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vs 魔導人形兵器ドールマキナ

 洞窟内に爆発音が響く。

 ドールマキナの放つ光が洞窟内の淀んだ空気を切り裂き、何度目かも分からない爆発を引き起こし、洞窟の形を変えていく。


「ぬぉわ!?」

「大丈夫かフュリア!」


 爆風に当てられて体勢を崩しかけたが、フュリアはすぐさま持ち直す。


「どうってことねえ、それより次が来るぞ!」


 爆風で舞い上がった砂埃が晴れるが早いか、次の砲口が向けられたのはアルスだった。

 光が放たれる。

 それは魔法と呼べるような攻撃ではなく、ただ魔力を固めて放つだけの魔弾。だがそれでも硬い岩盤を破砕できるほどの威力だ。ヒトが到底受け止められるものではない。

 アルスは横に跳ぶ。直後、すぐ隣を魔弾が通り抜け、はるか後方の壁で爆発する。何度目か分からない洞窟の悲鳴が大地を揺らした。


「ちっくしょう、容赦も遠慮もねェな。どんどんバラ撒いてきやがる」

「所詮は心のない魔導人形だからな。だが、動きさえよく見てれば何とかかわせる!」


 目標を見据え、砲口を向け、魔力を溜めて放つ。それをひたすらに繰り返すだけの単純な行動の繰り返し。よく動きを見れば避けることは難しくない。

 ドールマキナがその場からほとんど動こうとせず、どことなく動きがぎこちないのは寝起きだからか、どこかしらに不備が出ているためだろうか。

 なにせ五百年もの間封印されて放置されていたものだ。万全の状態で残っていたとは考えにくい。それだけは不幸中の幸いだ。


 ドールマキナは魔弾を撃ち続ける。

 だがこのまま黙って攻撃され続けるわけにはいかない。ドールマキナの砲口がフュリアへ向けられたのを確認すると、フリーになったアルスは全力で前に踏み込み、飛びかかって剣を振り下ろす。

 ガキンと金属音が響いた。アルスの攻撃がドールマキナの頭の装甲に直撃したのだ。


 アルスの頬を冷や汗が伝う。

 全くもって手応えを感じない。最硬の金属と呼ばれるオリハルコンを木の枝で叩いたかのような感覚だ。

 ドールマキナの装甲は魔法で作られたものだ。それをただの剣で斬るのは難しい。それでも何かしらの手応えくらいは感じられると思ったが、全くの見当違いだ。

 当然のようにダメージが皆無だったドールマキナは大きめのゴミを掴むかのように剣を鷲掴みにし、アルスの体ごと投げ飛ばす。


「うわっ……ぐっ!」


 地面に叩きつけられ、地に伏したアルスに向かってドールマキナの視線がスライドする。それを追うように砲口も標的を変える。


「危ねェ!」


 危機を察知したフュリアは全力で走り、アルスの体を拾い上げつつ止まらずに走り抜ける。

 直後、さっきまでアルスが倒れていた地面が爆発した。


「受け身ぐらいとれよ!あたしがいなかったら死んでたぞ!」

「わ、悪い。助かった。……だが、この格好はちょっと……」


 横向きになった体の上半身と下半身がそれぞれ別々の腕で支えられて持ち上げられる、俗に言う“お姫様だっこ”の体勢で持ち上げられているアルスは、感謝と恩義と恥の念が入り交じった複雑な表情を浮かべる。


「あたしだって野郎を抱き上げる趣味なんざァ今も昔もねェよ!咄嗟にやったらこうなっただけだっての!我慢し……うおおおおっ!?」

「ぬぉおおおおお!!」


 魔弾がばら蒔かれ、まるで爆発が意思を持っているかのように追ってきていた。そ砕けた岩盤が捲れ上がり、刺のように突き出してくる。

 フュリアはアルスを降ろす機会を失い、アルスを抱き上げたまま走る。

 もはや恥ずかしいなどと言っていられず、アルスは落ちないようにしがみつくしかなかった。


「ど、どうすんだよこの状況!いつまでもお前を抱えたまま逃げんのは無理があんぞ!」

「たしかあの魔弾は一度に連射できる回数はそんなに多くなかったはずだ!どこかで必ず攻撃が止む!それまでとにかく逃げてくれ!頼む!」


 二人の悲鳴に似た絶叫がこだまする。ひとしきり洞窟内に響き渡った後、ようやく攻撃が止んだ。動きを止めたドールマキナの身体の節々から、魔弾の連射で溜まった体内の熱が蒸気となって吹き出す。

