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今はただ「この」己に掛けて −複数の加護と前世の「知識」を持つ俺は、親友勇者と離れアイデンティティを保つ−  作者: ダメ親父
第二章 離別

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突き付けられたもの

何を見たというのか。

こいつがあんな醜態を晒すのは、目の前で見た今となっても理解が追いつかない。

まだ呟き続けているうわ言は、自責の念を強く感じさせていた。


同時に。

「お前も共犯だ。」

そう言われてるような気がしてならなかった。

こいつはそんな事は言わないし思わない。

わかっているのに。


「失礼ですが棺を確認させて頂けませんか。」

若干強張る声が出て、自分でも驚いた。

なんとか平静を保とうとしたが、出来ている自信はなかった。


「ああ、かまわない。

だが手短に頼む。」

オイラー子爵は困惑した様子ではあったが、許可してくれた。


両開きの棺の小窓。

片側だけ開いていた。

あいつが倒れた拍子に片方は閉じたんだろう。


そっと覗くとゾクッとしたものが背中を走った。

クルガンさんの虚ろな瞳と目が合ったからだ。

いや。

合ってはいない。

そう感じただけだ。


死体特有の青ざめた肌色。

棺にかけられた、腐食防止の冷却魔法が解けかかっていた。

そのせいで閉じたはずのまぶたが時間経過で開いてしまったんだろう。


騎士の礼を執る。

近くで見ていたオイラー子爵に断りを入れた。

「失礼。」

短く。

震えそうになる指先をなんとか鎮め、クルガンさんのまぶたを閉じた。

もう一度騎士の礼を執る。

小窓もそっと閉じた。


俺にも自責はある。

もっとましな方法があれば、それを取れていればこの人を死なせずに済んだのかもと。

いまさらなのは承知の上で。

あいつは「いまさら」と思える質じゃない。

引きずり続けてたんだろう。


まだ爺様とジャスミンさんに介抱され続けているあいつを眺め、思わず苦笑が漏れた。

「ひどいな。」

俺が。

あんなには強く後悔できない。

そんな自分が小さく思えて、自分自身を笑ってしまった。


結局バルに担ぎ上げられて大聖堂の中に運ばれていく友を、馬鹿みたいに見送った。

どうしても足が動かなかった。

情けないことだ。


「大丈夫ですか?」

リフが聞いてきた。

どうやら本当に心配してるようだ。

声音がそんな感じだった。


「あいつなら大丈夫だろ。

俺も驚きはしたけど、なんだかんだあいつは強いから。

勇者様だしな。」

そう返した俺への返事は予想外のものだった。


「違いますよ。」

「えっ?」

「ひどい顔色ですよ、ジェスさんも。」

「ドラゴンも人の顔色がわかるんだな。」

首を下げ真正面から覗き込むような目で俺の顔を見てくる。

皮肉で返したが、上手くいかなかったようだ。


「ええ、僕優秀なんで。」

軽く鼻面をひっぱたいてやった。

「大丈夫そうですね。」

幾分、ほんのちょっとではあったが背中が軽くなった気がした。


「おとなしく待ってろよ。」

「もちろん。」

入り口の中へと消えた親友に付き添うため、深く息を吐き出して一歩を踏み出した。


大聖堂の一室。

運び込まれてすぐに、親友の意識状態は回復した。

特に治癒魔法とかもなしに。

ただ顔色は良くない。

「ごめん、取り乱したりして。」

こちらを見ずにそう言った友の横顔は、反省などではなくどこか怯えているように見えた。


「今日はこのまま休んでろよ。

報告は俺たちで済ませてくるから。」

手元に視線を落としたままコクリと小さく頷く姿は、七年も前に後にした孤児院時代の子供の頃がダブって見えた。

こいつが最後まで誰とも目を合わせようとしないのは、恥じていたから、バツが悪いからではないんだろうな。

自責から抜けきれない。

そんなところだろう。


ジャスミンさんに後は任せ、俺達は揃って部屋を出た。

