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今はただ「この」己に掛けて −複数の加護と前世の「知識」を持つ俺は、親友勇者と離れアイデンティティを保つ−  作者: ダメ親父
第二章 離別

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軋み

「そんな訳あるか、アーネス!

報告の内容を聞く限り、突発事態だ。

ジェスでもそんなこたあ、織り込めるわけねえだろ!」

腰を浮かせ、珍しく怒気を含んだ声でバルが言った。


「バルは黙ってて。

俺はジェスに聞いてるんだ。」

沈黙する俺を見据え、冷ややかな声音でそう言った。

腰を浮かしかけたままの格好で、バルはなんとも言えない顔をして固まった。


「お前はそう思ってるってことだよな。」

思ったより小さな声だった。

自分の声じゃないみたいに。


同時に。


俺の頭は、ひどく冷えていた。

冷静では決してない。

というか冷静でなんていられなかった。

怒りとも悲しみとも違う何か。

それが湧いてきて抑えが効かない。

今にも溢れ出しそうだった。


「答えになってない。」

「お前………。」

どうあっても答えさせたいようだ。

いいだろう。

だが望んだものとは違うだろうよ、アーネス。


「クルガンさんだぞ?

何度も顔を合わせて、しかも俺たちの理解者だった人だぞ?

死ぬなんて………。

見えてたら意地でも阻止に動いたさ。

決まってるだろ………。」

最後は声が震えてた。


ああ、そうか。

悔しかったんだな、俺。


ひどく安堵したような顔を見せて、

「そうか。」

とアーネスが言った。

ポツリと零れるように。


それを見て、俺の中で何かが切れた。


「そうかってなんだよ。」

「えっ。」

「え、じゃねえよ、お前。

俺を、知り合いを見殺しにした張本人みたいに言っといて、何勝手に納得して落ち着いてやがる。

バカにしてんのか?

ああ!」

「それは、ごめん。」

「なんだよ、それ。

俺は。

お前が。

一人でも多くを救いたいって言うから、俺なりに必死で考えた。

ずっとだ。

その結果がこれか?

ふざけんなよ。

お前が辛かったのはわかってる。

じゃあ、俺は?

そこは無かったことにされるのか?

なあ、アーネス!」


いつの間にか立ってた。

椅子が倒れた音は耳に入ってた。

周りの三人が血相を変えて立ち上がったのにも気付いてた。


でも。


全部どうでもよかった。

ただこいつの、アーネスのキョトンとした顔が、俺を無性に苛つかせた。


視界が滲んでる。

なんだ、俺。

泣いてるのかよ。


「ごめん、ジェス。」

意味のない謝罪。


「言ったろ?

お前ならいつか辞めるって言い出すんじゃないかって。

辛そうなのはわかってた。

わかってるつもりだった。

ちゃんとわかってなかったよ、俺。

ジェスがこんなに傷ついてたなんて。」

微妙にズレた言葉。


「今のは俺の言い過ぎだった。

許してもらえるかわからないけど、ほんとにごめん。」

これも微妙にズレてる。


「そうじゃなかろう!」

ジード爺様の怒声が響く。


「なぜわからん。

お主が疑った。

原因はそれじゃぞ。

そこを履き違えた謝罪に何の意味がある。

バカモンが。」

爺様は気付くか、やっぱり。

女ったらしなだけあって、心の機微には強いよな。


「お主もじゃぞ。

溜め込みすぎるな。

口にせねば伝わらんことの方が、人には多いのじゃ。

思うところがあるのなら、はっきり言わんか。

誰もがお主のように、聡いわけでは無いのじゃぞ。」

痛い所を突いてくれる。

しかしちゃんと見てるな、爺様は。


俺、今どんな顔をしてるんだろう。


ようやく思考が落ち着いてきた。

絶句してるアーネスの顔を見ても、おかしさが出るくらいには。


「いいよ、もう。

そこまで言われたらアーネスも理解しただろうし。

ありがとね、爺様。」

それだけ言うと、深く長く、息を吐き出した。


倒れた椅子を起こし、すっかり冷めた紅茶を一息に飲み干す。

もう一度深呼吸をして、座り直した。

着替える前、夜会のための高価な衣服でするのはどうかと思ったが、頬と目元を袖で拭う。


「それで。

お前はどうしたい?

