第二章
―2―
おかしい。
「それでねっ、ここのアクセサリーは」
なにかが、おかしい。主に。
「はぁぁぁあ、シェイレーヌきれい……!」
私の、恰好が。
婚約破棄をされて、もしかしたら、物語のような、自分の親友が元婚約者の新たな婚約者かもしれない。そう思って疑心暗鬼な日々。
ついに来た誕生日パーティーで、親友のレイカリラは私のドレス一式を用意すると張り切っていた。もしも物語のような状況なら、私の恰好はとても質素なんだろうと、加速する被害妄想に嫌気もさしつつ、自室で彼女にされるがままドレスアップをされ。
「……?」
あまりにもきらびやかで、主役級のドレスアップに戸惑いを隠せない。
どういうこと??
どれもこれも一級品レベルじゃない??
「えぇと、レイカリラ……?」
「どうしたの? あ、何か気に入らない!?」
「いやむしろどれも好みだけども」
青を基調とした上品なデザインは自分の銀髪にも、そして好みにも合っていてとても好ましい。でもそうじゃない。
「……こう、誕生日パーティーに参加するにはこう、主役並みに着飾ってない……?」
「シェイレーヌはいつだって主役だよ!?」
「今日の主役はあなたの従兄だよ!?」
そんなっという顔の彼女に毒気が抜けていく。さっきまで疑っていた自分の方がバカなんだと、そう思う。
「……」
「気に入らないとこあったら言ってね、変えるから」
「十分だよ……」
本気で変更をやりかねなさそうな彼女に、そっとため息をついて。
己を、叱責する。
親友を疑うことなど恥だ。なんていけないことをしたんだろう。ちゃんとこれはいずれ、口にしなくても謝ろう。そう、決めて。
「できたよっ!」
「……ありがとう」
とっても嬉しそうに笑う彼女に微笑んで、私たちは部屋を後にし、迎えの馬車に乗って会場へと向かった。
「わぁ……!」
「すごいでしょ! 装飾にこだわったんだって!」
「すごい……!」
街のはずれにある大きなパーティー会場にたどり着き、レイカリラに手を引かれて入った中はまさに豪華絢爛だった。
水色や青という、一見冷徹なイメージが強い色が基調だけれど、それはどこか上品さもあって美しい。
「まるで氷の世界みたい……」
「シェイレーヌのことも考えて彩ったんだよ!」
「?」
待って今なんか私の名前出た? けれど嬉しさで会場をタタッと駆けていくレイカリラには聞けず。
「待ってレイカリラ!」
彼女を追って、踏み出せば。
「わっ」
「おっと」
人にぶつかってしまい、すぐさま頭を下げる。
「も、申し訳ありませ――」
「シェイレーヌじゃないか」
その声に、またヒュッとのどが鳴った。恐る恐る顔を上げれば。
「ベイル、さま……」
パーティーのために着飾った想い人が、楽しそうに笑っていた。
固まっていると、彼は私の頭からつま先を見て、驚く。
「すごいな、こんな風に着飾っているのは初めて見る」
「っ」
「とても女性らしい」
どこか、普段女性らしくないとでも言いたげなものぐさに、ちくり、心が痛んだ。
「……」
それになにも言い返せないでいると。
「っわ」
ぐいっと、後ろから腕を引っ張られる。その先にいるのは、
「レイカリラ……」
「……」
彼女は私の腕をぎゅっと抱いて、一点を険しい顔で見つめていた。
まるでそう。
にらんでいるような――?
「いこっ!」
「え、あ、ベイル様、失礼いたします」
「あぁ」
引っ張られて私は一礼もできずにその場を後にしてしまう。レイカリラに至っては彼になにも言わぬまま。さすがにこれはまずい。
「レイカリラ」
「なぁに?」
「あの、さっきのはよくないよ。ちゃんとあいさつしなきゃ」
「いいの!」
よくはないでしょう。
それはきっと、彼女自身もわかっているはずなのに。
「レイカリラ……」
どうして、振り向いた君がそんなに泣きそうなの。まるでおもちゃを取られた子供のように。
そんな顔を見ると、あぁ、と思ってしまう。
きっと、私とベイル様が話しているのが気に入らなかったんだ。そう、わかってしまって。
「ごめん、レイカリラ」
「え、あ、ううん! 違うの、シェイレーヌは悪くないよ。ごめんね、私の方が悪かった」
それは、なにが悪かった?
聞きたいけれど、ここは社交場。今日は誕生日パーティー。雰囲気を悪くすることは、しちゃいけない。だから微笑んで。
「じゃあ、仲直りにしてくれる?」
聞けば、彼女は花のように笑う。
「っうん! そうだ、紹介したい人がいるの。来て!」
ぱっと笑った彼女に、どこか心に影と、いつも通りの癒しを宿しながら、私は彼女に導かれるまま、足を進めた。




