表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今はただ「この」己に掛けて −複数の加護と前世の「知識」を持つ俺は、親友勇者と離れアイデンティティを保つ−  作者: ダメ親父
第二章 離別

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

111/128

抱かせたもの

「その方らにも関係がある話だ、聞いてくれ給え。」

夜会の席でもグレゴリオ閣下の声はよく通る。

それを抑えて、話し出した。


魔禽が戻ったと報告があり、そこにはこう記されていたという。


正騎士団副団長クルガン、死亡。

死亡原因は背中に受けた刃傷によるもの。

状況は現状不明。

撤退命令があったと告げるため、クルガン副団長が本陣へ向かった。

本陣まで同行した副官二名も行方不明につき捜索中。

三日間捜索し副官を発見出来ない場合、連隊長及び各家騎士団団長が旗下を取りまとめ帰投する。


人の死を告げてるのに、ひどく味気ない。

判明してる事柄を、ただ並べただけの報告だ。


「知らせはそれだけだ。」

どんな状況だ、それ。

わからなすぎる。

うっすら見えるけどそんな事あるか?


「はっ。」

鼻で笑うバルのそれは乾ききってた。

「それ、使者をバッサリやった奴の仕業だろ、どうせ。

行かなくてよかったなぁ、アーネス。

行ってりゃ、返り討ちにできてただろうがよ。

我が国の勇者様が、他国では指揮官殺しの裏切り者、なんて事になってたかもしれん。」

「バル。」

呆れと皮肉を隠さないバルを窘めでもするように、名を呼んだアーネスの顔色は悪い。

とはいえだ。

俺がうっすら見えたものと、バルが言った事はそう変わらない。


「じゃが、これで連合の命運も二つに絞られた。

見限るものが増えて瓦解するか、後戻りできずに暴走に付き合って破滅するか。

いずれにしても終わりは近いのう。」

爺様の声は冷めきっている。

諦観とはまた違う。

どこか小馬鹿にするような雰囲気すらあった。


「こうなってみると、誰が貧乏くじを引くことになってたかって話ね。

いろんな意味で。

最初にそのくじを引いたのは、ジェスってだけで。」

「レミドもやめなよ。」

「そう、アーネス?

実状がわかって飲み込めたクルガン以外は、揃いも揃って頭の硬い連中に裏切り者扱いされたのよ?

ならジェスで間違いないじゃない。」

窘めたアーネスに鼻を鳴らして言い返す。

確かに不謹慎な言い方だとは思う。

でもレミドの言ってる事は、何も間違いって訳じゃない。

俺としてはその最初の貧乏くじを引いたのは、勇者の加護を持ってたのが分かった時のアーネスだと思うが。


「戦場を離脱した後も、コルミノに入るまで警戒は厳にせよと指示を出した。

魔禽の移動能力を考えれば、とうに撤退に移っておろうがな。」

グレゴリオ閣下の口ぶりから、「後方の」を抜いて話してる、なんて邪推とも言い切れない事まで浮かんできた。


「さて、君達を退席させるのにもよい頃合いだ。

一幕、手伝ってもらおう。」

そう言って俺たちを、居並ぶ貴族たちの方に向かせた。


「諸君。

歓談中のところ悪いが、主賓たる彼らも長旅の疲れがあるだろう。

彼の地ではいまだ剣戟の音が止んでおらぬ。

皆でわずかな祈りを捧げ、彼らにはゆっくり休んでもらおうではないか。」

グレゴリオ閣下の言葉に合わせてグラスが配られていく。


見回し、行き渡ったのを確認した閣下が、グラスを無言で掲げ胸元に引き寄せる。

その姿に一同がならい、賑やかで華やかな夜会の席は、一時の沈黙に包まれた。


「お前ら、腹減ってねえか。」

廊下をメイドさんの案内で進む俺たちの背に、バルがそう声をかけてきた。

「減ってないよ。

というか気分じゃない。」

そう返すアーネスと同じ気持ちだった。

アーネスは振り向きもしなかった。


あの目。

どんな気持ちで向けたのか、付き合いが長い俺にも読み切れなかった。

「お前が俺を止めたせいで」

それが混ざってたのだけは、わかった。

わかってしまった。

そして今、アーネスはこちらを見ようとしない。

その背から、怒りは伝わって来ない。


「そうかよ。

じゃあ食わなくていいから、話はしようぜ。

今後の対応についてよ。」

「どういう意味。」

少し肩をビクつかせたアーネスが立ち止まった。


「解散したわけじゃない。

だが今後、気安く集まれるかと言えばそうじゃない。

ジェスとレミドは、ある程度どこにいるかわかる。

だがお前も、俺も、爺さんも。

ふらつくか、飛び回るかになる。

そこを詰めておこうって事だ。」

真顔で話すバルは厄介だ。

重要な事を切り出す時によく見た。

それが合図なんだから。


少し離れた壁際で、メイドさんが立ち止まった俺たちを待ってた。


少しの沈黙の後、振り返って小さくコクリと頷いたアーネスは、どこか寂しげだった。


「そういやよ。

レミドお前、爺さんの色香にやられなかったのか?

