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今はただ「この」己に掛けて −複数の加護と前世の「知識」を持つ俺は、親友勇者と離れアイデンティティを保つ−  作者: ダメ親父
第二章 離別

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祝いの宴へ

用意された馬車を固辞し、徒歩でバーゼル伯王都別邸まで歩くことにした。

王城を出て堀を渡る時、西日の眩しさがやけに目に染み疲れを実感させられた。

長いこと話してたからな。

グレゴリオ閣下とも、バーレスト侯とも。


数ブロック先。

だが離れていてもバーゼル伯王都別邸前で、なにやら騒ぎが起きていたのがわかった。

何事かと思って身構えたが、着いた途端に脱力させられた。

リフが前庭で狭そうに蹲っていたからだ。

器用だな、植え込みの隙間に尻尾を通してやがる。

というか何やってんだこいつ。


「ジェス様、助けて!

あの人たち、怖いんです!」

薄っすら何があったか浮かんでしまって、ため息が漏れた。

大方、レミドかポーラに何かされたんだろう。

てかそれしかないな。


「なんで俺んとこに来るんだよ。

大聖堂に行けばいいだろ。」

「だってアーネス様は伏せってますし、ジャスミンさんもなんか怖いし、ジード様はなんかその………、忙しそうだし!」

爺様、いや何も言うまい。

とはいえだ。


「いやだからって、なんで俺。」

「普通に考えて市街地のバル様のところには行けないじゃないですか!」

これ、一度は上まで行ってるな。

各所を回ってここが一番マシだと。

王都の民がどんだけ騒いだ事か。

もうため息しか出ない。


「なにされたんだよ。

リッチはちゃんと吐き出してきたんだろうな。」

「はい、それはもちろん。

でもなんか薬品とか、なんかわからない道具を用意されて、リッチなんかそっちのけで群がられてしまって………。

怖いんです、あの人たち!

笑ってるのに、殺意も感じないのに、みんながみんな目がこう決まっちゃってて!」

頭痛いな、おい。

めちゃくちゃ想像できてしまった。

やけに鮮明に。

俺にどうしろと。


「くくくっ、随分と懐かれておるではないか、ジェスター君。」

いやね、笑い事じゃないんですよ、ジラルド閣下。

いたなら対処しといてくださいよ。

口には出来ないが。


「よいよい。

英雄たるものこうでなくてはな。

規格外にもほどがあるが。」

いらっしゃったんですか、バーゼル前伯。

なんであなたまで居るんですかね。

まあこれも言えないけど。


「見てくださいよ、これ!

羽の一部を切り取られたんですよ!

なんか塗りたくられたと思ったらいきなり!

痛くなかったのが逆に怖かったんですぅ!

