打ち明け話
爺様の部屋に入り勧められたソファに座ると、一つ大きく深呼吸する。
ここまで来て今更だ。
躊躇いを振り切ると、爺様の目を真っ直ぐに見て話した。
「みんなには言ってなかったんだけどさ。
俺、加護が複数あるんだ。」
「ほう、珍しいのう。
儂も何人かしか見たことないわい。」
「え。」
え?
いや、え?
「儂も持っとる。
異性が抗えぬ者じゃよ。」
「は。」
いや、あの………。
はあ………。
「お主のはなんじゃ。
苦労人とかかの?」
うるさいわ。
軽く眩暈がする。
完全に毒気を抜かれた。
なんだよそれ。
もういいや。
珍しくないってなら、この際だから話しちまおう。
「俺のは二つ。
「異界で生を終えた者の欠片」
「勇者を打倒出来うる者」
だよ。」
やけくそ気味に話したはいいけど、言ってしまってから少し後悔した。
反応が怖い。
全く別種の怖さだけど、魔王と対峙した時より怖さを感じた。
「ほう。
まあ、あれじゃ。
それには何の意味も無いから安心せい。」
「え。」
今、なんて?
「しかしなるほどのう。
それで少しでもあやつの意に添おうとしておったのか。
道を踏み外させないように注意しながら。
神々もなかなか酷なことを。
いや………。
案外、腹抱えて笑っとるかもしれんわ。」
「ま、待って爺様。
飲み込めない。
ぜんっぜん、飲み込めないから。
どういうことさ。
説明してくれ。」
本当にわからん。
え?
何?
どういうことだよ………。
「知らずにおったのか。
やれやれ。
枝加護といってな。
たしか何百人に一人くらいじゃったか。
持っておってな。
生まれの経緯や、加護の補足なんじゃよ。
あったところで力が増すわけでも、宿命づけられるわけでもない。」
「はあ。」
何のためのものだよ、じゃあ。
無価値じゃねえか。
「お主の加護は「勇者すら倒せるものだよ」って神様たちが言っとるんじゃな。」
そういう意味かよ。
じゃあ異界で云々も、アイツの知識を持ってたことの説明か?
なんだよ。
「なんだよ、それ。
………ははっ。
バカみたいじゃん、俺。」
ほんと。
神々の介入を恐れてみたり。
あいつと戦う事になるんじゃないかって悩んだり。
何なんだよ、マジで。
「しょうがあるまい。
その場で神官に聞いておれば知れたじゃろうがな。
内容が内容じゃ。
そうするわけにもいかんかったじゃろう。
儂は、今までお主がしてきたことの理由が、はっきりと見えてよかったわい。」
なんか、ドッと疲れた。
違うか。
ストンと力が抜けてしまった感じだ。
「なんで話そうと思ったんじゃ?
お主のことじゃから、相当重い秘密じゃったろうに。」
「え?
ああ、昨日あいつとやり合っただろ?
いよいよマズイかもって思ってさ。
それに、ディディに話すべきか、ずっと迷ってたんだ。
さっき爺様の顔を見たら、なんか無性に聞いて欲しくなっちゃってね。」
椅子の背もたれに、ズルズルとだらしない格好で座ったまま爺様に答えた。
なんか微妙に笑いが漏れてくる。
「話すとええじゃろう。
クラウディア嬢も喜ぶじゃろうよ。
じゃがお主、帰る場所すら見えなくなっておらなんだか?」
「気付いてたのかよ、すげえな。
なんで?」
思わず背筋を伸ばし、食いつくように聞き返す。
そんな自分に恥ずかしくなって、また少し笑いがこみ上げた。
「馬鹿にするでない。
お主、言っておったじゃろ。
『村に帰ったら』と。
とうの昔に両親を失った村に帰るものか、戦いの後で。
しかも形だけクラウディア嬢と結婚したという。
クラウディア嬢と二人じゃ大変だからと人を寄越される話の時も、お主なら否定か肯定のどちらかを口にしたはずじゃ。
これだけ揃って、わからんほうがどうかしとる。
神官じゃぞ、これでも。」
「なんだよ、爺様。
照れてるの?
よく喋るね。」
目を逸らして少し早口になった爺様を、ちょっと茶化してみた。
「抜かしよる。
じゃがその方がええ。」
「ん?
何?何の話?」
ほんと、何の話だ?
「それがお主の素顔じゃろ?
ええ顔で笑っておる。
初めて見る顔つきじゃ。」
「そうかな?
