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蒼と紅の冒険譚  作者: レイヴン
旅立ち
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第二十二話 初めてのダンジョン

人さらい組織との一件から三日。


ヴィルとアイナは依頼を受けず、Dランク昇格試験へ向けた準備に集中していた。


装備の点検。


保存食や水の補充。


予備の矢の購入。


回復薬の確認。


地図を見ながらダンジョンの情報を頭へ入れる。


「これで忘れ物ない?」


ヴィルが荷物を背負いながら尋ねる。


アイナは一つ一つ確認して頷く。


「うん。」


「食料、水、ロープ、たいまつ、回復薬……全部ある。」


「矢もいつもより多めに持った。」


「よかった!」


ヴィルは満足そうに笑う。


「初めてだからね。」


「万全で行こう!」


「うん。」


◇ ◇ ◇


そして迎えた特例試験当日。


ヴィルとアイナが到着


「来たか。」


アッシュが二人を迎えた。


「いよいよだ。」


「はい!」


アッシュは机の上へ一枚の地図を広げる。


「今回の試験内容を改めて説明する。」


二人は真剣な表情で耳を傾けた。


「クリア条件は二つ。」


「一つ目。」


「五階層最奥にある試験用の証を持ち帰ること。」


ヴィルが頷く。


「もう一つは?」


「ホブゴブリンの討伐だ。」


アイナが少し驚く。


「ホブゴブリン……。」


普通のゴブリンより一回り大きく、武器も扱う上位種。


Dランク相当の魔物として知られている。


アッシュは続ける。


「危険が少ないのは証を持ち帰る方だ。」


「討伐は実力に自信がある者だけ選べ。」


「無理はするな。」


「はい。」


「ダンジョン内では基本的に二人だけで行動してもらう。」


「救援はありません。」


「もし二日経っても戻らなかった場合のみ、ギルドが救助隊を編成する。」


ヴィルは小さく息をのむ。


二日間。


それまでは誰も助けに来ない。


つまり、本当に頼れるのは隣の仲間だけだ。


「質問は?」


ヴィルとアイナは顔を見合わせる。


「ありません。」


アッシュは静かに頷いた。


「なら行ってこい。」


「必ず生きて帰れ。」


「はい!」


◇ ◇ ◇


街外れ。


ギルドが用意した馬車へ乗り込み、一時間ほど揺られる。


森の入り口へ到着すると、御者が声を掛けた。


「ここからは徒歩だ。」


二人は礼を言って馬車を降りる。


深い森の中を歩くこと三十分。


巨大な岩山の麓に、ぽっかりと口を開けた洞窟が見えてきた。


「ここが……。」


「ダンジョン。」


ヴィルは思わず息を呑む。


入口から冷たい空気が流れ出していた。


「少し怖いね。」


アイナも小さく頷く。


「でも。」


「行こう。」


ヴィルは剣を抜く。


「うん。」


二人はゆっくりと足を踏み入れた。


◇ ◇ ◇


第一階層。


薄暗い通路が続く。


現れたのはスライムや小型のコウモリ程度。


「危なくないね。」


ヴィルが剣でスライムを倒す。


アイナも落ち着いて矢を放つ。


一階層は順調だった。


二階層へ進む。


今度はゴブリンが現れたが、数も少なく苦戦することはない。


「この調子なら。」


ヴィルが笑う。


「うん。」


アイナも頷く。


二人は順調に進み、三階層へ到着した。


その瞬間。


空気が変わる。


通路は広くなり、視界も悪い。


奥から低い唸り声が響いてくる。


「気を付けて。」


ヴィルが剣を構える。


「来る!」


物陰から飛び出してきたのはゴブリン二体。


さらに反対側から腐った身体のアンデッドが現れる。


「アンデッド!」


ヴィルがゴブリンへ斬りかかる。


アイナはすぐ火球を放った。


「炎よ!」


火球がアンデッドへ命中する。


腐った身体が燃え上がる。


「まだ!」


ヴィルは一体目を斬り伏せる。


続けて二体目も盾で体勢を崩し、剣を振り抜く。


魔石が転がった。


しかし、それで終わらない。


さらに奥から魔物が近付いてくる。


「まだいる。」


「ヴィル。」


アイナが小声で言う。


「魔石……。」


ヴィルも理解していた。


魔石は換金できる。


できれば全部持ち帰りたい。


しかし。


「全部倒してたら。」


「疲れちゃう。」


アイナが頷く。


「試験が優先。」


ヴィルは魔石を拾うのを諦め、小さく息を吐いた。


「行こう。」


二人は戦える相手だけを倒し、それ以外は物陰を利用して避けながら進み始めた。


◇ ◇ ◇


三階層を抜け、四階層への階段が見えてきた。


「着いた。」


ヴィルが安堵したその時だった。


階段の前。


一体だけ、普通のゴブリンより大きな影が立っていた。


筋肉質な身体。


鉄の剣。


革鎧。


赤黒い肌。


「ホブゴブリン……。」


ヴィルが小さく呟く。


その周囲にはゴブリンが三体。


まだこちらには気付いていない。


ヴィルは小声で尋ねる。


「どうする?」


アイナも静かに様子を見る。


「証を取りに行くなら。」


「無理に戦わなくても。」


ヴィルは頷いた。


「できれば避けたい。」


ホブゴブリンを倒せば試験終了。


しかし疲労も大きい。


今ならまだ気付かれていない。


慎重に迂回しようとした、その時。


ガサッ。


ヴィルの足元で小石が転がった。


「しまっ!」


一体のゴブリンが振り向く。


「ギャッ!」


叫び声がダンジョンへ響く。


ホブゴブリンがゆっくりとこちらを向いた。


赤い目が二人を捉える。


「グルルル……。」


低い唸り声。


次の瞬間。


ホブゴブリンが剣を振り上げ、大きく咆哮した。


「グオオオオッ!!」


その声を合図に、ゴブリンたちが一斉に駆け出す。


ヴィルは剣を構え、深く息を吸った。


「アイナ!」


「いつも通り!」


アイナは弓へ矢をつがえる。


「任せて!」


二人の初めてのダンジョン最大の戦いが、今まさに幕を開けようとしていた。

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