助けてくださいよぉ、ジェス様〜!」

わかったから。

もう喚くな。


「ここにいさせて大丈夫ですか?」

「裏の方が広いのだがね。

何故わざわざドラゴンには狭い前庭に降りたのか。」

確かに。

ジラルド閣下の言う通りだ。

裏には家騎士団の修練場があるし。


「まずはジェス様に会わないとって。

待つならこっちでしょ?」

いやな、俺の裁量でどうにかなる問題じゃない。

そもそもだ。


「てか、俺がここに来るってなんでわかったんだよ。」

「匂いです。」

「は?」

「ジェス様の匂いも、他の皆さんの匂いも残ってるから。

ここに集まったことがあるんだなって、何回も。」

「嘘だろ、それ。」

「ごめんなさい、嘘です。

微かな残留魔力が正しいです。

どっちも人類には感じ取れないものだから、わかりやすくしようかと。」

「はいはい。」

こいつ、しれっと嘘をつくんだよな。

害がない嘘だからいいけども。

めんどくさいわ、マジで。


「裏に回れ。」

「ありがとうございます!」

手配が整い次第、直接リフに声をかけるようにジラルド閣下にお願いして、部屋に上がらせてもらった。

なんか、ドッと疲れたな。


「さて婚礼の打ち合わせをじゃな。」

終わってなかった、何も。

好々爺とした雰囲気を出して、バーゼル前伯が俺の部屋についてきてこう言ったからだ。

手にはミードの酒瓶を持ってるし。

手ずからグラスに注ぎ始めてるし。

当然だが、この人に帰れとは言えない。

ジラルド閣下に代替わりしてるとはいえ、実質前伯の家だしな、ここ。


「まずは飲め。」

ありがたくいただく。

前に飲ませてもらった、バーゼル伯家で作ってるという「草海の雫」。

美味いのよね、これ。

酒は色々飲んだけど、これが一番美味いかもしれない。

少なくとも俺は好きだ。


「婚礼を執り行う教会と日時はクラウディアと決めてある。

両親ともに喜んでおったぞ。

もちろん持ち出しの心配などせずともよい。

王家と当家で持つからのう。」

「あの。」

「なんじゃ?」

「なんで前伯様まで来てるんです?」

「トルレイシア孤児院は儂が運営しとる。

つまりは儂が君とアーネストリー君の親代わりと言って差し支えなかろう。」

いや、差し支えるよ。


「バーゼル伯家で、でしょう?」

「何が違うというのじゃ。」

はいはい。


「安心せい。

君が嫌がったというから、参列者は抑えた。

パーティメンバー、儂、クラウディアの両親、以上じゃ。」

「それならまあ。」

「そうじゃろう?

まあ、一般観覧は制限できなんだがな。

王家の、というかグレゴリオ閣下の御意向で。」

嘘でしょ?


てかこの内容ならディディから聞きたかったわ。

なんで前伯がここまで出張るのよ。


「顔に出ておるぞ。

決まっておろう、君らだけで決められる事柄を超えたからじゃ。

君が、当家の家臣と、婚姻を結ぶ。

王都でやるのは王家も認めておるから。

対外的に知らしめるからに他ならん。」

いやまあ、そうなってもおかしくないけど。


「君にも責任があるのじゃぞ。」

「家族を持つ重みでしょうか?」

「違うわ、うつけが!

婚姻の事実を周囲に知らせなかったであろうが。

魔王討伐前に知らしめておけば、ここまで大事になっておらん。

過小評価しすぎなんじゃ、君は、自分を。」

「すいません。」

「謝ってももう遅い。

肝が冷えたぞ、全く。

グレゴリオ閣下から、

『ジェスター君の婚礼の件』

と書かれた文が届いた時はな。

慌てて確認すれば、確かに我が領で婚姻証明が発行されておったわ。

我が家臣のクラウディアとのな。

事前になんの根回しもなくじゃぞ?

他家からどんな苦情が入るかと思うと、嫌な汗が止まらんかったわ!

英雄の私物化なんぞと言われかねんのじゃ!

クラウディアも、クラウディアじゃ。

しれっとメイドと護衛を続けておったわ。」

ディディに関しては、だろうなとしか言えない。

喜んでくれたけど浮かれるタイプじゃないし。

即新婚生活突入じゃなければ、日々の生活を変えそうにないもんな。


「今更じゃがな。

して新居はどうするつもりじゃ。

このまま王都に残るのか?」

「あっ、いえ。

自分はバーゼル伯領に戻ります。

元々そのつもりで。

それにパーティの裏方業務を引き受けたので。」

「それも先に言っておかんか!」

「すいません。」

久しぶりだな、ここまで怒られるの。


「それなりの借家を一棟丸ごと買い上げようかと思ってまして。」

「駄目に決まっておろうが!

ほぼ名誉職とはいえ公爵になるのじゃぞ、君は?