自分じゃわかんないよ。」
誤魔化したけど、上手くはいってないだろうな。
少しだけ恥ずかしい。
「それで?」
「なにがさ?」
「これからも、アーネスのお守りを続けるのか、そう聞いておるんじゃ。」
「ああ、それか。
あいつだけじゃないからね。
爺様も、バルも。
まとめて背中は任せてよ。」
改めてそう答えた。
気が重かったのは確かだが、今はそんなに嫌な気分じゃない。
「距離は取った方がええ。
お主のためでもあるが、何よりアーネスのためにの。」
「え。」
「あやつはお主に依存しすぎじゃ。
今でもギリギリじゃぞ。」
「何の話だよ。」
「このままだとあやつは、一人じゃ立ち行かんようになるじゃろう。
今までは目的が有ったから、表面化しとらんかっただけじゃ。」
「それは………。」
たしかにあいつはそうだ。
今までも何度か釘を刺した。
やけにリアルに想像できる。
「ただいま〜」とか言って、ディディとの飯時に勝手に入ってくる姿が。
それに苛つく自分も。
「昨日の発言にしてもじゃ。
何を言うても許されると思うとったから、お主が怒って唖然としたのじゃよ。
無意識のうちに、じゃがな。」
一心同体といえば聞こえはいいが、爺様が言いたいのは「共依存になってる」ってことだ。
言われてみれば思い当たる節がある。
あいつと戦わなくて済むようにと、意地になって支え続けてきた。
傍目には歪に映ったとしてもおかしくない。
あいつのこと、とやかく言えないな。
「何事も急は駄目じゃぞ。
儂も注意はしておくがの。」
「ああ。
聞いてくれてありがとね、爺様。」
真剣な目付きの爺様をしっかりと見据えて返事をした。
いつ振りだろう。
ひどく晴れやかな気分だった。
部屋に戻って、再びベッドに潜り込む。
もう寝る気はなかったが、楽な体勢でじっくりと考えたかった。
しかし枝加護ね。
意識しすぎていたのは間違いない。
あいつと戦うのは、絶対に避けたかった。
あいつは、俺に手抜きなんかされたくないだろう。
そうなるとあいつも、手抜けない。
本気でやりあえば、多分どちらかが死ぬ。
それがわかっていたから、あいつに信頼してもらえるように手を尽くしてきた。
後悔はない。
魔王討伐に繋がったし、気持ちは変わらず親友のままだ。
絶対に本人には言わないが。
しかし爺様の言う通り、俺たちの関係はいささか歪になってしまった。
頼られ、応える。
俺自身、あいつに期待してはいたが、いつの間にか一方通行に近くなってた。
僅かな想定外があいつに疑念を抱かせる程度には、依存が強くなっていたということか。
まあ、今後は一緒に行動すること自体が減る。
爺様やバルが、あいつの自立を促してくれるだろう。
じゃなきゃ困る。
結婚を申し出たあの日。
涙を浮かべて喜んでくれたディディとの結婚生活が待ってる。
少なくともしばらくは邪魔されたくない。
考えてみれば、俺も酷いやつだ。
そんな彼女の元に帰るのを躊躇っていたんだから。
氷漬けにされても文句は言えんな。
なんだか無性にディディの顔が見たくなっていた。
もう半年か。
魔王討伐に動くのにバーゼル伯領に戻れなくなる。
それがわかって無理を押して、会うためだけに戻った。
グレゴリオ閣下が言ってたな。
パレードまでにこちらに着くって。
クソみたいなことも多かった。
刺客が送られ、そのたびに撃退した。
二度目には殺すことを躊躇わなくなった。
親しくなった神官が、寝首を掻こうとしてきたこともあったな。
彼は脅されていて仕方なくではあったけど、あれはやるせなかった。
臨時で組んだ他のパーティを死なせてしまったこともあった。
向こうのミスだったけど、彼らの生き残りが見せたあの目。
責めてたよなあ、俺のこと。
信頼して任せた俺が悪いって言えば、それまでだけど。
幾つかのダンジョンを攻略してランクが上がったことに、慢心してたってのはある。
「任せてくれよ。
俺達の方が歴は長いんだし。」
そう言われ不安を感じたのに任せたのは俺だ。
なんか嫌なことばかり思い出すな。
帳尻を合わせるかのように、良いことの後には胸糞悪いことが待っていた。
毎回じゃなくても。
逆もあった。
そのせいでせっかくの成功が喜びきれなかったり。
いつの間にかこんなもんだと割り切って考えるようになってた。
それがどのタイミングだったか、忘れられない俺をしても思い出せない。
「ああ、日が出たか。」
ぼんやり、そう思った。
それを最後に意識が途切れた。
嫌な事ばかり思い出していたのに、不思議なほど心地よい微睡みの中に落ちていった。
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それではまた次回で!
次回 パレード(3/29 19:00予定)




