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封印と洞窟

 かつて魔王を討った英雄の一人――【武神】レイハルト。


 その男は【勇者(ノア)】が【聖女(レントローゼ)】に続き、二番目に出会った仲間である。

 ノアとレントローゼがともに旅立つにあたり、レントローゼの父である当時の国王ライゼノールがお目付け役として同伴させた騎士。

 それがレイハルトという男だった。


 【武神】の二つ名で呼ばれることが示す通り、レイハルトは戦いにおいて天才だった。

 数多の戦技を使いこなし、常人では振るうことすら難しい大剣を操るその姿はまさに【武神】。


 そんな“騎士”と聞いて一般的に思い浮かべる人物像はどういうものだろうか。


 ――規律を重んじる統率の取れた兵士。

 ――正義の誓いを立てた気高き剣士。

 ――礼節を弁えた高潔なる戦士。


 騎士といえばそんなイメージだろう。

 それらのイメージは決して間違っていない。むしろ、五百年前や現代など関係無く、騎士とはそういうものだ。

 国の秩序を守るために自らも秩序を重んじ、主君を守るために主君に忠誠を誓う誠実なる戦士。騎士とはそういう存在であると誰もが思っていることだろう。


 しかし、レイハルトは違った。


 規律を嫌い、礼儀礼節を弁えず、自由奔放でいい加減。

 だがそれ故に親しみやすく、誰に対しても平等に接する。

 良い意味でも悪い意味でも騎士らしくない男だった。


 ――そんな彼と共に旅をしたのは、もう遠い遠い過去の話である。


「…………」


 そんな仲間の姿を思い浮かべながら、アルスはレンとの雑談に花を咲かせるフュリアの後ろ姿を眺める。


(今まで意識してこなかったが、その口調も仕草も雰囲気もレイハルトの奴にそっくりだ)


 世界には人々が大勢がいる。その一人一人が違った性格や個性を持っている。その中には【武神(レイハルト)】と似た人物もいるだろう。フュリアがそういった人物の一人かもしれない。


(ただの他人の空似なのか……?でもやっぱり他人とは思えないんだよな……)


 見た目は全く違う。そもそも【武神(レイハルト)】は男だ。

 それでも赤の他人と思えないのは、心、魂といった証明が難しいものの存在が呼び掛けてくるからだろうか。 

 まだレンの時のような確信は得られていない。だからこそ本人に直接聞くのは憚られる。

 だが、それでも聞いてみる価値はあるかもしれない。間違っていて赤っ恥をかく可能性を考慮したとしても。

 そう判断したアルスは口を開く。


「なぁ、フュリ――」

「――あっ、着いたみたいだよ」


 前を歩く二人の足が突然止まり、危うくぶつかりそうになったアルスもまた慌てて止まる。

 地面には岩肌が露出していた。後ろを見れば煌めく緑が大地を多い尽くす光景が目に入る。いつのまにやら草原を抜けていたらしい。

 正面には大きな穴が山の表面で口を開けており、その中には奥に向かって割れ目のような道が伸びているのが見える。 


「歩いて三十分ってとこか。こんなとこに洞窟があったなんて知らなかったぜ。確かにここから魔物が飛び出してきたら、街まで入り込んじまうってこともあらァな」

「……ん?」


 レンは入り口の脇でしゃがみこむ。その視線の先には幾何学的な模様を丸で囲ったような絵が刻み込まれていた。


「……ねえ、フュリア。ここに何か感じる?」

「あん?何かっつったってお前さん……」


 フュリアは目を細めてその模様を見ると、納得したような顔をした。


「あァ、そういうことかい」

「……何だ?どういうことだ?」


 何も分からずただ見ていることしかできないアルスに、フュリアが説明する。


「ここにちょいとばかし魔力を感じる。まあ、魔力っつってもただの残り香みてェなもんだが、つい最近までここに何らかの魔法がかけられてたのは間違いねェな」

「多分、ここは中に入れないように封印されてたんだよ。そこまで強力な魔法じゃなかったみたいだけど……それを誰かが破って中に入っていったんじゃないかな」

「……なるほど。それに驚いた洞窟蜘蛛(ケイヴスパイダー)が中から出てきたってことか」


 飛び出してきたと思わしき洞窟蜘蛛(ケイヴスパイダー)は、洞窟に封印が施された際に中にいた個体が閉じ込められ、繁殖したものだろう。洞窟蜘蛛(ケイヴスパイダー)は決して珍しい魔物ではないし、封印されるほど強力な魔物でもない。


(ということは、ここには魔法で封印されるほどの何かがあるってことか……?)


 そう考えるアルスの脳裏に、領主ベルラウムの言葉がよぎる


『もし洞窟の中で見慣れぬものを見つけても決して触れず、決して口外はしないでくれ。それだけは約束してほしい』


 ――それが何なのかは分からない。だが今一度、気に留めておく必要はあるだろう。


「どこの誰だか知らねェが、迷惑なこった。まだ中にいるってんならいっちょ懲らしめてやんねェとなァ」


 口角を上げて拳を鳴らすフュリア。腕が鳴る、と言わんばかりの臨戦態勢だ。

 そんな彼女の姿にもまた【武神(レイハルト)】の姿が重なり――アルスは瞳を閉じる。


「あぁ、そうだな。街を蜘蛛の糸だらけにされるのは御免だ。早く元凶をつきとめないとな」


 フュリアのことは気になるが、依頼を受けた以上、今は街の安全のために尽力するのが優先だろう。余計なことを言ってチームワークに乱れが生じても困る。

 気持ちを切り替えたアルスは、廃鉱の中へと足を踏み入れた。



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