彼女がどうしてもわからない。ベイル様との接触が多いだけなら、あの二人はきっととなったのだけど。

 今こうして、本気で怒ってくれて、パーティーの日は私を一番華やかにしてくれて。どう思っているのかが私にはわからなかった。それを、知りたいというのも事実。今なら、二人が想い合っていたとしても受け止め――られないな違う意味で。あの殿下にレイカリラを渡したくない自分がいる。

 いったん自分の気持ちは置いておこう。ちょっとこじれそう。一度、咳払いをして。


「えぇと、どうする?」

「……」


 聞けば、レイカリラは静かに考えて。


「……この際だから、はっきりさせよっか」


 私を見て、言った。それに無意識にのどが鳴る。


「シェイレーヌ」

「……」

「私」


 息を、吸って。


「どうやったらあの人の婚約断れると思う!?」


 そう、婚約を――え?


「レ、レイカリラ?」

「嫌だよ私あの人と結婚したくない!!」

「ええぇぇ!?」


 そうなの!?と聞けば、レイカリラはそうだよ!!とすがるように私に抱き着く。


「もうちょっとなのに、もうちょっとなのに!! シェイレーヌお願いだから早く従兄さまと結婚して!?」

「え、え!?」

「そうしたらシェイレーヌと一緒に隣国に行って、シェイレーヌと家族として暮らせるのに!! やっと私の夢が叶うのに!!」

「ちょっと待って頭が追いつかないんだけど!!」


 どういうことですか!?とリンクウェル様を振り返ると。


 彼はとても肩を震わせて笑っている。


「リンクウェル様!!」

「ふふっ、すまない、あまりのことのきれいさに、ふふっ」


 変わらず肩を震わせながらこちらへやってきて、わんわん泣くレイカリラを私から引きはがして、言う。


「まぁ単刀直入に言えばだな」

「はい」

「この従妹はあの王子が大嫌いなんだ」

「……はい?」


 耳を疑うというのはまさにこういうことだろう。言葉を発せずにいると、レイカリラはこぼす。


「だってこんなにかわいいシェイレーヌをほっとくんだよ? 信じられない……」


 でも、と言葉が続いて。


「私はそんな人と別れてくれて嬉しかった」


 彼女の、本音がこぼれていく。


「最低かもしれないけど、でも、あのままふたりが結婚してたら絶対シェイレーヌはだめになっちゃってた……。かと言って私が何かできることはなくて、殿下に気持ちがないって知って、私はただ願うばかりだった」

「レイカリラ……」

「ごめんねシェイレーヌ……あなたがあの時一番悲しむことを願って、喜んで」


 ううん、と言おうとした口は。


「破棄されて喜んで、これで家族計画が進められるって強引にことを進めてごめんね」


 とんでもない言葉にさっと閉じた。そして言葉を変えて、また聞く。


「あの、さっきも言ってたけど」

「? うん」

「その家族って……?」


 待って「よくぞ聞いてくれた」って顔しないで。あぁあしゃべってしまう。


「私ね、シェイレーヌが大好きなの!」

「ありがとう……?」


 ちょっとそこの王子様笑わないで助けて。


「だからずっと一緒にいたくて……。私が男の子だったらすぐさま婚約申し込んだけど、私は女の子だから」

「うん」

「ウェル従兄さまと結婚してくれれば親族、つまり家族になれてずっと一緒にいれると思ったの!」


 少しこの子が怖いと思った私はきっと正しい。けれど恐怖している私にかまわず彼女は続けていく。


「だから破棄されたって聞いて、従兄様にすぐ声をかけて」

「だから新しい恋……」

「そうだ」

「でもあのパーティー、従兄さまは王子だし、仲良しの隣国だし、ベイル殿下も出席するでしょう?」

「そうだね……?」

「シェイレーヌが出るって知ったら、友としてってドレス送ったりするだろうから! 全くセンスのないものより私が最高に着飾って、私のシェイレーヌはこんなにかわいいんだぞって見せびらかしてやろうと思って!」

「だから知ってたの……」

「せっかくならあのパーティーでシェイレーヌと従兄さまが婚約すればいいと思ったから、シェイレーヌのために会場に手を加えてもらうよう頼んだの!」

「ご迷惑おかけしてすみませんリンクウェル様……」

「何の問題もなかったが」


 侍女たち大変だったろうな……いつかお礼をしようと決めて。


「それなのに殿下はあんなにかわいいシェイレーヌより私に声かけ始めたんだよ!? おかしくない!?」

「君は婚約破棄してほしかったの、殿下に私を見てほしかったの!?」


 親友のはちゃめちゃな発言に言葉を返しながらも、心のどこかでほっとしている。きっと前なら、二人がくっつかなかったことについて。今は、彼女がベイル様に盗られなくて済んだことに。


「!」


 自然と力の抜けた肩にそっと手を置かれてそちらを見る。視線の先には、優しく笑うリンクウェル様がいた。


「言っただろ、その件に関してはあなたが思うことは決してないと」


 リンクウェル様に言われて、ふっと笑みがこぼれる。


「そうですね」


 杞憂でよかった。そう、未だ私のなんたるかを叫ぶように語るレイカリラに笑った。



 その後、レイカリラは「ありのまま伝えよう」と思い至ったそうで。殿下の心をぼきぼきに折って大満足でそのエピソードを話してくれた。

 殿下は私に謝罪をしたうえで、どうか昔のように友としていてほしいと言ってきた。きっと前なら、それにもやもやとしていたけれど。


「承諾したんだな」

「リンクウェル様」


 あの騒動があってしばらく。ときどき遊びに来てくれているリンクウェル様とのお出かけ中、やってきた海の見えるテラスで聞かれ、頷いた。


「はい。今はもう、恋愛感情はありませんし」


 昔から、


「彼の言う、大事な友であることは、私も変わりませんので」


 幼い頃から対等でいてくれた友人。婚約の話があって、私も「好きにならなければ」と思い込んでいたところもあった。それがなくなった今、互いに友でいたいという気持ちは一緒だから。笑えば、リンクウェル様も優しく微笑む。


「あなたは優しいな」

「そうですか? むしろ厳しいかと」

「そうか?」


 頷いて。


「これからじっくり、それこそ友として、女性の扱いのなんたるかをはっきり言えますので」


 いつか彼の次の婚約者が現れた時、同じ轍を二度踏ませてはいけない。腕が鳴る、と微笑めばリンクウェル様は引き笑いだった。

 それに笑ってから、手すりに体重を預けて隣を見やる。


「ところで、今日はどのようなご用件で?」


 聞けば、その人はまた微笑んだ。

 リンクウェル様がこちらにやってくる名目は、あの二週間と変わらず自国の繁栄のための勉強らしい。けれど、滞在中は毎日のように会いに来てくれた。今日もそうなのだろうかと、少しの期待とうぬぼれを持ちながら、問えば。


「!」


 リンクウェル様はそっと跪く。そうして私の手を取った。


 私は、この光景を知っている。


「シェイレーヌ=シークレイン嬢」


 胸の高鳴りの答えを、今度こそ理解して。


「俺と婚約してくれないか」


 熱を持った、その瞳に。


「――はい、喜んで」


 そっと微笑んで、手に落とされる口づけを受け入れた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。