「いいのかよ、放っといて。」

「どうしろって言うんだよ。

俺に出来ることなんてない。

ジャスミンさんが付いてるしね。」

声を落として言ってきたバルにそう返した。

それ以上でもない。

実際俺にやれることもなければ、やらなきゃいけない事も残っていた。


リフの背に乗り大聖堂を後にして、報告諸々のため俺とレミドは王城へ。

バルは、

「帰るわ、顔を出しとかねえとうるせえのが多いし。」

と言って帰宅。

「儂は残るぞ。

アヤツのこともあるし、教会への報告はこっちでやっておくでの。」

そう言って爺様は残った。

四方からチラ見してる女性神官達の為、ではないと思いたい。

まあそれ込みだろうな、普通に腹立つわ。

外に出て笑い声を上げる子供に群がられてたリフに目眩がしたのは、どうやら俺だけだったようだ。


報告はつつがなく終わった。

俺一人で。

リフはレミドに引っ張られて、リッチの引き渡しに行った。

怯えた表情でこちらを見ながら、

「えっとあの、ジェスさん?!」

とか言ってたが自業自得だ。

リッチを飲み込んで捕獲、とかいう馬鹿げた方法をとったリフが悪い。


カーソン陛下は臨席しなかった。

執務で忙しいらしい。

さらに忙しいはずのグレゴリオ・ウォルダート公爵閣下に皮肉たっぷりにお小言を頂きはしたが。

「百年の相互不可侵とはな。

カーリアンといい君といい、内政に専念しろとご所望だ。

ありがたいことだよ、全く。

そもそも外征など考えてもいなかったとも。

私も陛下もだ。

我々親子がこのタイミングで外征など。

人員の補充、参陣した貴族家への補償、遺族への慰撫、市井の民への対策。

やらねばならぬことが山積みで頭が痛いというのに。

おまけに古竜種の仔を拾っただと?

更に目眩までさせてくれるとは、実にありがたい。」

この後もしばらくお小言は続いたが、

「まあよい。

此度はご苦労であった。

其方もゆっくり休め。

褒美は追って沙汰する。

悪いようにはせん。」

そう言われ退出した。


まあリフのことは言われても仕方ない。

拾ったのは俺じゃないけど。

まあ黙認したしな。

実際頭が痛いだろうし目眩もしよう。

グレゴリオ閣下といえどもだ。

だが俺が相互不可侵を取り付けた意図を正確に読んでいる。

怖い人だよ、全く。


そしてモレッド前侯爵様。

この展開も読んでたんだな。

現場にいないにも関わらず。

敵じゃなくて本当に良かった。


そして今。

俺の前にはバーレスト侯が立っていた。


「此度の働きも見事なものだ。

流石と言わせてもらおう、ジェスター君。」

柔和な笑顔からは真意が読み解けない。

この人のポーカーフェイスなんだろう。


「好手と言わざるを得ない。

百年の相互不可侵はな。」

どこにこの話が向かっているのか。

この時点では読めない。


王城の一室。

侍女さんに促された先。

優雅に紅茶を嗜みながら、長く敵と認識していたバーレスト侯が待っていた。


「身構えなくてもよい。

君の敵ではないよ、もう。

君の出立前に言った言葉では伝わりにくかったと思ってね。

改めて機会を設けたのだよ。」

そう言うと自身のものと、俺の前に置かれたカップのお茶を入れ直させた。

そして先に口をつけた。


「飲み給え。

いい茶葉でね。」

まあ口の中がカラカラに乾いてるしな。

付き合いますよ、閣下。


薄切りの柑橘を一枚。

シュガーポットから砂糖を二杯。

ティースプーンでさっと一回し。

香りを楽しんで一口含む。

ああ、確かに美味いな。


「君は此度の争いで幾つの貴族家が断絶したか、把握しているかね。」

「いえ。」

「十三だ。」

一気に胃の腑が重くなる。

王国の全体の戦死者数はおよそ五千。

復帰困難と合わせると一万名ほど。

連合軍全体では八万強も及ぶという。

その中で国としてはアゼストリアが最も消耗していた。

魔王討伐後に決戦場に戻って俺達も治療はした。

とはいえそれは誤差の範囲でしかない。


「断絶したのは下位の貴族たちだ。

伯爵家も含めてね。」

つまり?

