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今はただ「この」己に掛けて −複数の加護と前世の「知識」を持つ俺は、親友勇者と離れアイデンティティを保つ−  作者: ダメ親父
第二章 離別

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老将の言葉

「何を言うか!

魔王軍と結託し、遅滞戦闘などと連合軍をただ疲弊させるだけの献策をした挙句、我らが騎士団長をも謀殺した極悪人どもが!」

なんだそりゃ。

曲解にも程がある。

呆れ果てて、何も言えん。


しかもなんだ?

前に出ず周りをガチガチに固めて、ただでかい声で叫ぶだけのあれが、コルミアの指揮官だっていうのか?

よくあんなのに従ってるな。

いくら騎士団長を殺されたからといってもだ。

泥舟だとわかりそうなものを。


「言葉もないか!

大罪人どもが、英雄だ、勇者だなぞと片腹痛い!

若造を担ぎ上げ、ザーベックの鬼畜共と手を組んだアゼストリアの戦犯どもよ!

我らが滅ぼしてくれるわ!

そもそも撤退のタイミングがおかしいではないか!

いざ反撃という時に全軍撤退。

それこそが裏切りの証よ!」

なるほどな。

ただただ、くだらん。

だが多少なりは口が回るようだ。


「皆のもの、聞く耳なぞ持たなくてよい!

詐欺師の模造品など、恐れるに足りん!

掛かれ!

我らこそが、救世の英雄となるのだ!」

畳み掛けるねえ。

そして間を与えないと。

まるっきりの能無しではないのかもしれない。


王国軍は一瞬止まった隙に数歩引いていた。

油断なく構えている。

これだけ言われて顔色を変えていないところを見ると、この十日余りで同じようなことを言われてきたのだろう。


コルミアが武器を構え直し、雄叫びを上げたその時。

両軍の間に何かがごろりと転がった。


見れば氷漬けになった誰かの首。

状況的にコルミアの騎士団長か。


「連合軍の本陣より差し出された、貴国の騎士団長殿の首だ。

お返ししようではないか。

貴国の責を性急には問わず、国同士の話にしたかったが、そこな首の返還で納得いかんのであらばやむ無しじゃ。」

動揺するコルミアの騎士たちに向け大音声で告げたのは、王国軍の最前に歩み出たやけに威厳あふれる老人だった。

様子を見るにクルガンさんの代理指揮官といった感じか。


かの老人はさらに続けた。

「手始めに無理筋で我らを貶め、我らが英雄と勇者様を貶め、我らが総大将殿を斬った責を認めぬ貴公たちを覆滅せしめよう。

しかる後、ここより取って返しコルミアまで登ろうぞ。

我らとて騎士にして武人。

殲滅しなかったのを弱腰と捉えたなら、あまりに浅薄と言うものよ。」

本気のはずがない。

流石に、だ。


やろうと思えば、王国軍は実際にやれはする。

現状の戦力差は五倍以上。

決戦場に残るコルミア騎士団と合わせても、まだ二倍以上の戦力差がある。

ここで半数を殲滅してしまえば、五倍の戦力でコルミア首都を攻められるからだ。


しかしそうなると、コルミアは周辺国に泣きついて、この辺りの小国連合とアゼストリアの戦争という、目も当てられない事態になるだろう。

それか、単純にコルミアが見捨てられるかだ。

どちらにせよ、最悪には違いない。

王国には大した利がなく、コルミアは大打撃。

俺達にしても、そんな事にならないように出張ってきた。

だからこそ、老人の発言がブラフだとわかるのだが。


わかりきった脅しではあったが、コルミア側には動揺のざわめきが、わかりやすく広がっていった。


「そのような脅しに我らは屈せぬぞ!

ここで雌雄を決し、祖国を守るのだ!」

おいおい。

さっきと言ってることが変わったじゃねえか。

雌雄を決するも何もだ。

今さっき「手心を加えられてた」って暗に言われたのがわかってないのか?

いや。

わかってたら、こんな無理攻めはしないか。

夜襲するでもなく、昼日中に堂々と攻撃してるし。


何より。

俺の横で静かにブチギレて、これでもかと殺気を撒き散らしてるこいつに気付いてないのが、あまりにもお粗末すぎる。

最前のコルミア騎士団の方々は後退りし始めてるのに。


その時。

おもむろに足元の矢を拾ったバルが、ダーツでも投げるかのような動きで放った。

この場にいた人間の何人がその矢を目で追えただろうか。

それほどの速さで放たれた矢は、号令のために振り上げた指揮官の剣を弾き飛ばした。


「守られるばかりで使う気のない剣なんざ要らないだろ?

次はそのオシャレな兜でも行っとくか?」

半笑いだがバカでかい声でそう言ったバルは、ノッソリと次の矢を拾った。

そのまま流れるように投擲の動作に入る。


「ひ、退け!

