↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
”よくある話”と幸せを諦めた令嬢は、その”よくある話”で幸せを取り戻す  作者: 澪ナギ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
8/11

第六章

―6―


 それからの日々は、リンクウェル様との時間が多かった。


「二週間なんですか?」


 リンクウェル様の滞在はレイカリラに聞いたように一時的で、その期間は長いようで短いものだった。その驚きを隠すことなく聞くと、隣を歩く人は頷く。


「あぁ。簡潔に言ってしまえば疎遠だった分の埋め合わせだな。今回は、もともと互いの国で行っていた誕生日パーティーの復活や、よく世話になっていた者たちへのあいさつが主だ」

「たしかしばらくの間疎遠だったんですよね」

「まぁな」


 その理由はまだ教えてくれないらしい。肩を竦めたリンクウェル様に深く聞くことはせず、告げられた期間に思考を戻す。

 二週間。長いようで短い時間。それを考えると。


「……そんなに長くいられないのはなんだか寂しいですね」


 自然とそうこぼれて、リンクウェル様は笑う。


「こちらに来てくれても構わないが?」

「えっ!?」

「いずれは来てもらおうと思っているが」


 さらっと言って、先を歩いて行ってしまうリンクウェル様に一度止まる。


「……!」


 言葉を理解して、体が熱を持ったのがわかった。それに必死に首を振って、その人のあとを追った。



「意外、と言ったら失礼かもしれないが」

「?」

「どちらかというと男性が趣味とするものが得意だな」


 再びアミューズメントパークに行った日。私のゲームの腕を見てリンクウェル様はそうこぼした。それには苦笑い。


「まぁ、幼馴染の殿下が殿下でしたので」

「――あぁ」


 私の方がうまくなることも多くて、そのたび負けまいとしてきた殿下が懐かしい。そう言えば最近、リンクウェル様といるときに彼のことを考えることが減ったなと思う。いい変化なのだろうか。寂しさも辛さもないことは、自分の中ではいいことだと思いたい。そう、微笑んでいると。


「!」


 そっと、おもちゃの銃を持つ手に、手が重なる。


「妬けるな。思い出させたのは俺だが。彼のことを考えていたろう」

「う……」


 こうして心をさらうようなことを言うからなおさら考えることを減らしたのだと思う。私の考えていることにすぐに気づいて、その都度言われてしまえば考えないようにもなるだろう。


「ご自身の言う通り、リンクウェル様のせいでしょう」

「まぁな」

「でも減りましたよ、考えること」

「へぇ?」


 言えば、くすくすと楽しそうに瞳を細められた。


「俺が言うからか」

「ご明察です」

「それはいいな」


 まるで少しずつ侵食していることを楽しむように髪にキスを落とす。そうして、こちらを見つめた。


「っ」


 その人から目をそらさず、なかばにらむように見つめ返せば、満足げに笑われて手が離れていく。


 甘い、そんな戯れの日々が続いて。



「シェイレーヌ嬢」


 リンクウェル様の帰る日が近くなってきたある日の帰り道。私の家の前で、その人は私に跪いた。


「リンクウェル様!?」


 慌てて止めようと手を出せば、その手はさらわれて。


「!」


 口づけを、落とされる。きれいな顔は、そっと私を見上げて。


「俺と、婚約してほしい」

「っ」

「卒業したらでかまわない。こちらで、共に暮らさないか」


 熱い視線に、溶けてしまいそうな感覚が私を襲う。この二週間で、私の気持ちは確かに変わっていた。恋かはいまだにわからない。けれど甘くて、優しいこの人の熱が、心地よいのも確かで。


「……ぁ、の」

「……」


 逃がさないというような目に、歩み寄りたくなる。


「……」

「ふっ」

「っ?」


 でもどこかで、ストッパーがかかる自分もいて。口をハクハクとさせていたら、リンクウェル様は笑った。そうして立ち上がり。


「っ!?」


 ぐっと近づいてきたので、目を閉じた。けれど構えたところに熱はなくて、代わりにすり、と額に温かさが宿る。でも、いつの日かしてくれた熱とも違う。そっと、目を開ければ。


「……リンクウェル、さま」

「……」


 額を合わせて、とても至近距離で目が合った。その距離にドキドキと鼓動が早くなる。


「嫌か?」

「っ」


 嫌じゃ、ない。

 伝えるように、首を横に振った。


「それだけ聞ければ今はいいな」

「え……」


 離れていく体温に寂しさを覚えながら見上げると、とても嬉しそうなリンクウェル様がいる。


「返事はいつでもいい」

「……」

「この二週間が終わっても、手紙も送るし会いにも来る」


 だから、と。


「っ」


 重ねた手に口づけをまた一つ、落として。


「前向きに考えていてくれ」


 そう言ってリンクウェル様は帰って行った。



「……」


 その日の夜は、ふわふわして、心地よくて。幸せというものはこういうものなんだと初めて知った。

 もしも、夫婦になったなら。そんなことまで考える。


 向こうはベイル様と同じく第一王子だ。今みたいな甘いひと時ばかりではきっとないだろう。大変なこともあるだろうし、喧嘩して、ぎすぎすしてしまうこともきっとある。


 けれど。


 この二週間ちょっとのリンクウェル様を見て、それも大丈夫じゃないかと思える気がしている。何があっても、乗り越えていけるんだろうと。


「……ふふ、なんだか気が早いな」


 答えを出していないのに、そう、先のことを考えて。


「……リンクウェル様」


 もらったぬいぐるみをぎゅっと抱きしめて、私は眠りについた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。