第七話 頼れる先輩
ヴィルとアイナが初めて共闘してから数日。
二人は少しずつ一緒に依頼を受けるようになっていた。
とはいえ、まだ会話は多くない。
ヴィルは思ったことを素直に話し、アイナは短く返事をする。
それでも以前のような気まずさは消えていた。
そんなある日の朝。
冒険者ギルドはいつも以上に慌ただしかった。
掲示板には新しい討伐依頼が貼られ、多くの冒険者が集まっている。
ヴィルとアイナも依頼を探していた。
その時だった。
「新人さんたち。」
優しい女性の声が聞こえた。
二人が振り返ると、一人の女性が立っていた。
淡いピンク色のショートボブ。
優しそうな水色の瞳。
年齢は二十歳くらいだろうか。
落ち着いた雰囲気で、腰には二本の剣を下げている。
「アッシュさんが探してたよ。」
「え?」
ヴィルとアイナは顔を見合わせ、その女性について行って受付へ向かった。
アッシュは二人を見ると安心したように笑う。
「ちょうど良かった。」
「紹介しよう。」
隣に立つ女性へ視線を向ける。
「Bランク冒険者のルミアだ。」
「この街でも指折りの実力者だよ。」
ヴィルは慌てて頭を下げた。
「ヴィルです!」
アイナも小さく頭を下げる。
「……アイナ。」
ルミアは柔らかく微笑んだ。
「よろしくね。」
「ルミアです。」
その笑顔には、不思議と人を安心させる力があった。
アイナも思わず肩の力が抜ける。
アッシュが話を続ける。
「今日は少し難しい依頼がある。」
「Fランクだけでは不安だから、ルミアにも同行してもらうことになった。」
ヴィルは目を輝かせた。
「Bランク冒険者と一緒にですか!」
「勉強になるよ。」
ルミアは笑いながら言う。
「そんなに緊張しなくても大丈夫。」
「今日は二人が戦うのを見守るのが私の役目だから。」
三人は街道を歩いていた。
ルミアは二人の歩幅に合わせ、ゆっくり歩いている。
「二人は組み始めたばかりなんだって?」
ヴィルが頷く。
「はい。」
「まだ息が合わなくて。」
「最初はみんなそう。」
ルミアは穏やかに笑う。
「でも、お互いを信じられるようになると、戦い方は変わるよ。」
アイナは黙って聞いていた。
「信じる……。」
その言葉が胸に引っ掛かる。
ルミアは無理に話しかけようとはしなかった。
ただ隣を歩く。
その自然な距離感が、アイナには心地よかった。
やがて依頼場所へ到着する。
街道近くの小さな洞窟。
中にはゴブリンが数体住み着いているらしい。
「私が先に行きましょうか?」
ヴィルが尋ねる。
ルミアは首を横に振る。
「今日は二人で考えて動いてみて。」
「私は本当に危なくなった時だけ動くから。」
ヴィルとアイナは頷き合う。
洞窟へ入ると、すぐに三体のゴブリンが現れた。
「ギャア!」
ヴィルが前へ出る。
「風よ!」
風を纏った剣で一体を引きつける。
その間にアイナが魔力を練る。
「火よ。」
深紅の炎が放たれ、二体目を撃ち抜く。
最後の一体がヴィルの死角へ回り込んだ。
「ヴィル!」
アイナが叫ぶ。
その声に反応したヴィルは、とっさに盾を構える。
ガンッ!
棍棒を受け止め、そのまま剣で斬り伏せた。
戦闘はあっという間に終わった。
ルミアは満足そうに拍手する。
「二人とも、いい連携だったよ。」
ヴィルは照れ笑いを浮かべる。
「アイナが教えてくれたから助かりました。」
アイナは少し驚く。
自分のおかげだと言われたことなど、ほとんどなかった。
「……ヴィルも。」
「ちゃんと守ってくれた。」
その一言だけだったが、ヴィルは嬉しそうに笑った。
帰り道。
ルミアは二人の様子を静かに見つめていた。
(まだ未熟。)
(でも、この子たちは強くなる。)
剣の腕だけではない。
互いを思いやる心がある。
それは簡単には身につかない、大切な力だった。
ルミアは小さく微笑む。
「また一緒に依頼を受けよう。」
「もっと強くなれるから。」
「はい!」
ヴィルは元気よく答える。
アイナも少しだけ笑みを浮かべ、小さく頷いた。
「……お願いします。」
その返事を聞いたルミアは、まるで妹たちを見るような優しい表情で二人を見つめていた。
こうして三人の縁は静かに結ばれていく。
まだパーティではない。
けれど、この出会いが、やがて「蒼紅の風」の始まりとなるのだった。




