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今はただ「この」己に掛けて −複数の加護と前世の「知識」を持つ俺は、親友勇者と離れアイデンティティを保つ−  作者: ダメ親父
第二章 離別

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後始末

「ごめん、俺が悪かったよ。

わざわざ来てくれたのにさ。

それに正論をぶつければ何とかなるって思ってた。

俺だって世の中が綺麗事だけで回ってないって、とっくにわかってるのに。」

いまいち寝付かれず、仄かに重い頭を振ってテントを出た俺に、駆け寄ってくるなり詫びを入れたこいつの顔は、どこか晴れやかだった。


「気にしてないよ、いつものことだ。」

「ひどいよ、ジェス。

めっちゃ考えて謝ったのに。」

笑顔をむくれっ面に変えて軽く俺の肩を小突く。


ため息を吐きながら、

「それだって、いつものことだろ。」

そう返し少し笑った。


いつもの事。

そうしたかった。

俺もこいつとの距離感が変わったことに気付いてる。

でもそれでいいと思ってる自分がどこかにいた。

距離を取ろうでも、取りたいでもなく。

もうそうなってる、という感覚だった。


「それで皆は?」

まだ少しむくれている親友に問いかける。


「バルは身支度を始めてる。

レミドと爺様は魔禽の手配をしてから、リフの様子を見に行ったよ。

全員、食事も終わらせてるよ。」

「なんだ、もう除け者かよ。」

「違うよ。

呼びに行った爺様が、寝苦しそうにしてるからもう少し寝かしておこうってさ。

一番気を張ってたのがジェスだからって。」

やっぱり爺様は怖いな。

飄々としてるのに、ちゃんと人を見てる。

付き合いがもう長いってのは抜きにしても。


「おれも悪かったよ。

いつものことって思ってた。

後で責めるくらいなら、どう纏めるか予め話しておくべきだった。

今回なんかは特にな。

お前が嫌がりそうな手段なんだし、なおさらだ。」

いつの間にかしょんぼり顔になっていたこいつに向き直り、真っ直ぐに目を見てからそう言った。


俺の言葉に驚いたように目を見開く。

口元も半開きで、ちょっと間抜け面になってた。

それを見て思わず笑いそうになったが、グッとこらえた。


距離感が変わる。

それはいい。

でも嫌いになったわけじゃない。

嫌われたいのでもない。

俺は俺。

こいつはこいつ。

当たり前になるだけの話だった。

こいつがそれを受け入れるかどうかは、もちろん別の話ではあるけれど。

だから今は笑うわけにいかなかった。


「うん。

いや、あの、えっと。

うん、ありがとう。」

クルクルと表情を変えながら、最終的には眩しい笑顔になってまた俺の肩を軽く小突いた。


「どういたしまして。」

俺も小突き返す。

えらく久しぶりに、互いに笑い合った。


出発していく居残り組の王国軍二個中隊を見送り、俺たちは帰路について話し合うことになった。

主にリフの扱いについてだが。


背に乗って飛んでいけば速いのは間違いない。

ただ速いが故に報告の魔禽を追い越してしまうってのが問題だった。

あと事前報告なしじゃ、王都の民は間違いなく腰を抜かす。

早くも頭痛の種が芽を出したようなもんだ。


それにここでやる事がまだ残ってる。

「取り敢えず、ザーベック軍がやってる魔物退治の手伝いだ。」

俺がそう切り出すと、早速バルが肩を回し始めた。

やる気満々だな、おい。


「どんな種がどれだけ残ってるんだろうね。

今だって魔族たちは戦ってるんでしょ?」

確かにそこは気になる。

俺たちが何でもかんでも手を出せばいいってものでもないしな。


「アーネス様。」

竜らしくなく、香箱座りをしていたリフが首を伸ばして口を開いた。


「何、リフ?」

「上空から見た限り、亜竜のフミクルソスが人間的には一番の脅威だと思います。

数も多かったですし。

モルビフェスシーミアも人から見たら嫌かもですが。」

確かにそれは嫌だ。


「フミクルソスかよ。

デケえくせに速えんだよな、やつら。」

嫌そうな口調だが、バルの顔はニヤついている。


「モルビフェスシーミアとな。

また厄介な。

猿どもが撒き散らす病の素は、拡がりだすと止めるのは至難じゃぞ。」

爺様の顔が珍しく強張る。


要は速くてデカいブレスがないだけの竜もどきの群れと、致死率が高く伝染性が強い病原菌の保菌者になっている大猿が暴れてるってことだ。

情報だけでうんざりした。


「リッチもいましたねぇ。

周囲は死者がドンドン、アンデッド化して無限湧きって感じになってましたよ。」

それはもう、うんざりを超えてる。

てか呑気か、リフよ。


「ウフフフ、生け捕れないかしら、リッチ。」

じゃねえよ、レミド。

この状況で笑いながら言うな。


そして全員で俺を見てくんな、めんどくせえな。


「いままで上手くいってただけで、俺は戦術家でもなんでもないんだけどな。

まあ言ってもしょうがない、手は考える。

それまでに爺様は猿の病対策を練ってくれ。」

と言っても採れる策なんてそうはない。


病気にかかりにくい俺と爺様で猿を。

亜竜の対処は三人に任せる。

リッチはリフに任せるのが楽だろう。

問題はリフを戦場に参戦させた時の、魔族側の混乱だが。


まあいいか。

ザーベックには一応、リフのことを伝えてあるし。


「て感じで。

俺たちが参戦したら、ザーベック側は退いてくれる手筈だしな。

キツいところだけ俺たちが当たるってことで。

問題や反論は?」

「無え。」

「いいんじゃないかしら。

生け捕りにしてよ、リフ。」

「ふむ。」

三人に異議はなし。

てかレミド、黙れ。


「猿には俺と爺様のほうがいいんじゃないの?

