停戦に向かって
「よう、遅かったな。
三日も待たされたよ。」
そう言った俺の言葉に返って来たのは、混乱した言葉と表情だった。
「はっ?
えっ、なんでジェスがここに?!
えっ、どういうこと?!」
他三名は一緒になって驚いたり、舌なめずりしながら思案顔になったり、好々爺然として微笑んでたり。
てかまとまりねえな、みんな。
わかっていた反応だけども。
「先回りしたからだ。
決まってるだろ。」
ため息混じりでそう答えた。
「そういうことじゃなくて!
婚礼の準備があるから残ってって言ったじゃ………。」
「そのディディに行って来いってケツを叩かれたんだよ。
言わせんな。」
言葉尻に被せてやった。
一人を除いてニヤリ顔。
ウザい。
取り敢えず俺は長年の親友に拳を突き出す。
「多分、これがお前と、みんなと一緒に行動する最後の現場だ。
よろしくな。」
チクリと胸の痛みを伴ったが、口にしてどこかスッキリしている自分がいた。
笑顔に困惑と寂しさを混ぜたような、そんな複雑な表情で拳を合わせた親友に久しぶりに作ってない笑顔を向けた。
その事に自分でも驚いた。
だが驚いたような表情を一瞬見せた後、満面の笑みに変わったのが嬉しくなった。
それは、それだけは紛れもない事実だった。
「それで。
みんなは王国軍の位置とか把握してんのか?」
「それはまだ。
テリミノまでに王国軍と接触できれば、戦闘が止んでるって証拠になるかと思ってさ。
逆にそれが出来なかったら、何らかの問題を王国軍が抱えてることになるって。」
「なるほど。」
テリミノ首都の北門で待ち伏せていた俺は、みんなの入街許可の後で移動しながら話していた。
言ってることは行き当たりばったりに聞こえるが、筋は通ってる。
俺は少なくとも二日は先行してると踏んで、情報収集を行っていた。
念のため、すれ違いを避けるために門衛に俺がこの街にいることを、到着した勇者一行に告げるよう根回しした上で。
まあ根回しと言っても小金を掴ませただけだが。
「俺が掴んだ情報では、コルミア入りを避け、東回りのルートを選んだらしい。
幾つかの貴族家騎士団は船で国元に向かったらしい。
実際、俺も幾つかの騎士団とすれ違ったよ、リーザ川で。
規模がそれなりのところは、川沿いの旧街道を北進中だそうだ。」
俺が使ってた宿の部屋に通し座らせると、早速情報を開示した。
普通に鎧下姿で闊歩するバルを着替えさせるためでもあった。
てか堂々としすぎだろ。
「えっ、分散離脱してるの?
それはリスクが大きいんじゃ?」
こいつの懸念もわからなくはない。
ただこの辺りの騎士団は決戦場に出払っている。
後背に気をつければいいだけの状況なら、むしろ少ない部隊からの順次離脱は速さの観点で理に適ってる。
「問題ないよ。
この辺りに戦力なんて残ってないだろ。
残してたらむしろ問題になる。」
せいぜい治安維持程度にしか残せてない。
じゃなきゃ、周辺国に「空き巣狙い」を疑われるだろうしな。
「ああ、そうか、なるほどね。
その口振りだと正騎士団の居所も掴んでそうだね。」
「ミレリア王国南部で足止めを食らってるらしい。」
一番規模が大きい正騎士団は船を使えない。
右翼騎士団と魔術軽騎士団。
合わせて一万強が残っていた。
貴族家騎士団も半数以上がいまだに残っているとのことだ。
合わせて二万五千程。
その後ろからコルミア騎士団の一部と脱走兵の混成部隊。
それらが連携するでもなく散発的に攻撃を仕掛けるために、規模の大きさも相まって速度を上げられないらしい。
その情報のほとんどが酒場の噂レベルだが、紋章を削った脱走兵を見つけて聞き出した情報と合わせて、かなり確度の高い情報になっていた。
「その話を聞く限り、攻撃を仕掛けてるコルミアの連中と脱走兵は何がしたいかわからねえな。
ほぼほぼ自殺行為じゃねえか。」
バルの言ってることはわかる。
俺もそう思うし。
「攻撃してるコルミアの騎士団は、王国軍は裏切り者と決めつけてるらしい。
コルミアの騎士団長も死んでるって話で、それをやったのが王国軍の幹部の誰かって話になってるって。
実際は本陣で処刑されたらしいけど。」
「どんな状況だ、それ。」
呆れた顔で頭をかきながらバルが吐き捨てる。
「大方、クルガン殺害の犯人がそいつで、首を差し出されたってところでしょ。
くだらないわね。」
レミドがつまらなさげに長い銀髪の先を弄びながら言った。
俺もそれに同意して頷く。
