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蒼と紅の冒険譚  作者: レイヴン
旅立ち
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第三話 最初の依頼

翌朝。


ベッドから落ちて、痛みでヴィルは目を覚ました。


「またやった。」


立ち上がって、大きく伸びをする。


昨夜は緊張してなかなか寝付けなかった。


冒険者になったという実感と、今日初めて依頼を受けるという期待が入り混じっていたからだ。


身支度を整え、剣と盾を確認する。


父から譲り受けた片手剣。


何度も手入れされ、使い込まれた革の柄を握ると、不思議と心が落ち着いた。


「よし。」


宿を出ると、街はすでに活気にあふれていた。


市場では商人たちが店を広げ、パン屋からは焼きたての香りが漂ってくる。


ヴィルのお腹が小さく鳴った。


「……先に朝ごはん。」


思わず苦笑する。


屋台で焼きたてのパンと温かいスープを買い、公園のベンチに腰掛けた。


一口食べる。


「おいしい……。」


村とは少し違う味だった。


けれど、温かい食事は自然と気持ちを落ち着かせてくれる。


「ごちそうさまでした。」


食べ終えると、そのまま冒険者ギルドへ向かった。


「おはようございます。」


ギルドへ入ると、昨日と同じように多くの冒険者で賑わっていた。


アッシュは受付で書類を整理しており、ヴィルに気付くと笑顔を向ける。


「おはよう、ヴィル。」


「ちゃんと眠れたか?」


「少し緊張しましたけど、大丈夫です。」


「それなら良かった。」


アッシュは立ち上がり、依頼掲示板の前へ案内する。


木製の大きな掲示板には、数え切れないほどの依頼書が貼られていた。


「薬草採集」


「荷物運搬」


「畑を荒らす魔物の追い払い」


「街道の見回り」


「ゴブリン討伐」


ヴィルは思わず目を輝かせる。


「こんなにあるんですね……。」


「毎日内容は変わるよ。」


アッシュはヴィルの様子を見ながら、一枚の依頼書を外した。


『薬草採集』


「これがいい。」


「薬師ギルドからの依頼だ。」


「街の北にある森で薬草を十株採ってきてほしい。」


ヴィルは依頼書を受け取る。


「魔物は……?」


「まったく出ないわけじゃない。」


「でも街の近くだから強い魔物はいない。」


「初めての依頼にはちょうどいい。」


ヴィルは力強く頷いた。


「この依頼、受けます。」


「分かった。」


アッシュは依頼書へ受注印を押した。


「気を付けて行っておいで。」


「はい!」


街を出て十分ほど歩くと、小さな森へ着いた。


木漏れ日が地面を照らし、柔らかな風が葉を揺らしている。


ヴィルは依頼書を取り出し、薬草の特徴を確認した。


「葉っぱが細くて、根元が少し青い……。」


辺りを見回しながら歩いていく。


「あった。」


教本で見た通りの薬草だった。


一本ずつ丁寧に採取して袋へ入れる。


「これで三本。」


順調だった。


森は静かで、鳥の鳴き声しか聞こえない。


しかし――。


ガサッ。


茂みが揺れた。


ヴィルは反射的に剣へ手を伸ばす。


現れたのは、一匹のゴブリンだった。


緑色の肌。


手には木の棍棒。


ヴィルを見るなり、不気味な笑みを浮かべる。


「ギギッ!」


一気に距離を詰めてきた。


ヴィルは慌てず構える。


父との訓練を思い出す。


(焦らない。)


(相手をよく見る。)


棍棒が振り下ろされる。


ヴィルは半歩だけ横へ動く。


棍棒は空を切った。


「今!」


踏み込む。


「はっ!」


一閃。


ゴブリンは短い悲鳴を上げ、その場に倒れた。


数秒後、身体が淡い光となって消えていく。


地面に残ったのは、小さな魔石だけだった。


「これが……魔石。」


ヴィルはしゃがみ込み、そっと拾い上げる。


手のひらに収まるほどの大きさ。


青白く輝く、不思議な石だった。


父から聞いた話を思い出す。


魔石は討伐の証。


ギルドへの報告に必要であり、生活を支えるエネルギーや武器強化にも使われる。


「大事にとっておこう。」


袋へしまい、再び薬草を探し始めた。


依頼を終えて街へ戻る頃には、太陽は西へ傾いていた。


ギルドへ入ると、アッシュがすぐに気付く。


「おかえり。」


「ただいま戻りました。」


ヴィルは薬草十株と魔石を受付へ並べた。


アッシュは一つひとつ確認し、満足そうに頷く。


「問題なし。」


「依頼達成だ。」


そう言って、小さな革袋を差し出した。


「これが今回の報酬。」


「魔石はどうする?」


ヴィルは少し考えて


「とっておきます」


ヴィルは袋を受け取り、中をのぞく。


銀貨が数枚入っていた。


「これが……。」


自分で初めて稼いだお金。


胸の奥がじんわりと温かくなる。


「ありがとうございます。」


アッシュは優しく笑った。


「初依頼、お疲れさま。」


「いい仕事だったよ。」


ヴィルは深く頭を下げた。


ギルドを出ると、街は夕焼けに染まっていた。


「今日は……少しだけ贅沢しようかな。」


そう呟きながら、食堂の並ぶ通りへ歩いていく。


初めての依頼。


初めての報酬。


冒険者として踏み出した小さな一歩。


ヴィルはまだ知らない。


この街のどこかに、自分が五年間探し続けた少女がいることを。


二人の運命の再会は、もうすぐそこまで迫っていた。

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