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不穏な影

 洞窟奥地。その広場のように開けた空間の中に男はいた。


 ほうれい線の浮かぶ顔と白髪混じりの髪以外はほぼ全身を黒いローブで覆っている、肌白い痩せ型の男だった。

 数人の護衛に背中を任せ、男はカンテラ型の魔法具を持ち上げる。そこから放たれる魔法の光を壁に近づけ、一心不乱に見つめていた。

 やがて、男はそこにゆっくりと手を伸ばす。壁に手が近づいた瞬間電流が走ったような音が鳴り、触れることすらできずに弾かれた。

 それは壁ではなく重厚な扉だった。それをその中に広がっているであろう空間ごと透明な魔法の壁が包み込み、何人たりとも触れることができない封印結界となっていた。

 男はその結界を眺め、吐息を漏らす。


「入り口のものとは全く異なるものか……。見事な封印魔法だ。それだけに、これをかけた人物が妬ましくもあるな」


 感嘆の声だった。だがそれよりも色濃い悔しさも滲み出ている。

 男はしばらく扉を視線を這わせるように見た後、〈交信(コーリング)〉の魔法を発動する。何かと繋がるような感覚を覚え、頭の中に野太い男の声が響いた。


『――マルベックか。どうだ、見つかったか?』

「あぁ、見つけたよゼムス。ただ……予想通り厳重な封印が施されているようだ」


 〈交信(コーリング)〉の向こう側で野太い声の男――ゼムスの「やっぱりか」という声と共に舌打ちが聞こえた。


『それはあんたの力でどうにかなりそうか?』

「……これを解除できるかどうかと問われれば無理だろうな。破壊できるかと問われれば、それも不可能だろう」

「かつてリ・ヴェルア魔術学院で教鞭を取ってたあんたでも無理だっていうのか」


 ルフス王国最高峰の魔術学院の名を出され、マルベックは顔をしかめて唇を噛む。その歪んだ顔を見ているものは誰もいなかった。


「その肩書きはとうに棄てた。今は王国の裏社会に身を置く、ただの堕ちた男だよ」

『……まぁいい、場所は割れたんだ。こちらで開けられないとなると、少々目立つが例の手段を取るしかないな』

「……分かった。私も〈開門(ゲート)〉を刻んだらそちらに戻ろう」

『あぁ、頼んだぜ』


 その言葉を最後にブツッと繋がるような感覚が切断され〈交信(コーリング)〉が終了した。

 マルベックはすぐさま掌に別の魔法を発動する。それを地面に押し当てると、魔法陣がそこに刻まれた。


「君達、私が戻るまでここを見張っていろ」


 護衛の男たちは頷き了解の意を示す。それを確認したマルベックは更に魔法を発動した。

転移(テレポート)

 マルベックの体が光に包まれる。別の場所へ体が転移を始め、周囲の光景が白く染まり始めた。

 全てが白く染まる直前、マルベックは封印された扉をもう一度見ると目を細める。


「魔王大戦の遺物、魔導人形兵器“ドールマキナ”か……。我々の手に負えるものならいいのだがな」


 呟くように言葉を残し、マルベックの体は光の中に消えていった。



 ***



「レイン・カルナ……?あー、そういえば国境付近にそんな町あった気がすんな。そんなとこから来たのか」


 輝く緑の絨毯が敷き詰められているような、イルゴニアとカレイコルス山脈の間に広がる草原をフュリアは歩く。


「いい町だよ。静かで落ち着いてるし、みんな穏やかな顔をしてる。……田舎なのは否定しないけどね」


 その横を歩いているのはレンだった。隣同士並んでいるせいでフュリアとの身長差が際立ち、まるで親子のようにも見える。レンが小柄というのもあるが、フュリアの身長が高いのもその要因だった。


「んなとこに冒険者組合があるってのがちょいと驚きだが、いる冒険者はお前さん達二人だけなのかい?」

「うん。でも全然忙しくないんだよ。むしろちょっと暇なくらい」

「それだけ平和な町ってこったな。イルゴニアなんざ結構大変なんだぜ?鉱山までの道中にしょっちゅう魔物が出没するし、しょっちゅう鉱山内に魔物が迷い込むしのてんてこ舞いよ。そういやァ、酔っ払い同士の喧嘩の仲裁に引っ張り出されたこともあったな。そんなの冒険者の仕事じゃねェってのに」


 溜め息をつくフュリアの服の右腹の部分に付けられた冒険者証には、三つの星を象った装飾が施されていた。


「いっそのこと冒険者の方を本業にしちまおうかなァ。鍛冶なんて趣味みてェなもんだし」

「そういえばフュリアって土精(ドワーフ)族だよね?土精(ドワーフ)族って子供の頃から鍛冶を習うって聞いたことあるけど、本当なの?」

「みんながみんなそうって訳じゃねェが、ほとんどはそうだ。将来どういう風に生きるにしろ、まずは鍛冶のなんたるかを教育専用の工房で一通り叩き込まれる。土精(ドワーフ)として生きるための基礎教養ってやつだな」

「人間でいう日曜学校みたいなものかな。文化の違いって面白いね」


 その後に続く「まぁ、ボクは日曜学校には行ってないんだけど」という言葉に、フュリアは特に反応を示さなかった。


「……にしてもよォ、あいつはさっきからどうしたんだ?」


 フュリアは後ろを向く。そこには街を出てから一度も口を開いていないアルスが、付き人のように黙って歩いていた。


「ああいう顔をしているときのアルは、何か考え事をしてるんだよ」

「……さっきから妙に視線を感じるんだよな。あたし何か変なことやっちまったか?」

「うーん、大丈夫だと思う。怒ってる訳じゃなさそうだし」

「そうか、ならいいんだけどな……」


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