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嘘の現実と目覚めし暴虐 Ⅰ

長い階段の上に大きな鳥居が存在する。

その奥には手入れも忘れられた神社がある。

その鳥居も神社も、この町に住んでいる者にすら名前を知っている人はいるだろうか?

否。 寧ろこの神社の存在を知っているのだろうか?

この名も無き場所に価値はあるのだろうか………?


そんな事を考えながら、もう週に二回くらい訪れている。

雑草はないが生い茂った木々が並び、獣道ではなく鳥居から神社へ真っすぐ伸びる石畳の道。

そこを毎回歩いてご縁もクソもない神社に拝礼して誰もいない寂しい家に帰宅する。

決まって、いや必ず殺風景なテーブルの上には置手紙ある。

内容は仕事で県外に行く、連絡はつかない、心配はしなくていい、などの内容。

親の顔なんて見たのはいつ頃だっただろうか?


学業は怠らない、運のないことは分かり切っているという理由でしっかりと勉強に励む。

家事はこなす、滅多に帰って来ないと言っても自分の家を汚くする理由はない。更に言えば物がそもそも少ないので整理はしやすい。


今思い帰すと、くだらねぇ人生だ。


確かなる思いはある。

代り映えのしない日々。伝わらない思いや考え。

理解し合う事が最初から出来なかったかのようにずれていく関係。

そりゃ話す奴はいる。特進科で、しかも一つクラスを挟む三組、更に言えばそこのクラスの人気者だ。

面白いし、一緒にいて気が楽だし、笑っていられる気がする。

だが、人気者が故に話す機会は段々と失われ今じゃもう顔を見ても話すことはない。


昔の俺は何をやっていた?

楽しそうか?

笑っているか?

何てことを考えるには最適な場所だったはずだ。


なのに…………




「お、俺を……?この世界から?お前大丈夫か、ホントに」


世界は急激に、急速に何か変化し始めていく………





向かいあっても全く意図の見えない。

そんな印象を強くつける人物だった。

全世界を探してもこんなにも可憐で麗しく凛々しい女性も、艶のある金の長髪も、金色に輝く瞳もいやしないだろう。


誰でも、まぁ少なくとも中高生ならばその目に焼き付いて離れなくなるほどの超絶美人なのだが……


(俺はこいつが人という分類に入れていいものか分かんねぇな)


この人間がここにいる。そういうものを存在感と言い、気配というはずだ。

だけどどうしても俺には〝ここにあると思えなかった〟

存在感や気配と言ったものは動物や虫ですら感じる。それこそ人が話しをしている状態なんて、犬に例えると哭いている状態、蝉に例えると鳴いている状態だ。流石に存在感は感じる。


「あんたホントに何者だよ……?俺には分からないことが多すぎで理解してねぇけど、人間とはまた別な感じってのは分かる」


「いいや君と同じだよ優斗。いや、君も同じなんだけどね?まだ気づいていないのかな、自分の価値に」


「俺の価値?」


「そう。君の価値だよ。まさか君が中学二年生の時のここで行われた祭りという文化で願ったことを忘れたわけではあるまいよ」


頭がスッと冷静になると同時に、記憶の奥底のどこかで一瞬躓く感覚がした。

記憶の中にいるのは男と女。それもその二人はここの祭りで初めて出会った人物のはずだ。

この町に生まれて此の方十六年。田舎とも都会どちらとも捉える事が難しい中途半端なこの町に、金髪金眼の人なんて見たことがない。

更に言えば、目の前に立っている名も知らない金髪金眼の美少女はあの夏祭りで何があったか知っている様子だ。


「悪いんだけどよ、俺はその時の記憶を曖昧にしか覚えてない上に一緒に行ったのは男と女だったはずだ。あんたみたいな目立つ容姿してたなら嫌でも記憶に残ってると思うぜ?」