 その隙にアルスは地面に降りる。これほど長い間お姫様抱っこされる機会など後にも先にも無いだろう。

 男としての誇りというべきか、そういったものにヒビが入ったような気がするが、今はそんなことを気にしている場合ではない。


(……相手は俺達と違って疲労という概念はない。このまま攻められ続ければ、いずれこっちが力尽きる。一体どうすれば……)

「何とかこっちも攻勢に出ねェとな。あたしの〈加剛〉で一発かますか?」

「馬鹿言うな、それで倒せなかったら終わりだぞ。昔みたいにフォローはできないんだからな」

「チッ、なんたって今更あんな化け物と戦わにゃァならねェんだ。勝機が見えなさすぎて笑えてくらァ」

「勝たなくていいんだ。ベルラウムが助けを呼んできてくれるまで耐えればいい」

「それこそ冗談だろ?一体どんだけ耐えりゃいいんだよ」


 街から洞窟奥地までは歩いて三十分。冒険者でない一般人が全力で走って十分といったところだろう。拘束を解いていないから上手く走れないとして、それ以上はかかるかもしれない。そこから冒険者組合、騎士団詰所に助けを呼びにいくのに早くとも三十分。そこから戻ってくるのにまた十分前後。

 ざっと合わせて一時間近くはかかるだろうか。それも、()()()()()、である。

 確かに、冷静に考えれば冗談みたいな時間だ。


(無策で避け続けるのは無理があるな。かといって、今の俺たちじゃあいつを倒すことも難しい。何とかして動きを封じられれば……)

「来るぞ!」


 フュリアの声がアルスの思考を中断させる。再びドールマキナの攻撃が始まったのだ。

 確かに避けるのは難しくない。だが、いくら読めたところで体力の限界はいずれやってくる。


(……やはり〈剛加〉に賭けてみるか?倒せないまでも、動きを止めるくらいなら……)


 そこまで考え、アルスはすぐさま首を横に振る。


(いや、駄目だ。手が足りなさすぎる。思い出せ、相手はあのドールマキナだぞ)


 ドールマキナが手足と頭に纏う装甲は、あらゆる攻撃を弾く。装甲自体から防御魔法に似た力を発することができ、あらゆる攻撃を跳ね返してしまう。

 つまり装甲を破壊しない限りは本体にダメージを与えることはできないのだが、それは簡単なことではない。

 というのも、例え装甲に傷をつけたとしても、すぐに再生してしまうのだ。

 確かにフュリアの〈剛加〉をぶつけられれば装甲にダメージを与えられるだろう。だが、それに続く攻撃がなければ結局は無意味に終わってしまう。

 技能(スキル)の特性上〈剛加〉は連発ができず、アルスの攻撃では傷ひとつ付けられないことは先程の攻撃でよく分かっている。


(何か……何か他に手は……)

「やられてばっかじゃいられるかよ!これでもくらっとけってんだ!」


 魔弾の合間を縫って放たれた〈焔球(フラム)〉がドールマキナにぶつかる。爆炎を伴いダメージ与えたかに見えたが、ドールマキナには一切効いている様子がない。


「いくらあたしの魔法がお粗末っつったってよォ、ちったァ気ぃ利かせて痛がるフリくらいしろよ。ノリが悪ぃと友達できねェぞ」

「…………」


 ドールマキナの右の瞳が冷たい光を放つ。

 遊ばせていた左腕を持ち上げ、正面に突き出すと――左腕も砲口と化した。


「ゲッ!」


 両方の砲口から放たれた魔弾は直後に重なり、大きな弾となってフュリアに襲いかかる。フュリアは咄嗟に体を捻ってかわした。

 これまでより遥かに大きな爆発に弾き飛ばされたフュリアだったが、軽やかに身を翻して着地する。


「こりゃァ……随分憤っちまってまぁ……」


 岩壁に空いた、まるで巨大なドラゴンの住む巣穴のように高く深く抉り取られた穴を見て、フュリアは引きつった笑みを浮かべる。


「このままじゃ、こっちが倒れるより前に洞窟が崩れるんじゃねェか?」


 ――その何気無く発せられた言葉が、悶々としていたアルスの頭に光を差した。


「…………それだっ!」


 アルスは大きく声をあげた。

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