第一話 新たな旅、新たな街
王都を目指す旅が始まってから十日ほど。
ヴィルとアイナは街道を歩き続け、小さな村や宿場町を経由しながら旅を続けていた。
「見えてきた!」
街道の先に、大きな城壁が見える。
門の前には何台もの荷馬車が列を作り、人や商人が絶え間なく出入りしていた。
「大きい町……。」
アイナが思わず声を漏らす。
ヴィルも目を輝かせた。
「すごい!」
「今までで一番大きいかも!」
門をくぐると、活気ある声があちこちから聞こえてくる。
果物を売る露店。
武器屋。
防具屋。
布や香辛料を扱う商人。
異国風の服を着た旅人まで歩いている。
「人がいっぱい……。」
アイナは少し圧倒されながらも、興味深そうに辺りを見回した。
「迷子にならないようにね。」
ヴィルが笑いながら言う。
「ヴィルこそ。」
「すぐ気になるもの見つける。」
「うっ……。」
図星だった。
「と、とりあえずギルド行こう!」
「うん。」
◇ ◇ ◇
町の中心にある冒険者ギルド。
ヴィルは受付で声を掛けた。
「すみません。」
「王都へ向かう護衛依頼ってありますか?」
受付の女性は依頼書を何枚か確認する。
「今日はありませんね。」
「ただ……。」
「三日後に王都行きの商隊が出発します。」
「護衛はDランク以上が条件ですが。」
ヴィルとアイナは顔を見合わせた。
「受けます!」
受付嬢は微笑んだ。
「では予約しておきます。」
「三日後の朝、こちらへ来てください。」
「ありがとうございます!」
ギルドを出るとヴィルが大きく伸びをした。
「三日もあるね。」
アイナも頷く。
「久しぶりにゆっくりできる。」
「じゃあ宿を取ろう!」
◇ ◇ ◇
宿へ荷物を置くと、二人は再び町へ出掛けた。
武器屋では見たこともない剣が並び、
本屋には魔法書が山積みになっている。
「こんなに本がある……。」
アイナは興味津々だった。
ヴィルは隣で別の店を見ている。
「アイナ!」
「こっちこっち!」
「お菓子屋さん!」
「また?」
「また!」
結局二人は焼き菓子を買い、歩きながら食べる。
「おいしい。」
「王都にはもっとあるのかな?」
「きっとあるよ!」
「楽しみ。」
穏やかな時間が流れていた。
夕暮れになるまで町を歩き回り、二人はたくさん笑った。
◇ ◇ ◇
宿へ戻る途中。
細い路地に、小さく古びた店が一軒だけ建っていた。
看板も色あせている。
「こんなお店あった?」
ヴィルが首を傾げる。
「入ってみる?」
アイナも静かに頷いた。
店内へ入ると、小さな鐘が鳴る。
「いらっしゃい。」
白髪の老人が優しく微笑んだ。
店内にはアクセサリーが所狭しと並んでいる。
指輪。
腕輪。
首飾り。
イヤリング。
どれも古いが、不思議と目を引く品ばかりだった。
「きれい……。」
アイナが小さく呟く。
ヴィルも夢中で見て回る。
その時だった。
棚の奥に、一組だけ並んでいるアクセサリーが目に入った。
「……これ。」
蒼く輝くイヤリング。
そして深紅の宝石が付いたペンダント。
まるで二人を待っていたかのように並んでいる。
ヴィルはイヤリングを手に取る。
「蒼い……。」
アイナはペンダントを見つめる。
「私の髪と同じ色。」
老人がゆっくり近付いてきた。
「気になりますかな。」
ヴィルは頷く。
「すごく。」
老人は懐かしそうに笑った。
「その二つは昔から一緒にあった品です。」
「不思議な力が宿っているとは言われていますが……。」
「どんな力かは誰にも分からんのです。」
「分からないんですか?」
「ええ。」
「何十年も店にありますが、一度も売れませんでした。」
老人は肩をすくめる。
「だから価値も付けられなくてね。」
「銀貨二枚でいいですよ。」
ヴィルは驚いた。
「こんなにきれいなのに?」
「効果が分からない品では誰も買いません。」
「飾ってあるだけでした。」
ヴィルはアイナを見る。
「どうする?」
アイナもアクセサリーを見つめながら微笑んだ。
「……何かの縁。」
「私もそう思う。」
ヴィルも笑顔になる。
「買います!」
老人は嬉しそうに頷いた。
「ありがとうございます。」
銀貨二枚を渡し、二人はそれぞれ受け取る。
ヴィルは蒼いイヤリングを耳へ付ける。
「どう?」
アイナは少し照れながら笑った。
「似合う。」
「本当?」
「うん。」
今度はアイナが深紅のペンダントを首に掛ける。
紅い宝石が胸元で静かに揺れた。
ヴィルは目を丸くする。
「すごく似合ってる!」
「きれい。」
アイナは少しだけ頬を赤くした。
「ありがとう。」
老人はそんな二人を見て、どこか意味深に微笑んでいた。
「その品が、お二人に良き運命をもたらしますように。」
二人は深く頭を下げる。
「ありがとうございました。」
店を出る頃には、町はすっかり夜の景色へ変わっていた。
「いい買い物したね。」
ヴィルがイヤリングに触れながら笑う。
「うん。」
アイナもペンダントを大切そうに握る。
「ずっと大事にしよう。」
「もちろん!」
二人は新しいアクセサリーを身に着けたまま、笑顔で宿への道を歩いていく。
そのアクセサリーに秘められた本当の力を、まだ二人は知る由もなかった。