この何年かの間によ。」

あの真顔はなんだったんだという話題から、部屋での話は始まった。


案の定というかいつも通りというか。

俺の部屋に全員が集まった。

王城の一角。

別棟の豪奢な迎賓館の一室で。


「まあまあだったわ、三回かしら。」

「貰っていくとか言って瓶に掬っておったのう。」

「副団長に一瓶、私の研究用に二瓶、今も保管してあるわ。」

「悪かった、聞いた俺が馬鹿だった。

てか、んなもん、何の研究に使うんだよ。」

「特定の加護持ちを、人為的に生み出せないかの研究よ。

成功した事はないけど。」

突っ込む気にもならん。

でもなるほど。

それでしつこく採取させろって、俺とアーネスに言ってたのか。


「今はそんな話をしてる場合じゃないだろ!」

肩を震わせてアーネスが立ち上がり怒鳴った。

顔が赤いのは照れなんかじゃない。

目付きで誰でもわかる。


「人が死んでるんだぞ!

クルガンさんだけじゃない。

今だって………。

笑ってなんていられるかよ、くそ………。」

顔を覆ってドカリとソファーに座り直したアーネスは、深く長く息を吐いた。


「悪かった、アーネス。

本題に入ろう。」

アーネスが息を吐き終えるのを待って、バルが素直に詫びた。

バツの悪さとか、そんなのはない。


「いや、俺こそごめん。

怒鳴ったりして。

それで今後だっけ?

先に聞いておきたいんだけど、バルと爺様はどうするつもり。」

顔を覆っていた手を下ろし、アーネスはふたりと向き合った。


「さっきも言ったが俺は変わらん。

冒険者を続けるさ。

お前が望むならこのまま組み続けてもいい。

その気持ちに変わりはないさ。」

真摯に答えるバルに対し、アーネスの顔は無表情に近かった。


「儂は、そうじゃな。」

爺様はそこで言葉を切ると俺を見てきた。

「こやつの婚礼を取り仕切った後は、特に何も考えておらなんだ。

じゃがお主らと旅から旅を続けるのも悪くない。

そう思っておるよ。

こやつが夜会で組み続けたいと言ってから、より強くのう。」

そう答えアーネスを見つめたが、その表情はやはり動かなかった。


「その申し出はありがたいけど、なんで?同情?」

ゾクリとするほどの冷気が込められたアーネスの声に、違和感が拭いきれなかった。

何故、今こいつはこんなにも冷たい声を出しているんだ?

その真意を測りかねて、俺は困惑していた。


あえて気にしないことにしたのか、バルは普段どおりの口調で返した。

「何言ってやがる。

俺と釣り合いが取れる冒険者が他にいるかよ。

それにこの七年。

お前だってパーティーの居心地が悪いものじゃなかっただろ?」

「ああ、それはもちろん。」

「アーネスや。

お主ひょっとしてジェスターと同じように終わったと思うてはおらんか?

だとしたらお主は思い違いをしている事になるのう。」

「何を言って………。」

「お主は選んだのじゃ。

名声や肩書はどうであれ、個人であることを。

経緯は違えど、儂と同じようにな。

それにありきたりなことを言って申し訳ないのじゃが、人生という旅路はこれからのほうが遥かに長い。

ようやくやりたいことが出来るようになったばかりじゃよ、お主は。」

「爺様。」

「この際だ、ここにおる仲間たちの前で、これから、お主が、何をしたいのか。

言うてはどうじゃ。」

「俺は………。」

全員が黙ってアーネスの答えを待つ。


少しの沈黙の後。

口を開いたアーネスの言葉は耳慣れたものだった。

七年の間に、何度となくアーネスが口にした言葉。

「俺が知りうる困り事から、皆を、一人でも多くの人を、可能な限り助けたい。」

ああ、こいつは。

やっぱりブレるってことを知らない。

少しだけ羨ましく、そしてかなり妬ましかった。


「三人で旅を続けるのは、うん。

嬉しいよ。

ありがとう。」

そこまで言っても、アーネスの表情が柔らかくなることはなかった。

そこに強い違和感がある。

なんだ?

何か引っかかりがあるのか?


アーネスがこちらを向いた。

表情は変わらない。

なんなら更に硬くなってるようにも見えた。


「なあ、聞いていいか?」

「ああ、なんだよ。」

フッと一息つき目を閉じるアーネス。

再び開かれたその目には「怒り」や「疑い」の色が見えた。


なんだ?

俺の何がそんな目をさせた?


「クルガンさんの死も、お前の計算の内ってことはないよな、ジェス。」


その言葉が僅かな時間、何度も耳の中でこだました。

最後に、お読みくださった方々、ありがとうございます


モチベにつながるので、ブックマークをお願いします

感想を、こうポチッと評価やイイネして頂けたら、ダメ親父は一人「喜びの舞」をするでしょう


「こりゃ、駄目だ、ダメ親父だけに」とか思ったら………

その時はそっ閉じで


それではまた次回で!


次回 軋み(3/21 19:00予定)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