三度の決戦場
「準備はよいか!
予定通りシャーリエン男爵家、オライオ子爵家から進発!
以降、軍議通りに続け!」
出発していく王国軍を見送り、街道上に立っていた。
既に日は傾き俺たちの影を引き伸ばしている。
「さて、こいつらの処遇だな。」
億劫そうにそう言ったバルの視線の先の二人、正確には一人と一匹は縮こまっていた。
無理もない。
大人しくなったとはいえドラゴンの隣。
そこに鎧を剥がされ座らされているのだから。
コルミアの指揮官殿は。
ドラゴンはドラゴンで、悄然としている。
まあ、解体されて行く元同族を見ているしか出来ないこの状況ではな。
「どうすんだよ。
そのおっさんだけならまだしも、竜なんざ生かして。」
わかってるっての。
仕方ないだろ。
ああもみっともなく命乞いされちゃ、お優しい勇者様じゃなくても殺せない。
というか誇り高い種族じゃないんかい、ドラゴンてやつは。
命乞いをされた時を思い出し、ため息を堪えきれなかった。
俺が魔力の波長変えて昏倒させてやったドラゴンは、誰もとどめを刺さなかったようだ。
俺は忘れない。
単に誰かがやった、そう思い込んでたのだ。
意識を取り戻しても、死んだふりをしてやり過ごそうとしていたんだとか。
しかし仲間たちが解体され始め、いよいよ自分もと思い、さめざめと泣いているのを我らが勇者様が気付いた。
「なんかかわいそうじゃない?」
思った通りの事を言い出して、どっと疲れた。
「バカか、お前は。
人を殺めてるんだぞ。
味を占めてたら今後も人を襲う。
処分する以外にない。」
バルが言うのはもっともだ。
しかもここは人里に近い。
ここに放置するわけにはいかないだろう。
「………てない。」
「あ?
なんか言ったか、ジェス?」
「俺じゃない。」
「食べてないです!
人類は食いでがなくて雑食だから美味くもない、って聞いてるから食べてないんです!
本当です!
殺さないで!
彼女が巣穴で待ってるんです!
魔王の影響下にあった時に怪我をしていたから休ませていた、彼女のもとに帰りたいんです!
お願いします!
なんでもしますから!
勇者様ですよね?
使い魔になります!
使い魔がおこがましいなら、ペット!
ペットで良いですから、殺さないで〜!」
地面に伏せ、凄い勢いで命乞いをする黒竜。
えらくシュールな絵面だった。
「こやつ、レッサードラゴンじゃないのう。
人語を操るとなると相当高位じゃぞ、竜種の中でも。
コドラット山のグリシャール位しか、儂も見たことがないわい。」
「それ、父です。」
「「「は?」」」
俺たちの声が見事に重なる。
レミドは舌なめずりをし、爺様は目を細めていたが。
コドラット山のグリシャール。
高名な黒竜で太古から生きる伝説の存在。
俺でもおとぎ話で聞いたことがあった。
なんでもブレスは岩をも溶かし、爪はいかなる金属すらも穿つという。
だが温厚で知識と平穏を好み、訪れたものには天啓にも等しい知恵を授けると言われている。
巣穴から出てきたのは、数百年前に子供が産まれた時に最も近い街に知らせに来た時だけだとか。
で、その子供がこれか?
………嘘だろ。
伝説の黒竜の子が命乞いって………。
軽く痛み始めたこめかみを親指でグリグリと揉む。
面倒くさい、どうしろってんだ。
わずか数十分前の出来事を鮮明に思い出し、またこめかみが痛みだした。
我らが勇者様ときたら、えらくキラキラした顔をしていらっしゃる。
こいつ、来た目的忘れてないよな。
「グリシャールに恩を売るいい機会じゃ。
助けてやればよかろうて。」
呑気か、爺様。
「定期的に剥げ落ちた鱗を貰えるなら、私も異存ないわね。」
打算か、レミドよ。
バルも。
やれやれじゃないのっての。
せめて口にしてくれ。
てか決まりの流れじゃねえか。
どうすりゃいいんだ、これ。
しょうがねえな、もう。
「お前、食事ってどうなんだ?」
上目遣いでこちらを見てくる竜。
厳つくて、可愛くない。
「竜種は基本、食べずとも生きていけます。
我らの体躯に見合った食事をしていては、周囲は更地になってしまうでしょ?
狩りは、人類が言うところのおやつと遊びなんです。」
そうかよ、うん。
わかるような、わからんような。
「父はここ千年。
食事どころか、何も口にしてないはずです。」
それは凄いな。
「子供は食べないと成長できませんが、それも食事というより狩りを学ぶという理由のほうが大きいですね。」
一旦、飲み込もう。
「これは貴重な話を。
せっかくです。
アーネストリー様の騎獣になってもらうというのはいかがですかな?