さっきの話のように俺に後ろを任せるのか。

信用できなくなったから無しにするのか。

俺はどっちでもいいぜ。

それこそ、誤魔化しは無しで頼む。」

ずるい言い方かもしれない。

それでも俺は聞かずにいれなかった。

「今」の、こいつの気持ちを。


いつの間にか俯いていたアーネスはしばらく黙っていた。

誰も。

何も言わないで、アーネスの答えを待つ。


「あのさ。

本当にそんなつもりじゃなかったんだ。

ごめん。

疑うような言い方になったのは、全面的に俺が悪い。

それでも俺はその役目を任せられるのは、ジェスしかいないと思ってる。

頼んでいいかな。」

俯いたまま小さな声でそういった。

まるで叱られた後の子供みたいだった。


「ああ。」

短くそう返した。

なぜか胸が痛んだが、それは絶対に表に出さなかった。

理由はよくわからない。

それでもこの場見せるのは、あり得ないと強く思った。


ようやく顔を上げたこいつは、泣いていた。

ボロボロと大粒の涙を流して。


「ありがとう、ジェス。

本当にごめんな。」

それを聞いて、また胸が軋むような痛みを覚えた。

さっきよりずっと痛かった。


「わかったよ、わかったから、もう泣くな。」

ポケットから綺麗な刺繍入りのハンカチを取り出して渡す。

そのまま遠慮無しに鼻をかんだ。

そんなこいつを見て、また胸が痛む。

なんだってんだ、これ。


「ありがとう、はい。」

そう言って自分のポケットから似たようなハンカチを渡してきた。

使ったものは綺麗に畳み、今度は顔中に広がった涙を拭ってた。


「とにかく二人とも落ち着いてくれてよかったぜ。

あんまヒヤヒヤさせんなよ。

まったく。」

バルは軽口っていうよりも、心底安心したようにそう言ってドカリと椅子に腰を下ろした。


レミドはやれやれって感じで首を振り、肩をすくめてからフワリと座る。


ジード爺様だけは何故か俺を見ていた。

眉をひそめて。


「でもさ。」

少し落ち着いたのか、それでもまだ鼻声のまま小さく切り出した。

「なんだよ。」

「せっかくジェスが本音を話してくれたから俺も言っていい?」

「ああ。」

何を言うのか。

少しだけ見当が付いていた。

言わずにはいられないんだろう、こいつも。


「それでも俺が戻っていれば、そう思っちゃうのは間違ってるのかな。」

「間違ってないよ。」

お前ならな。

その部分は飲み込んだ。

バルにグシグシと頭を撫でられているのを、ただ黙って俺は見ていた。


この日はこれでお開きになった。

それぞれが部屋に戻っていった。

それを見送りドアを閉めると、そのドアに凭れため息を吐く。

自分でも「デケえため息だな」と苦笑いが漏れるほど、やけに長くて重たかった。


目覚めると、外はまだ薄暗かった。

朝日が昇りきってない。

少し早すぎたがとりあえず、用を足しに部屋を出た。

間引かれた廊下の燭台の火が、かすかに揺らいだ。


「今日はパレードか。」

思わず漏れた独り言の大きさにビクリとなった。

誰かに聞かれなかったかと、つい見回してしまった。

早朝の、長大で豪奢な廊下は、無人のまま静まり返っていた。

ホッとしていると数歩先のドアが開いた。


爺様だった。

ほとんど聞こえないほどの足音と、無駄のない動きは流石だ。

それがただ、トイレのドアを閉めるだけでも。

ガウン姿にナイトキャップ。

オーラを出してない時の見た目は、ただのかわいいお爺ちゃんなのにな。


「早いのう、ジェス。

さては昨日のことが気になって、よく眠れなんだか。

若い若い。」

小声で話す爺様は、そこで止めるとじっと見てきた。

なんだろう。


「ジェスや。

お主、腹の中を明かしきっておらんのじゃろう。」

「まあね。」

そう答えた時、背中を一筋汗が伝った。


「損な性分じゃのう。」

そう言うと、まるで見透かすような目で俺を見る爺様から、目を逸らした。

女性関係はともかく、こう在れればと思ったうちの一人は間違いなくこの爺様だった。

今はその目が恐ろしく感じた。


「ゴタゴタが落ち着いてからでもええ。

腹を割って話し合ってみよ。

酒でも呑みながらのう。」

それだけ言うと背中越しに手を振り、部屋へ戻っていった。


「爺様。」

なんで呼び止めたのか、自分でもわからなかった。

無性に聞いて欲しくなったから、ではあるけど「今である理由」はどうしても見つからなかった。


「なんじゃ。」

「聞いて欲しいことがあるんだ。」

振り返った爺様の顔を見て、躊躇いが全て消えた。


「よいぞ。

部屋で待っとる。

すぐがええんじゃろ?」

「ああ。

悪いね、爺様。」

いつもの悪そうな笑顔ではなく、本当に優しそうな顔で微笑んだ爺様は、肩をグルグルと回しながら部屋に戻っていった。

最後に、お読みくださった方々、ありがとうございます


モチベにつながるので、ブックマークをお願いします

感想を、こうポチッと評価やイイネして頂けたら、ダメ親父は一人「喜びの舞」をするでしょう


「こりゃ、駄目だ、ダメ親父だけに」とか思ったら………

その時はそっ閉じで


それではまた次回で!


次回 打ち明け話(3/22 19:00予定)

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