「ん?君と一緒にいたのは私と妹だったはずだが?」


「いや。男と女だ、浴衣も着ずにこのやたらデカい鳥居の前で突然話しかけられてこの奥の神社でお参りした後………の記憶がない」


性別と場所だけの記憶。

その他の事は全くと言っていいほど憶えていない。

それどころか、今日たまたま思い出したこの記憶のせいなのか中学二年の頃の記憶の〝前〟の記憶も段々と薄れていっている。


「まぁいいさ。その思い出は私たち姉妹の記憶にあれば良い、それよりも優斗」


一歩、一歩と距離を詰めてくる。

その歩いてくる存在に体が勝手に後ろに後ずさる。

だが、後ずさることを許しては貰えず突然手を握られる。


「もう十分だろう?」


「な、何が?」


「何が、じゃないだろう?君を連れて行く。そしてずっと一緒にいてもらう。君が何もできないように、私の一生を使って縛っておかないと君は何をするか分からないからな」


言葉を失った。

今の発言に。

何を言っているのか全く意味が分からない。

俺を連れて行く?一緒にいてもらう?縛っておく?—————待て待て、理解が追い付かない。


掴まれた手首を無理矢理振りほどく。


「お前大丈夫か……?全くの他人だけど心配だぞ、主に頭が」


「ん?私の頭の頭蓋骨及び脳みそは正常な働きだ」


「おいおい、正常だったら自分の発言を思い返せ。俺はどこにも連れて行かれたくないし、見知らぬ他人と一生一緒にいたくないぞ?」


「…………そうか。君はまだこの世界に未練があるんだな。まぁいい、またここに来てくれ。もう時間がないんだ、その時に君の事を語ろう」


踵をクルリと帰し、神社の方へと歩いていく。

それを最後まで見送る事なく、優斗は自宅へ帰るために踵を返した。





いつも通り家に帰宅し、誰もいないリビングに入ると珍しく洗濯物が畳まれていた。

そしてその綺麗に畳まれた洗濯物の上に一枚の置手紙が置いてある。


「結局か……」


内容はしょうもないことだろうと、手に取り手紙を読むと案の定しょうもなかった。

洗濯物は畳んでおいた。

この一文だけ。本当にしょうもない内容でスッ転ぶとこだった。

制服を脱ぎ、ワイシャツを洗濯機に入れズボンは畳んで自室に置いておく。

リビングに戻り、一人ように作られたソファに座りテレビを点ける。

学校を抜け出していつもより大分早く帰って来たためにいつもは見ないような娯楽のための放送がされている。


それを流しつつ、今さっきあった出来事について考える。

溜め息を一つ吐き目を瞑る。端からテレビなんて見る気はない、ただ点けてみただけだ。


「連れ帰る……ね」


最初は……いや、話を聞き終わっても何を言っているのかあまり理解出来なかった。

相手は連れて帰ると言っていたがどこに連れて帰る気なのか?

そして最も気になったのは、俺が〝この世界の人間ではない〟と言っている様な口ぶりだ。

それは違う。

自分がここで育っていることはしっかりと記憶にある。

だからこうしてクソみたいな人生を歩んでいる。今更、「君は違う世界の人間なんだ」なんて言われても困りはしないが混乱はする。


「てか何だよ……まるで俺が異世界の人間みてぇじゃねぇか——————ん?異世界?」


何で俺は異世界って考えた?

根拠は?

動機は?


「あぁーわっかんね」


突然のこと過ぎて何が何だか分からなくなって来た。


「寝るか」


頭を一回冷やしてしまおう。

自室に入りベットに横になろうとした瞬間、珍しいことにチャイムが鳴る。


「……ここでも運ねぇのかよ俺は」


玄関まで気怠そうに歩き、扉を開ける。


「よう久しぶりだな、優斗」


「健……?お前どうして」


「いやぁー、お前が突然帰ったって皆噂しててよ。どうしたのかなって気になって来てみた」


身長が高く、体の線が細い。しかっりと髪型を作り込み制服も着こなしている。

男らしくはないが学校では最もイケメンの男。それが俺の唯一の友達と呼べる、高原健だった。


「来てみたって……お前、学校は?」


「早退してきた」


「親と妹さんは?」


「ま、まぁ……大丈夫でしょ」


「全然大丈夫そうじゃねぇじゃねぇか……」


「そ、そんなことよりさ。何があったんだよ?」


「玄関前で話すことじゃねぇから、取り敢えず中に入れよ」


「お邪魔しまーす」




玄関からリビングに移動。

そして健から、話しが始まった。


「んで。どうした?」


「お前も知ってんだろ?俺のクラスでの俺の扱い」


「まぁ、お前のクラスは特進科なのに皆全然特進してないからなー。全員チャラついて勉強なんかやってなさそうだもんな」


「そこには諦めてるよ。別に仲良くしようとって訳じゃないんだ、ただ座ってるだけなのにいちゃもんつけられることに本当に面倒になってな。気分転換に無断で帰って来ただけだよ」


「ははっ、お前も相当ワルだよ。でもよーいいのか?」


「いいんだよ、俺頭良いし。勉強についていけなくなることはない」


「そうじゃなくて。学校行きにくくなるだろってことだよ」


「あぁそれはない。俺みたいな奴は陰口とか暴力とかには対抗出来る。てか出来なきゃ生きていけないからな」


「……お前さ。そういうとこ中学の頃からだよな」


「中学……?それっていつ頃だ?」


急に神妙な雰囲気になった優斗。

それもそうだ。

自分がいま一番知りたい情報である、中学の頃の話題が出て来たのだ。

別に記憶がすっぽりと無くなった訳ではない。

確かに今までの記憶はしっかりある。勿論、中学の時だって記憶にある。

だって俺の人生が普通からクソに変わった瞬間だからだ。


「ん?一年の後半だか二年の前半のどっちかだ。何か急に顔付きが変わってよ、夏休みが終わった後から何だか雰囲気が変わったというか、俺の知っている優斗って感じじゃなくなったんだよ」


「何が?」


「今だから思うけどよぉ、なんっつうかどこか達観しているというか別人になったというか何というか。そうだなー例えるなら、〝この世界の人じゃなくなった〟感じかな」


「……一ついいか?健」


「おう、何でも聞いてくれ」


「あの無駄にデカい鳥居ある神社あるだろ?夏にそこの祭りがあったんだ、俺さそっからあんまり憶えてねぇんだけど———」


「ちょっ、待て待て。そのデカい鳥居がある神社ってどこだ?」


「は—————?」


「いやマジで。この中途半端な町に産まれて十六年と七カ月と十五日。俺はそんな場所は知らねぇぞ?」




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