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嘘の現実と目覚めし暴虐 Ⅱ

「は?」


「いやだから。この町にはお参りしに行く場所なんてねぇって、だから隣町に行くんだろ?」


「隣町……?ここは山に囲まれた町だぞ?だから皆は中学から高校までエスカレーター式に祈理谷高校に行くだろ?」


「…………優斗……。お前少しおかしいぞ?何の事言って—————」


そこで健の携帯から音が鳴る。

軽快な音が携帯から鳴り健は携帯を開くと、徐々に表情が青ざめていく。


「どうした健?」


「妹からだ……」


「ご愁傷様」


優斗は無言で手を合わせる。

健の妹の恐ろしさは身をもって知っている。

理由は想像に任せるが、とにかくブラコンとだけ言っておこう。


学校をサボるなんて滅多にしない兄が急に学校を抜け出しているなんて、ブラコンの妹が知ったらどうなるか予想出来るだろう。

加えて両親共々親バカなので三点セットでお叱りという制裁が健には下る、そんな意味をすべて含んだ合掌なのだ。


「すまん。俺は今日帰る、ちゃんと明日は学校来いよ」


鞄を持ち、急いで玄関から出ていく健の後ろ姿を静かに見送る。

結局肝心なことは聞けずじまいだったが、健の命に比べればそんなことはどうでもいいとさえ思えてしまう。


「まぁ、寝るか」


そう言い終えて、大鳥居優斗(おおとりいゆうと)の一日が過ぎていった………





「どうしましょうか?お姉さま」


とある王室の一室。

内装はとても豪華だが、二人分のティーセット以外にほとんど何も置いてない寂しい部屋だ。

その部屋には金髪金眼の二人の女性の姿があった。

少しだけ背の低い方は紅茶を静かに注ぎ、少しだけ背の高い方は静かに紅茶を楽しんでいる。


「ふふ、どうもこうもないだろう?優斗がいるのだ、勿論この場所に戻ってきてもらうさ」


「それは良いのですが、どうやって戻ってきてもらうのですか?」


背が少しだけ低い女性は、対面に座り直し紅茶を一口飲む。

その表情は少しだけ楽しそうだ。


「決まっている。これを持っていき、あの幻想世界を滅ぼす」


そう言って、一振りの深紅に鈍く光る剣を手に持った。

散々に鎖で縛られ厳重すぎる程に保護されたその剣を見て、対面に座る女性は少しばかり驚いた表情になる。


「それは優斗様の………ならば、あれが必要になりますね。タイミングはお分かりになられておりますか?」


「あぁ。私がもう一度あの世界に足を付けれなきっと姿を現す。本当ならば私が滅ぼしたいところなんだがな、優斗自身に自分の存在を理解してもらわないと意味がないからな」


紅茶を飲み終え席を立つ。


「では、ミーティア。行ってくる」


「ご武運を……」


深紅に輝く剣を片手に、どこかに向かって歩き出す。

ミーティアと呼ばれた女性は瞳を瞑りただ祈ることだけを考えた。

優斗が帰ってきてくれることを………





小鳥に囀りとやたらと響く目覚ましの音で目が覚める。

時刻は朝の五時。通常の学生ならまだ二度寝しても誰にも何を言われることのない時間だが、優斗は違った。 親はいるが家にはいない状態とは何ともおかしな状況で生きている優斗にとっては、この時間帯に起床出来なければいけない理由があるのだ。


