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蒼と紅の冒険譚  作者: レイヴン
旅立ち
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第二十五話 旅立ち

ヴィルが目を覚ましてから数時間後。


アッシュは椅子に腰を下ろし、静かに口を開いた。


「詳しく聞かせてくれ。」


ヴィルはゆっくり頷き、ダンジョンで起こった出来事を最初から話し始めた。


四階層で遭遇した大型のゴブリン。


盾ごと吹き飛ばされたこと。


アイナが身代わりになったこと。


そして、自分でも分からない蒼い風の力で魔物を倒したこと。


話し終えると、部屋は静まり返った。


アッシュは腕を組み、しばらく考え込む。


「……なるほど。」


重い口を開いた。


「ヴィル。」


「お前が戦った相手。」


「ホブゴブリンじゃない。」


「え?」


ヴィルは思わず声を上げた。


「ホブゴブリンでは……ない?」


「お前の話を聞く限り、おそらくゴブリンロードだ。」


「ゴブリンロード……。」


その名前だけで空気が重くなる。


「ホブゴブリンなら、お前の実力なら盾で受け止められる。」


「吹き飛ばされるほどの力はない。」


「だが、ゴブリンロードなら話は別だ。」


アッシュは真剣な表情で続ける。


「Dランクどころか、状況次第ではCランク冒険者でも苦戦する相手だ。」


ヴィルの表情が青ざめる。


「あんな魔物が……。」


「試験用ダンジョンに?」


「普通ならあり得ん。」


アッシュは深く息を吐いた。


「ギルドで調査隊を出す。」


「試験結果も含めて調査する。」


「結果が出るまでは何も判断できない。」


「お前たちは今は何も考えず休め。」


「はい……。」


「三日も眠っていたんだ。」


「今は身体を治すことだけ考えろ。」


ヴィルは静かに頷いた。


(本当に……運が良かった。)


もしあの力が出なければ。


もしアイナを抱えて走れなければ。


きっと二人とも生きてはいなかった。


知らない力。


あの蒼い風が、自分たちの命を救ってくれたのだった。


◇ ◇ ◇


翌朝。


カーテンの隙間から朝日が差し込む。


アイナはゆっくりと目を開けた。


「……。」


ここはどこだろう。


ぼんやりした意識のまま視線を動かす。


そして。


「……え?」


目の前にヴィルの顔があった。


「えっ!?」


「えっ!?」


同時に声を上げる二人。


ヴィルは椅子に座ったまま、アイナの様子を見ているうちに眠ってしまっていたらしい。


「あ、アイナ!」


「起きた!」


「ヴィルも近い……。」


二人は顔を真っ赤にして距離を取る。


少しだけ沈黙が流れた。


その後、ヴィルは真剣な表情になった。


「アイナ。」


「……うん。」


「どうして。」


「どうして私を突き飛ばしたの?」


部屋が静まり返る。


アイナは少し俯いた。


「……分からない。」


「気付いたら身体が動いてた。」


ヴィルは首を振る。


「違う。」


「理由があるでしょ。」


アイナはしばらく黙っていた。


やがて小さく息を吐く。


「……失いたく、なかった。」


「え?」


「ヴィルを。」


「失いたくなかった。」


「それだけ。」


その言葉を聞いた瞬間。


ヴィルの瞳から涙があふれた。


「ばか……。」


涙をこぼしながら笑う。


「私だって……。」


「私だってアイナを失いたくない!」


堪えていた感情が一気にあふれ出す。


「もう助けられないのは嫌なんだ!」


「一人になるのは嫌なんだ!」


アイナも涙を流していた。


「ごめん……。」


「でも。」


「ヴィルがいなくなる方が怖かった。」


ヴィルはベッドへ近付き、アイナをそっと抱き締めた。


「もう無茶しない。」


「一人で守ろうとしない。」


「二人で生きよう。」


アイナも小さく頷く。


「……うん。」


二人はしばらく泣き続けた。


悲しかったからではない。


生きてまた会えたことが嬉しかったから。


お互いが隣にいることが、何より幸せだったから。


◇ ◇ ◇


数日後。


身体もすっかり回復した二人は、ギルドへ呼び出された。


応接室にはアッシュが待っていた。


「調査結果が出た。」


二人は自然と背筋を伸ばす。


「まず試験結果だ。」


「ヴィル、アイナ。」


「二人ともDランク昇格を認める。」


「本当ですか!」


ヴィルは思わず立ち上がる。


アイナも嬉しそうに微笑んだ。


アッシュも珍しく笑う。


「当然だ。」


「試験内容を大きく超える魔物を討伐した。」


「実力は十分だ。」


そして表情を引き締める。


「もう一つ。」


「やはり、お前たちが倒したのはゴブリンロードだった。」


ヴィルは息をのむ。


「あれが……。」


「試験用ダンジョンへ迷い込んでいたらしい。」


「原因は現在調査中だ。」


部屋は少し静かになる。


やがてアッシュは地図を取り出した。


王国全土の地図だった。


その中央を指差す。


「次は王都へ行け。」


「王都?」


「Dランクになると、この街では受けられる依頼が少ない。」


「これ以上強くなるには経験不足だ。」


ヴィルとアイナは真剣に聞いていた。


「特にお前たちに足りないのは対人戦。」


「もっと広い世界を見ろ。」


「王都には優秀な冒険者が集まる。」


そして一人の名前を書いた紙を差し出した。


「ルミア。」


「Bランク冒険者だ。」


「前に会っただろ、今は王都にいる」


「俺の知り合いでもある。」


ヴィルは紙を受け取る。


「困ったら、先輩を頼れ。」


「きっと力になってくれる。」


アイナも小さく頷いた。


「ありがとうございます。」


アッシュは最後に二人を見渡した。


「王都までは徒歩で約一か月。」


「気を抜くな。」


「だが、お前たちならきっと辿り着ける。」


「はい!」


二人の返事が部屋へ響く。


◇ ◇ ◇


翌朝。


街の門の前。


荷物を背負ったヴィルとアイナが並んで立っていた。


ギルド職員や宿のおかみ、街の人たちが見送りに来ている。


「元気でね!」


「王都でも頑張れ!」


「また帰ってこいよ!」


ヴィルは大きく手を振る。


「行ってきます!」


アイナも微笑みながら頭を下げた。


「行ってきます。」


ヴィルは隣を見る。


「アイナ。」


「うん。」


「次の目的地。」


「王都だ!」


アイナは優しく笑う。


「一緒に行こう。」


「もちろん!」


二人は同時に一歩を踏み出す。


まだ知らない仲間。


まだ見ぬ強敵。


そして、自分たちの運命。


すべてが待つ王都へ。


蒼い風と紅い炎は、新たな景色を求めて歩き始める。


その旅は、まだ始まったばかりだった。


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