第二話 王都への護衛依頼
三日後の早朝。
町はまだ朝靄に包まれていた。
ヴィルとアイナは荷物を背負い、冒険者ギルドの前に立っている。
「眠い……。」
ヴィルは大きなあくびをした。
「ヴィル。」
「口開いてる。」
「あっ。」
慌てて口を押さえるヴィルに、アイナはくすっと笑う。
「笑った!」
「今笑ったよね!」
「少しだけ。」
「やった!」
アイナは少し照れながら視線を逸らした。
そんなやり取りをしていると、後ろから声が掛かる。
「君たちが今回の護衛か。」
振り返ると、五十代ほどの商人が立っていた。
恰幅のいい男性で、優しそうな笑みを浮かべている。
「私は商人のガレスだ。よろしく頼む。」
ヴィルは頭を下げた。
「Dランク冒険者のヴィルです。」
「アイナです。」
「若いのにDランクとは頼もしい。」
ガレスは安心したように頷く。
「荷馬車は三台だ。商品は布や香辛料、それと少し高価な宝石も積んでいる。」
「盗賊も心配だけど、この辺りは魔物の方が多い。」
「よろしくお願いします!」
◇ ◇ ◇
朝日が昇る頃、一行は町を出発した。
先頭をヴィル。
中央に荷馬車三台。
最後尾をアイナが歩く。
街道は広く、行き交う旅人も多い。
「護衛って思ったより歩くね。」
ヴィルが苦笑する。
「依頼だから。」
アイナは辺りを警戒しながら答えた。
「そうだけど。」
「もう足が疲れた。」
「まだ一時間。」
「えぇ……。」
その様子を見たガレスが笑う。
「王都まではまだまだ遠いぞ。」
「覚悟しておきなさい。」
「頑張ります!」
ヴィルは元気よく返事をした。
◇ ◇ ◇
昼過ぎ。
一行は川辺で休憩を取ることになった。
商人たちは荷馬車の点検を始める。
ヴィルは川で顔を洗う。
「気持ちいい!」
「アイナもおいで!」
アイナも隣にしゃがみ、冷たい水で手を洗った。
「冷たい。」
「でしょ!」
ヴィルは笑いながら腰を下ろす。
「そういえば。」
「ん?」
「昨日買ったアクセサリー。」
「あれ、似合ってるよ。」
アイナは首元のペンダントに触れた。
「ヴィルも。」
「イヤリング、きれい。」
「えへへ。」
ヴィルも耳に触れる。
「なんだか少し落ち着く気がする。」
「分かる。」
アイナも小さく頷いた。
「付けてると安心する。」
「やっぱり?」
「不思議だね。」
二人は顔を見合わせて笑った。
その様子を少し離れた場所で見ていたガレスが呟く。
「本当に仲がいいな。」
「姉妹みたいだ。」
ヴィルが苦笑する。
「よく言われます。」
アイナも少しだけ笑顔を見せた。
◇ ◇ ◇
午後。
再び街道を進み始めて一時間ほど。
ヴィルが急に立ち止まった。
「……待って。」
アイナもすぐ弓を構える。
「どうした?」
ガレスが尋ねる。
ヴィルは森の奥を見つめた。
「何かいる。」
その瞬間。
ガサガサッ!!
草むらから灰色の影が飛び出した。
「グルルル!」
「フォレストウルフ!」
全部で五体。
一斉に荷馬車へ向かって駆け出す。
「商品を守れ!」
ガレスが叫ぶ。
「ヴィル!」
「前お願い!」
「任せて!」
ヴィルは剣を抜き放つ。
「風よ!」
足に風をまとわせ、一気に加速する。
先頭のフォレストウルフへ飛び込み、鋭い一撃を放つ。
ザシュッ!
一体がその場で倒れ、魔石へ変わる。
しかし残る四体は止まらない。
左右へ散開し、荷馬車を狙う。
「させない!」
アイナが矢を放つ。
ヒュン!
一本目。
見事に一体の肩へ命中する。
「炎よ!」
矢が赤く輝く。
ドンッ!
爆発が起こり、フォレストウルフは吹き飛ばされた。
「ナイス!」
ヴィルが笑う。
「まだ!」
もう二体がヴィルへ飛び掛かる。
「速い!」
ヴィルは盾で一体を受け止め、そのまま剣で斬り返す。
しかしもう一体が横から牙を向けて飛び込んできた。
「ヴィル!」
アイナが叫ぶ。
炎をまとった矢が一直線に飛ぶ。
ドォッ!
フォレストウルフの足元で爆発が起こり、体勢が崩れた。
「ありがとう!」
「うん!」
ヴィルはすぐさま踏み込み、その首を斬り落とす。
残るは最後の一体。
仲間を失ったことで怯え始めていた。
「逃がさない。」
アイナが静かに弓を引く。
ヒュッ。
放たれた矢は正確に魔物の額へ突き刺さった。
フォレストウルフは数歩よろめき、そのまま魔石へと変わる。
静寂が戻った。
「終わった……。」
ヴィルが息を吐く。
ガレスたち商人も安堵したように肩の力を抜く。
「助かった!」
「さすがDランクだ!」
「ありがとうございます!」
ヴィルは照れくさそうに笑った。
「アイナのおかげですよ。」
アイナは首を横に振る。
「ヴィルが前にいてくれるから。」
「私は安心して援護できる。」
ヴィルは嬉しそうに笑う。
「じゃあ、お互いのおかげだね。」
「うん。」
ガレスはそんな二人を見て笑った。
「いい連携だ。」
「王都まで安心して任せられそうだ。」
その言葉に二人は顔を見合わせる。
「ありがとうございます!」
再び荷馬車はゆっくりと動き出す。
夕日が街道を赤く染める中、一行は王都を目指して歩き続ける。
だが、この旅路にはまだ、二人の想像を超える新たな出会いと試練が待ち受けているのだった。