当家の面子にかけてそのような真似をさせられるか!」

そう言われても。

頻繁にあいつらが来るだろうし、借家を丸ごと買い上げの方が都合がいいんだけどな。

ああ、リフが増えたんだったか。

駄目だな、庭とかないと。

領都の借家じゃ降りるところがないもんな。

そういう話じゃないのは、まあわかったけども。


「どこか、土地を下さい。

借地にしてもらっていいので。

リフィルシャールが飛来しても対応できるように、庭付きの家を建てますから。」

「実務の話にずれは無いが、思考の出発点がおかしいとわかっておるのだろうな?」

ため息交じりで言われましても。


「いや、まあ。

今日だけで既に二人からお小言を頂いておりますし。」

「誰からじゃ、一人はグレゴリオ閣下にしても。」

「バーレスト侯ですよ。

文人貴族がちょっかいをかけてくるだろうって話も込みで。」

「言いそうじゃのう、あやつならば。

そこいらの有象無象よりは、よっぽど文人貴族に向いておる。

して、対策は?」

「まだ何も。

うまいことグレゴリオ閣下が抑えてくれたらいいなとは思ってますが。」

「お主のではないわ、全く。

アーネストリー君を切り離しにかかるじゃろうて。

君は染まらん、黒じゃからな、本質が。

アーネストリー君は良くも悪くも白じゃ。

正しいと思った方に流れるじゃろう。

此度の停戦で、君は割と無茶をしたと聞いておる。

君たちの間に小さな猜疑が生まれておらんと言い切れるのかね。」

否定できない。

これっぽっちも。


あいつが、

「おれのせいで。」

と言ってたのは九分九厘まで自責だ。

でもそこには、

「決戦場に戻っていれば。」

というのが少なからずある。

それを正論で否定し、半ば強引に押し切って王都に帰還する事にしたのは、他ならぬ俺だ。

無にはならない。


アイツの世界の言葉、

「覆水盆に返らず」

「吐いた唾は飲み込めない」

とは、よく言ったものだ。

今の俺にぴったりだな。

自嘲すら漏れない。

かと言って全て俺が悪いなんて思えるほど、素直にもなれないが。


「段取りはこちらで全て仕切る。

というか、ほぼ終わっておる。

三日後じゃ。

まずは休め。

残りは置いて行くからな。」

そう言って、グラスを呷った前伯は席を立った。

立ち上がり騎士の礼を執る事で見送った。


湯に浸かり、食事を取った。

食後、一瓶飲み終えたが、全く酔えなかった。

神様たちが用意したこの体のおかげか、内にあるモヤモヤした物のせいか。

それはわからない。

どうにも抑えられずより強い酒をもらおうと、メイドさんを呼ぶ紐を引くため立ち上がった。


同時に。

小さくノックが鳴った。

心臓が跳ねる。

嫌な跳ね方ではなかった。

わかっていた。

というか瞬間的に理解した。


気持ちを抑え、そっとドアを開けた。

ディディが微笑みながら立っていた。

言葉もなく。

俺はディディの手首を掴み引き寄せた。

体が熱かった。

顔も、耳も。

どこもかしこも熱かった。


「お帰りなさい、ジェス。」

胸の中に納まったディディの声は、やけに耳に優しかった。

声を聞いて俺の中の何かが崩れ落ちた。

止められなかった。

自分でも呆れてしまうほどに。

それでもどうにもならなかった。

ただ子どものように。

彼女の胸に顔を埋め、ただひたすら泣き続けた。

泣き疲れ眠ってしまうまで。

ただただ、彼女にしがみついて。

気付けば朝になっていたほどに。


三日後。

ほどよく晴れた朝。

礼服を纏い、婚礼の会場となる教会に向かうため馬車へと乗り込んだ。

不思議と気分は凪いでいた。

いよいよたどり着きました、結婚式

いやぁ~、長かった


まあ主にリフのせいです

あとポーラ


ジェスの、

「ああ、リフも増えたんだった」

はダメ親父の内心に近いです


ポーラに関しては、SSで登場させる予定だったのですがね

なんか勝手に出て来ました


ダメ親父の予定を無視するキャラが多いんですよね、ホントに


それはお前の腕のせいでは?

はい、ご尤も

m(_ _)m


最後に、お読みくださった方々、ありがとうございます


モチベにつながるので、ブックマークをお願いします

感想を、こうポチッと評価やイイネして頂けたら、ダメ親父は一人「喜びの舞」をするでしょう


「こりゃ、駄目だ、ダメ親父だけに」とか思ったら………

その時はそっ閉じで


それではまた次回で!


次回 第二章最終回(予定で)「遠雷」(6/21 19:00予定)

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