「お主が考える今後の方針はどうなっておる。」
ジード爺様に尋ねられ、俺は二本指を立ててから話した。
「二つ考えた。
どっちがいいかはみんなで結論を出してくれ。」
一つは決戦場に向かい、全体の停戦合意を取り付ける道。
もう一つは無益な戦闘を続けるしかない王国軍に合流し、そこを収めてから決戦場に向かう道。
どちらも一長一短がある。
決戦場に向かってザーベックとの停戦合意を得られたなら、王国軍に攻撃しているコルミア騎士団は合流するなり帰還するなりして、矛を収める可能性が高い。
当然、戦争自体が終結することになる。
主戦派の筆頭だったコルミア騎士団長が死んだ今、決戦場は睨み合いになってるらしい。
こちらは割とすんなり纏められる、そう踏んでいる。
一度はザーベック側から停戦案が出たくらいだしな。
ただ、今現在戦闘が散発している現場は後回しだ。
王国軍に合流すると、短時間で現場を収められる可能性が高い。
勇者の肩書きは伊達じゃない。
コルミア騎士団、王国軍。
双方の無益な戦闘での戦死者は大きく減らせるだろう。
問題は睨み合いになってる決戦場の変化に即時対応することが難しくなる。
ザーベック隣接国で、領土欲があるのは何もコルミアだけじゃない。
主導権争いが静かに進行していて、連合軍にいつ動きがあってもおかしくはない。
その可能性は内部分裂を始めている連合軍において微々たるものだとしてもだ。
全く無視できる可能性かと言われると、それは難しい。
両方話して、決断を求めた。
「時間はない。
決戦場と王国軍の状況、どっちも時間経過で悪化する可能性が高い。
こと感情面においてね。
遅くとも昼飯までには決めてくれ。」
ざっと二時間あるかどうかか。
こいつらの決断力ならそこまでかからないだろうけど。
「それなら俺は王国軍との合流を優先したい。
目先の戦死者を減らしたいってのも勿論あるけど、何が起きたのかの詳細をまず知りたいし。
王国軍のいない決戦場本陣では、正しい情報が得られない可能性があるしね。
現場が憤ってて、そっちの情報が偏ってる可能性も捨てきれないけど。」
感情混じりではある。
けれど至極冷静な判断に思えた。
「確かに本陣の連中なら、責任の押しつけ合いってのはありそうだな。」
「とはいえクルガンを斬ったって奴は、少なくとも処刑されてるのよね?
ならそこまで酷いことにはならないんじゃないかしら。」
「ザーベック側が動かないならば、決戦場を後回しにしても問題なさそうじゃのう。
主戦派の足並みが揃ってるとは言い難い状況だしのう。
あくまで動かないならばじゃが。」
他三人の意見もどちらかと言えば、王国軍に合流を優先する方に流れてる。
爺様の意見には、暗にそれを覆す楔が打ち込まれていたが。
ザーベックが速やかな停戦に向けて、連合軍をひと叩きしようとする可能性は十分以上にあった。
ここまで動いてないなら低い可能性だとしてもだ。
王国軍が撤退し始めた情報は、いくらなんでも掴んでるだろう。
連合軍の士気低下、分裂含みってのも合わせて、読めていない方がおかしい。
例えザーベック側の士気がガタ落ちしてるとしてもだ。
「爺様。
だからこそ俺は、王国軍とコルミアの戦闘を速やかに止めて、情報を得てから決戦場に向かいたいんだ。
万が一にもザーベックが動き出す前に。」
「そこまで言うなら俺に異論はないぜ、アーネス。」
「いいんじゃなくて。」
「うむ。
儂もアーネスの意見を支持しよう。」
纏ったようだ。
「決まりだな。
それじゃ早めだけど食事を済ませ次第、出よう。」
俺の声に全員が強く頷き立ち上がった。
ここからが本番。
急行してきたといえ、意志がまとまったのならなおさら時間との勝負だ。
息を強く吐き出して、もう戻るつもりのなかった戦場へと、もう一歩を踏み出した。
今回はいかがでしたか
前回に続き、なかなか満足いく出来になりました
二章もそろそろ大詰めです
あと数話で二章完結となりますのでおたのしみに
ダメ親父でした
m(_ _)m
最後に、お読みくださった方々、ありがとうございます
モチベにつながるので、ブックマークをお願いします
感想を、こうポチッと評価やイイネして頂けたら、ダメ親父は一人「喜びの舞」をするでしょう
「こりゃ、駄目だ、ダメ親父だけに」とか思ったら………
その時はそっ閉じで
それではまた次回で!
次回 現着(4/25 19:00予定)




