第五章
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そんな次の日。
ぼうっと天井を見上げて、頭の中で流れる映像に意識を向けて、口からこぼれる。
「……楽しかった……」
昨日の感想が、自然と。
いやびっくりするくらい楽しかった。
リンクウェル様に導かれて行ったのは、街のアミューズメントパーク。買い物をするところや食事をするところもあるけれど、アミューズメントパークということでたくさんの遊ぶ場所があって、学生に人気のところだった。
こちらの国にはこれができてから来ていない、と言うリンクウェル様に、案内も含めて一つ一つ見ていった。
女性でも簡単に乗馬のような感覚を楽しめる馬の乗り物や、おもちゃの銃で的を射るゲームなど様々で、なかなか実際にやることがない女性にも人気だし、カップルでも、男性の腕の見せ所という感じでいつもにぎわっている。
それは昨日もそうで、放課後ということもあって人はたくさんいた。待つ時間も多かったけれど。
「……面白かったな……」
リンクウェル様の話がとても興味深くて楽しくて、あっという間だった。
あのアミューズメントパークはベイル様とも何度か行ったことがある。けれど婚約者同士、というより、今思えばもう友のような感覚だった。点数を競い合い、こちらが勝てばもう一度と並び、その間、彼はどうやったら勝てるかと一人模索していた。楽しくなかったわけじゃないけれど、でも寂しかったのを覚えている。
けれど、昨日は違った。
リンクウェル様は私が楽しめるようにたくさん配慮してくれた。二人が共通で話せるレイカリラの話、私の知らない隣国の文化の話。リンクウェル様自身の話。特に興味深かったのはこの国と隣国が名ばかりの友好国ではなく、大昔戦友だった者同士が作った、本当の意味での友好国だったということ。これまでは少し疎遠だったらしいけれど、ここ最近でまた交流が再開したそうだ。ほかにもたくさんのことを待ち時間に話してくれて、なにより。
いつも私を、優先してくれていた。
次はどこへ行きたい? 何が食べたい? 好きなものは?
たくさん私にいろんなことを聞いてくれて、心がむずがゆくなるくらい、優しくエスコートをしてくれて。
「……」
最後に。
「……ふふっ」
私の大好きなぬいぐるみを、買ってくれたのだ。
あれはお土産屋さんとして有名になっている店に立ち寄った時だ。一通り見ていて、かわいい犬のぬいぐるみを見つけた。
「かわいい……」
「こういうのが好きなのか?」
「え! あ」
そのとき、素直に言えなかった。はい、と。だから首を横に振った。
「いえ、ただかわいいなと」
それをそっと置いて、リンクウェル様に次のコーナーに促して。店内を見て回った後、特になにも買わずに外に出た、そのとき。
「……」
ぴたり、リンクウェル様が止まる。
「? リンクウェル様?」
「すまない、一つ思い出した」
「え」
その人の顔は、とても”まずい”という顔。
「リラに頼まれたものを買うのを忘れていた」
「レイカリラに」
それは一大事だと、中に入ろうとすれば止められる。
「物は聞いていて、さっきあなたと見た時に場所はわかっているんだ。もし嫌でなければ、あちらの休憩所で待っていてくれないか」
「かまいませんが……」
でもすぐなら、と食い下がろうとすると、先に口を開かれる。
「その」
「!」
「従妹のために買うというのを見られるのが、気恥ずかしい」
なんて言うものだから。
「ふふっ、わかりました。飲み物を買って待っています」
「お代は出す」
「結構ですよ。かわいらしい殿下が見れたので」
「なんだその対価は……」
気恥ずかしそうに店へと入っていくのを見送って、宣言通り飲み物を買って待つことしばらく。戻ってきたリンクウェル様は少し大きめの袋を持っていた。かわいい従妹にとなれば、あの袋の中には大きなぬいぐるみが入っていると考えるのが妥当だろう。確かにそれを見られるのは照れるかもしれないと、また心がふわふわと癒されていれば。
帰り道。
「え」
その袋を、渡された。
当然、思うのは。
「あぁ、私からレイカリラに? でもリンクウェル様の方がお会いするのでは……」
「違う」
「?」
じゃあなぜ、と見上げると。今日はよく見る、少し恥ずかしそうなリンクウェル様がいて。
「あなたにだ」
まっすぐ射抜かれて、胸が高鳴った。
「え」
「気に入ってもらえるといいんだが」
「え、でもこれは、レイカリラにじゃ……」
「……」
聞くと、その人はどうにもいたたまれないと言うようにこちらを見ては、また違うところを見る。そうして、口元を隠して。
「もちろんあいつのも買っていはいる、前に好きだという菓子があると聞いているし」
けれど、目的はそうではないらしい。少し、間が空いて。
「……あなたにプレゼントをしたくて、タイミングを作ったんだ」
「っ!」
ようは口実だと、言外に言うリンクウェル様に、体がぶわっと熱くなった。
「少しはかっこよくいさせてくれ」
「えっと、……」
私のために。
今までそんなこと、なかった。嬉しくて、でもこの緊張がいたたまれなくて。
「あ、開けてもいいですか?」
「……かまわない」
聞けば、頷いてくれた。それに、続く緊張をほぐすように袋を開けていくと。
「……あ」
そこにいたのは、私が気になっていた犬のぬいぐるみ。しかも、見ていた子よりサイズが大きくなっている。
「これ」
「……好きなんだろう?」
「っ!」
そっと、覗き込んでくる紅い瞳は優しさをはらんで、柔らかく笑んだ。
「俺はあなたの好きなものが知りたい」
「……」
「シェイレーヌ嬢」
プレゼントはどうだろうか、と言わんばかりにそっと腕を撫でられて、恥ずかしさでぬいぐるみをぎゅっと抱きしめながら。
「……好き、です」
言葉が、こぼれる。
ドキドキして、音が聞こえてしまいそうなくらい心臓が鳴っていた。
「そうか」
それが聞こえているのかいないのかはわからないけれど。リンクウェル様はとても嬉しそうに笑って。
それはよかった、と。
私の額に、小さくキスを、こぼした。
「~~っ」
嬉しい気持ちと共に最後のそんな、恥ずかしくていたたまれない記憶まで思い返して、そのぬいぐるみを抱きしめながらベッドの上でのたうち回る。
「は、はぁ……」
恋を、したわけじゃない。けれど、こう、ドキドキするって、こんなにも苦しくなるものなんだ。それに驚いて、不思議と嫌じゃない自分にも驚く。
「……また行きたいな」
彼のときにはなかった感情がわいてくる。少しずつ、何かが変わって行っていることに、私はまだ気づかないまま。
「シェイレーヌー! いる!?」
「! いるよ」
親友の声に、私はベッドを降りて学園へ行く支度を始めた。