撤退、いや後退だ!」

頭を抱え、身を低くした指揮官が叫ぶ。

あんなのに率いられる、コルミアの皆さんも可哀想に。


見れば装備が揃いじゃないのも、相当数いる。

脱走兵を取り込んで数を増やしていたのは、どうやら事実のようだ。


算を乱して逃げていく彼らを憐れむように見ていた爺様が、足元を見て鼻を鳴らした。

「せめて元指揮官の首くらい回収してやらんか、うつけ共め。」

そう言うと転がっていた首を拾い上げ、軽く土を払った。

氷漬けだったから、綺麗にはならなかったが。


ふと魔力に気付いて見上げれば、特大の火球が浮いていた。

「おい、レミド!」

慌てて止めようとしたが遅かった。

綺麗な放物線を描いて飛んだ火球は、逃げていく彼らの最後尾に着弾した。

同時に大爆発。

複数の、なんとも悲痛な叫びが幾つも耳にとどいた。

おくれてうめき声もだ。

余計なことを、死体蹴りかよ。

なんてすぐに浮かんだが、レミドも状況判断はしていたようだ。

心を折に行ったんだろう。

きっちりと制御されていた。

直撃は無し。

吹っ飛ばされたか、服や髪に火がついたか。

死人は出てないだけの話だ。


その瞬間、背後から一斉に笑い声が上がった。

おまけとばかりに、声高に煽り散らかしだした。

「おいおい、奴ら文字通りケツに火がついたぜ!」

「おとなしく帰って、母親にでも慰めてもらいな!」

「恥も外聞もないってのは、奴らから生まれた言葉だろうさ!」

いや、うん。

理屈としてはわかる。

戦場の心理として、心を折るってのはさ。

ただ顔色一つ変えず、笑顔ですらないのは怖いって、正騎士団の皆さん。


一通り煽った彼らは、老人がスッと手を上げると途端に静まった。

「わざわざ遠いところ、ご足労頂き感謝に堪えません、アーネストリー殿。

御一行の皆様にも心よりの感謝を。

一同を代表し、指揮官代行ラモン・スプリンガーが申し上げます。」

騎士たちを収めると、老人は俺たちの前に一歩進み出て綺麗な騎士の礼を執った。

てかさっきの煽り、やらせてたんか、この人。

なるほどね。

あの無表情の意味がわかった。


「久しいのう、スプリンガー閣下。」

「記憶していただけたとは、光栄の極みですぞ、拳の聖人殿。」

目を細めスプリンガーと名乗った老人に声をかけたのは、俺たち側の老人だった。

しかしここに来て聞いたことない二つ名が出てくるってなによ、爺様。

知ってる限りこれで六つ目っておかしいだろ。


「戦場を共にするのは何時以来ですかのう。

本当にお懐かしい。」

「はて?

儂は十六じゃから、それほど昔じゃない気がするのう。」

「ははは、相変わらずお変わりないようで。」

笑い合う二人の老人は知り合いのようだ。

というか爺様の十六歳ネタっていつから使ってるんだろう、心底どうでもいいけど。


多数の戦死者が転がる場所で笑い合う二人の胆力は、疑いようもない。

数で圧倒していた王国軍の死体は見当たらない。

向こうは脱走兵混じりの混成部隊ってのがあったにしても、練度の差も相応に大きかったのだろう。


普通ならどこかで諦めそうなものだ。

もはや理性を超えているのだろう。

アイツの世界の歴史にも、

「なんでそんな事をした?」

と正気を疑う軍の行動なんぞ腐るほどある。

俺たちの世界でも人というのは変わらないってことだ。


「さて、皆様。

戦場ではありますが、ささやかながらのもてなしをさせてくだされ。

お伝えしたい儀もござりますれば。」

さっきまで怖気が来るほどの殺気を撒き散らしていたとは思えないほど、穏やかな表情になっていた長年の相棒は、静かに騎士の礼を返し案を受け入れた。

こいつは、うん、こういうやつだ。


簡易で立てられた陣幕の中に通された俺達は、用意された席に着きよく冷えた水を受け取った。

今は水がこの上なく美味く感じた。


「クルガン殿の遺体は、長年付き従った副官二名の遺体とともに、先に撤退したメイン男爵家騎士団と王国へ向かっております。」

副官二名も死亡か。

なんともやりきれない。

スプリンガーと名乗った老将は続けた。


「クルガン殿を斬ったのはそこの首、コルミアの騎士団長でござります。

撤退を告げた事に激昂し、退出しようとしたクルガン殿の背を斬りつけ、異変に気付いて踏み込んだ副官二名も、それぞれ一振りにて仕留めたとか。」

話によればその後、取り押さえようとした数名を斬り倒し、やむなく殺して止めたとか。

聞いていると耳が腐るかと思えた。

軽くめまいを覚えるほどだ。


「クルガン殿の最期の言葉は『帰らねばならぬのだ』とのこと。」

実直だったクルガンさんなら言いそうだ。

人となりを把握していたとは言えないけれど。


「私の私見を述べさせていただきたい。

クルガン殿がそのような言葉を口にしたのは、何も王命に従うためだけではなかったと。

おそらくお二方のためだと愚考します。

買っておられましたからな、クルガン殿は。

ここで死んでは二人の功績に傷が付く、とでも思ったのでしょうな。」

それは、どうだろうか。

俺には、正直わからない。


ふと横を見れば、強く拳を握り込み、肩を震わせる親友がいた。

涙はないがひどく落胆した目をしていた。

その拳にそっと手を添えた。


その瞬間。

ビクリとしたかと思ったら、怯えたような目を向けてきた。

ほんの瞬きにも満たない間だけ。


その目が。

いつまで経っても頭の片隅から離れなかった。

いくら記憶の蓋を閉じようとも。

いかがでしたか?

なんか戦闘シーンっぽいのは久しぶりに描いた気ががが


おっと、ダメ親父なだけに少し動揺してしまいました。

ご容赦を

m(_ _)m


最後に、お読みくださった方々、ありがとうございます


モチベにつながるので、ブックマークをお願いします

感想を、こうポチッと評価やイイネして頂けたら、ダメ親父は一人「喜びの舞」をするでしょう


「こりゃ、駄目だ、ダメ親父だけに」とか思ったら………

その時はそっ閉じで


それではまた次回で!

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