朝食を作り、弁当を作り、洗い物を済ましてから洗濯物を終わらせる。

もう既に金さえあれば一人で生きていけるスキルを得ている。こんなハイスペックな高校生は稀に見る位でほとんど存在しないだろう。

大体のことを済ませたら次に学校に向かう用意をする。

ワイシャツにアイロンをかけ皺を完全になくし、襟元をきっちり立たせる。

今日の授業の教科書を鞄に入れ、ある程度冷まし終わった弁当と一緒に玄関に置いておく。


これが終わればやっと朝食を食べ、朝最後の食器を洗い無糖の紅茶をゆっくり飲み学校へ向かう。

時刻は七時半。 ようやく通学する人数が増えてくるころだ。

それに紛れるように優斗は静かに登校する。それが毎日の日課だ。


「優斗君」


何事もなければの話しだが……


「どうした?健の妹」


「どうしたじゃないでしょ?昨日の事。詳しく」


これは最悪のスタートだな、これは。

校門前に立っている女子に見覚えがあると思ったら、健の妹かよ。

もう一度言う。

最悪のスタートを切ったわ。


「健から聞かなかったのか?」


「聞いた。そしたら、「珍しく優斗の奴が早退したから心配になった」って」


「なんだ、健は簡潔に述べてるじゃねぇか。俺はそれ以上言うことはないけど?」


優斗は健の妹の横を通り過ぎようとすると、腕をかなり強く握られる。

結構な痛みに少しだけ目を見開いた。


「それだけじゃない、「お見舞いに行ったら優斗の様子が少しおかしかったんだよ。なんっつうかおかしかった」っても言ってた。どういうこと?」


大分聴取されてるな。

こってり三点セットを食わされた今日の健の顔が見れそうにないぜ。


「あぁ、そのことね。んじゃお前にも聞くけどさ、この町に神社あるよな?」


「そんなこと?〝あるじゃん、神社。この町を一望出来るくらい高いところに〟」


やっぱな……


「そうだよな。あるよな?それを昨日話してたんだよ。ただそれだけだ」


「本当に?」


「他に何が聞きてぇんだよ。お前もさっさと学校行け、隣だからって油断してっと何かあって遅刻しちまうぞ」


今度こそ、健の妹の横を通り過ぎる。

背後からの強い視線を感じながら静かに教室へと向かおうとする。

誰かが友達と挨拶を交わす言葉がやけに響く中、優斗は自分の下駄箱を開け上靴を取ろうとした時だっだ。


「よう」


「おはよう、健」


もう既に上靴を履き終えているこの学校唯一の友人、高原健の姿がそこにあった。

優斗外靴から上靴に履き替え、返事を返す。


「もう大丈夫か?体調は」


「全然余裕、むしろ昨日より少しだけテンションが高い」


「いや。お前に限ってそれはない」


そんな他愛もない話をしながら一緒に教室に向かう。

今度遊びに行こうだとか、勉強の話しだとか、友達関係のことだとか、教室での立場だとか。

心配してくれているであろう健。

その心が酷く心に沁みる。

それがどんな感情なのかは分からないが、何故か受け入れがたい感情だった。


「んじゃ、俺はこっちだから。楽しく行こうぜ優斗」


いつの間にか健のいる教室の前に来ていて、お互いに分かれる時にふとそんな言葉をかけられる。

その言葉に対して優斗は苦笑し頷いた。健もその表情を見て感じとったのか満面の笑みで答えてくれた。


「ふぅ………やっぱおかしいよな。これ」


優斗は静かに踵を返した。

学校に登校して来る生徒たちがいる中、逆走している光景は中々に目立つ。

それでも、歩みを止めない優斗には何かがあるのだろう。

視線を向けるは〝優斗にしか見えないであろう大きな鳥居〟。


(必ず、あいつがいる。〝本物のあいつが〟。俺の考えが正しければだけど……)


確証はない。

だけど、確信はある。

この世界は俺には確実に不条理だ。

誰が賛成してくれる訳でもなく、反対をする訳でもない。ただ横から槍を入れて来るだけだ。

それに関して全く何とも思っていなかった。

どうせ、人生なんて碌なモノじゃないことは理解していたからだ。

自分が誰かと違うと思ったことはないが、先日の健の一言で分かったことがあった。

それは俺が違う世界から来たみたい、ということ。


あの感覚はきっと本物だ。

いや、否だ。

俺自身も違う世界の人間かもしれないが、健や健の妹、その他の人間もまた違う世界の人間だろう。

これはただの想像であり妄想という名の推理だ。

証拠も何もない。

俺はこの町に生まれて、高校まで育ってきた。


だがある一部の記憶がない。それは中学二年時の記憶だ。

何故ないのか未だに分からないがそれは、


「この場所で教えて貰う」


考え事をしている中、早く答えが欲しかったからか徐々に駆け足になっていたようだ。

目の前には普通では考えられない程に大きな鳥居。

上がることを躊躇う程に長い階段。


「上にいてくれよ……」


そんな階段すらも駆け上がろうと、後ろ脚に力を込めた瞬間だった。


「何してんの?優斗」


瞳孔が開いていく。

驚きと共に体に力が抜け、口が乾いていく。


「健の妹…………」


「うん、そうだよ?どうしたのそんなに焦って」


「こんなとこで何してんだ?学校にはちゃんと行かなきゃだめだろ、そんなじゃ健に言えないぞ」


まるで予想外な出来事に冷静さを保つことが難しい。

ただ今はやることがある。

この長い階段を上った先にはあの金髪金眼の女がいるはずなのだ。


俺はあの女に聞かなければならないことが山ほどある。

だから、


「俺はお前に構ってる暇はないんでな。ちゃんと学校行け—————」


階段に視線を向けた瞬間に腕を掴まれる。

掴まれた感触は分かった。

そこまでは理解出来たが〝そのまま階段の方に投げ飛ばされる〟とは予想はしてなかった。


「また最初からだね。優斗」


長い階段の半ばまで投げ飛ばされ、背中を強打する。

肺から一気に空気が漏れ一時の呼吸が出来なくなる。


「ダメだって、気がついちゃ。毎回戻す私の身にもなってよ———ってこれ言うのは六回目だね」


他者から見たら可愛らしい笑顔。

他者から聞いたらただ注意しているようにしか聞こえない声のトーン。

どれも普通で何も問題がない一つのシーンだ。

だが、優斗はそうは感じられない。

階段に全身強打した自分の体に痛みはあるが、怪我という怪我はしていない。

人間の力では考えられないような力で投げ飛ばされた、という現実ではありえないような出来事にあったにも関わらず頭の中は酷く冷静。


「六回目っつのは俺が俺ではない時間を回った時間か?」


痛みを無視し起き上がらせる。

そして徐々に自分の中で足りない何かを構築していくかのように話し始める。


「おぉー、もう既にそこまで考えが辿り着いていたんだね優斗。これは戻すのに時間がかかるなー」


「まぁ、今までの俺がどの程度の理解だったのかとかはどうでもいい。お前誰だ?」


「私のこと言ってんの?それは自分が一番知っているでしょ?」


「一番最初の俺なら知ってたかもな、でも今の俺はお前のことなんぞ全く知らん。てかもういいか?俺は早く金髪に会いに行かなきゃならねぇんだ」


「金髪………?それってもしかして」





「私のことだろう?優斗」


鎖に巻かれた深紅の剣を片手に、凛々しく最上段に立っていた。




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