ジェスが亜竜の対処に回ってさ。」

言わんとすることはわかる。

正直、どっちでもいい。

倒すだけなら、どうという事はない魔物だ。

病気の耐性は似たり寄ったりだし、戦闘スタイルにしてもそう変わらない。

俺がややカウンター寄りってだけで。


「いや、今回に限ってアーネスよりジェスがよい。」

爺様がピシャリと言い切った。

「え?」

俺たちはおそらく同じような顔で、同時に爺様を見た。


「感染者の選別が必要になった場合、お主では反応が遅れる。

諦めるまでの僅かな差が被害の拡大に繋がるのじゃ。」

なるほどね。

俺も自分が薄情だとは思いたくない。

だが諦めの速さは確かに俺のほうが上だ。

何よりこいつにトリアージは酷だろう。


「そう、だね。

うん。

わかった。」

納得はしていない、そんな雰囲気をあからさまに出していた。

でも飲み込んだ。

これはこいつの成長と言えたかもしれない。

度量が増えた、そう言えるのだから。


訪れた戦場は想像を超える地獄だった。

穴という穴から血を噴き出し息絶えた感染者。

ザーベックの兵たちも迂闊に近寄れず、まだ息があるものを救出することさえ困難になっていた。


少し離れた戦域から届くのか、リッチの瘴気に当てられてアンデッド化した感染者が味方の兵に喰らいつき、さらなる感染者とアンデッドを増やしていた。

それも指数関数的に。


「元を絶たねばのう。」

爺様は誰に言うでもなく六角棍を扱いて前に出る。

棒術を見るのは久しぶりだ。

円運動の中から唐突に、角度もタイミングも不規則に繰り出される突き。

打ち合いで何度喰らったことか。

マジで出どころが見えない。

警戒すると打ち据えられるし。


俺もあいつも、爺様から棒術で一本取れたことがない。


「爺様、アンデッドを処理して。

猿どもは俺が。

すぐ終わらせるよ。」

数は三体。

思っていたより随分デカい。

灰色の剛毛に覆われた、人に近い顔立ちの猿が暴れ狂っている。

汚れて縮れた毛の一部が塊になって、不潔さを顕にしていた。


まずは引き上げていく魔族たちから、こちらに気を向けさせないとな。

一撃で倒せなくもないだろうが、それだと魔族たちを巻き込みかねない。


抜き放った剣をだらりと下げ、駆け寄りながら魔術を発動させる。

敢えて殺気を抑えず、とにかく荒々しく。

三方に分かれて暴れる猿どもの後頭部を目掛け火球を放つ。

着弾と同時に爆ぜさせた。


並の魔物なら殺せる威力は込めていた。

が、毛を焼き火傷を与えはしたが弾かれた。

どんな表皮と骨格だよ。


「手伝おうか?」

同時に複数のアンデッドを地に返しながら、こちらを見もしないで言ってくる爺様は余裕そうだ。


後頭部を掻き毟り、咆哮を上げた猿ども。

一斉にこちらに向き直り、突進してきた。

悲しいかな、所詮は獣だ。

後ろに敵、その程度の認識だろう。


病原菌持ちにはこれが一番だろう。

ザーベック軍が十分に距離を取ったのを確認して、一気に火力を上げる。

術式は構築済みだった。

後は際限なく魔力を込めるだけ。


「ごめんな。

俺も動物は好きなんだけどな。」

蒼炎が渦を巻いて吹き上がる。

大猿たちの足元から、その背丈の倍を有に超えて。

炭化すら許さない。

焼失させる。


炎が輝きを増し白光した後に、骨片すら残っていなかった。


振り返ればそちらも順調そうだった。

爺様の足元には、数えるのが面倒なほどの死体が転がっている。

その顔は不死化を解かれ一様に穏やかな表情をしていた。

何なら大きな外傷すらない。


爺様は特別速いわけでも、パワーがあるわけでもない。

単純な体力でも俺達の中では低い方だろう。

何ならレミドよりも。


でも爺様がバテる姿は想像できないし、魔法を絡めないなら手数の多さはパーティ随一だろう。

てか普通に化け物が過ぎるんだよな、爺様は。


一連の動きからフワリと飛び、何気ない感じでトンッと地面に棍を突き立てた。

まるで舞うが如く。

刹那。

視認できるほどの輝きを放ち、魔力が放射状に拡がった。


いや。

どこまでも拡がっていく。


「なんだよそれ。」

思わず呟いていた。

魔力の光に囚われた端から、アンデッドたちが崩れ落ちる。

爺様の足元の死体たちと同じく、穏やかな顔で。


「終いじゃな。」

何の感情も浮かべていない顔でそう言った爺様は、そっと自分の顎髭を整えた。


浄化の光。

俺にも使える治癒魔術だった。

だがその規模は、普通に常軌を逸していた。

特化した人間とはこうも異質なのかと、改めて強く認識させられた。

え〜伸びに伸びております

まあかさ増しにはなってないと思いますので、今しばらく二章をお楽しみください

m(_ _)m


最後に、お読みくださった方々、ありがとうございます


モチベにつながるので、ブックマークをお願いします

感想を、こうポチッと評価やイイネして頂けたら、ダメ親父は一人「喜びの舞」をするでしょう


「こりゃ、駄目だ、ダメ親父だけに」とか思ったら………

その時はそっ閉じで


それではまた次回で!

次回 帰還と徒労感と(明日5/31 19:00予定)

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