何が言いたいんだ?


「王国内で貴族の再編が進む。

文人貴族中心にね。

当然だ。

絶えたのは武門貴族ばかりなのだから。

武門貴族の次男三男辺りから穴埋めはあるが、埋めきれる穴ではないのでな。」

どういう意味だ?


「案外察しが悪いね。

私の力が削がれ、文人貴族が力を増す。

君たちが望んだ方向ではないのかね?

だがそう単純な話ではない。

今度は文人貴族が君たちの敵に回ると言っておるのだよ。」

「なっ。」

「考えても見給え。

今後百年、我が国は対外戦争から遠ざかる。

魔王がいなくなったとはいえ、魔物の被害が消えたわけでもない。

君たちは国内外の慰撫と安定に走り回るのだろう?

危険視するのは他国だけの訳がなかろうて。

むしろ君が狙ったであろう他国から我が国が脅威だと思われないための策が、内から脅威とみなされるのだ。

君が現場を離れる。

文人貴族がこれを分断の好機だと捉えぬとでも?」

あり得るよ、確かに。

嫌われてる自覚があるからな。

こと縁遠い貴族たちに。

だが結局、文人貴族家を中心に俺たちを頼るんじゃないのか?

練度が低い文人貴族家騎士団では対処困難な事案を中心に。


「我ら武門と同じように、文人派閥も一枚岩ではない。

カーリアンが現役を離れてなお相談役に納まってはいるが、影響力は当然低下している。

ならば権力争いは激化する。

というか既にしている。

水面下でね。

もう何年もだ。

彼奴らは武を用いず立身した、知の怪物たちだ。

十三家も絶えた今、武門は立て直しで精一杯。

ここぞとばかりに文人貴族家がこぞって君たちに目を向けるだろうとも。

だが君たちを取り込みたいが、君という存在が邪魔だ。

王家と繋がり、文武の上位層と繋がり、施策は手堅く、それでいて権力欲が薄い。

目障りだという自覚をもっと強く持たなくてはな。」

ぐうの音も出ないとはこのことだ。

ご尤もとしか言いようがない。


「なぜこのような忠言をいただけたのですか?」

俺にしてみればこれが一番わからん。

敵対する意味がなくなった、そう言われていたとしてもだ。


「私が困るからだとも。

君でなくてはアーネストリー君は制御しきれまい。

制御不能な武力など武門として看過できようはずもなし。」

そうですか。

ありがたいね。

俺はあいつの安全弁か。


「君が操っているとは言っていないがね。」

「………、どういう意味です?」

「彼は彼で切れ者だ。

傑物なのは間違いない。

だが彼には大きな弱点がある。」

そこで言葉を区切ると、長年の仇敵は紅茶を一口含む。


「実はこの紅茶というのが苦手でね。

まあよい。

彼は正義に弱い。

正しさに染まりやすい。

君のような多視点を持っていないからだ。

分析したからね、私も。

どう排除しようかと。」

こちらを見る目が言外に語っていた。

君もわかっているだろう、と。


それ以上の言葉はなくバーレスト侯は席を立った。

残された俺は手元のカップを一息に飲み干すと、キリキリと痛むこめかみを揉みながら、侍女さんを促して王城から退城した。

はい

全然、結婚式やらないですね

ダメ親父もドン引きです(ダメじゃん!)


まあ次はやりますよ、結婚式、恐らくは多分………

話の中心がそれになるかは、脳内アニメの展開次第ですが………


最後に、お読みくださった方々、ありがとうございます


モチベにつながるので、ブックマークをお願いします

感想を、こうポチッと評価やイイネして頂けたら、ダメ親父は一人「喜びの舞」をするでしょう


「こりゃ、駄目だ、ダメ親父だけに」とか思ったら………

その時はそっ閉じで


それではまた次回で!


次回 祝いの宴へ(6/13 19:00予定)

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