王国守護を兼ねていただいて。」
スプリンガー老伯が助け舟を出した。
うん、これはもう決まりだな、こりゃ。
これって、俺の頭痛の種が増えただけなんじゃないのか?
こめかみを揉む手が止まらない俺を他所に、勇者様は嬉しそうにドラゴンの鼻面を撫でていた。
「さて、貴殿の処遇だが。
俺たちがこの手で原隊復帰させてやる。
特別にだ。
それでよろしいか、スプリンガー伯。」
小さくなって目をキョロつかせていた、指揮官殿にそう告げた。
滝のように汗を流し、震えている。
無理もない。
竜の隣に座らされているより、今後の事の方がよほど気がかりだろう。
この男に預けられていた騎士兵士は逃げ散り、最早一人もいない。
当然、処罰は免れないだろう。
独断専行に目をつぶってもらえたとしてもだ。
そちらにも罰が与えられるのは間違いないだろうが。
アゼストリアとの国家間問題を無駄に大きくしただけだからな。
「構いませぬ。
国元まで連れ帰る事になっておれば、道中で病死されたことでしょう。」
コルミアに恨みを募らせた誰かにって事か。
まあ、あるだろうな。
それも高確率で。
「自害も許さん。
こちらには拳聖ジードがいる。
やったところで蘇生してでもお国に帰してやるよ。」
座りかけた目から、一瞬にして力が無くなった。
これでこいつは完全に詰みだ。
こうして、コルミアの一部との衝突は終わりを迎えた。
逃げ散った兵士達が、王国軍に襲いかかる可能性は勿論ある。
だが今まで以上に統率を欠くだろう。
そうなれば被害は最小限に抑えられるだろう。
それにだ。
「スプリンガー伯。
一つ頼まれ事をしてもらいたいのですが、よろしいでしょうか。」
「事と次第によりますな。」
「残党と接触した際に、勇者一行が口利きしてくれているから、原隊復帰せよ、そう伝えてもらいたいのです。」
「その程度ならば。
しかしジェスター殿はお人が悪いですな。」
まあね。
原隊復帰を受け入れろとは伝える。
しかし処遇は好きにすればいい。
これ以上は内政干渉も甚だしいしな。
見透かされているようなので、老伯には笑顔を返しただけにした。
一夜明け。
俺たちは王国軍から離れ、決戦場に向かった。
黒竜の背に乗って。
なんのことはない。
馬たちが黒竜に怯えて使えなかっただけだ。
見た目、凶悪な黒竜だもんな。
「リフ〜、速いね。」
「これでもかなり抑えております、勇者様〜。」
「勇者様はやめなよ、アーネスって呼んでいいから。」
「かしこまりました、アーネス様〜。」
こんな感じでゆるい会話をしているが。
指揮官殿はリフこと、リフィルシャールに摘まれている。
高空を高速で飛んでいる。
早々に意識を手放したようで、ぐったりとしていた。
大人しくていい。
出立時に最後の抵抗か、喚いてみせた。
「後生だ、見逃してくれ、逃がしてくれとは言わん。
せめて、せめて殺してくれ。
頼む!」
それに冷ややかな対応をしたのは、他でもない俺たちのリーダーだった。
「あなたが責を負わぬなら、他の誰かが負わされる。
それがわかっててこの場で処断してしまえば、俺もあなたと大差ない事になる。
それには耐えられない。
お断りします。」
リフとジャレていたこいつが冷ややかな目を向けたことで、どうやら完全に折れたようだ。
それ以降、リフに摘み上げられた時に小さな悲鳴を上げた以外は口を閉ざしていた。
決戦場から少し離れたところに降りてもらった。
黒竜が現れたとなると、騒ぎになるだろうからな。
攻撃されるかもしれないし、そんなのは御免だ。
徒歩で訪れた決戦場に在りし日の喧騒や緊張は既にない。
諦めと疲労感がそこら中に漂っていた。
いかがでしたでしょうか
二章も大詰めとか言ってるのに、ここにきて新キャラを投入してしまいました
えっ、だって湧いちゃったんだもん仕方なくない?
いや、はい………
開き直りは良くないですね
m(_ _)m
最後に、お読みくださった方々、ありがとうございます
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「こりゃ、駄目だ、ダメ親父だけに」とか思ったら………
その時はそっ閉じで
それではまた次回で!
次回 連合軍(サブタイは確定 次回、明日5/10 19:00予定)




