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蒼と紅の冒険譚  作者: レイヴン
旅立ち
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第十八話  初めての対人戦、その結末

「はあっ!」


ヴィルの剣が男の剣と激しくぶつかる。


金属音が森へ響き渡った。


相手は魔物ではない。


剣の軌道を読み、こちらの動きを見て攻撃を変えてくる。


「くっ……!」


ヴィルは盾で男の斬撃を受け流しながら距離を取った。


(強い……。)


魔物との戦いとはまるで違う。


ゴブリンなら勢い任せに突っ込んでくる。


フォレストウルフなら本能で動く。


しかし目の前の男たちは違う。


フェイントを入れ、仲間と連携し、隙を狙ってくる。


対人戦の経験がほとんどないヴィルは、その違いに苦戦していた。


「ヴィル!」


後方からアイナの声が飛ぶ。


ヒュッ!


一本の矢が男の足元へ突き刺さる。


男は反射的に飛び退いた。


その一瞬の隙をヴィルは見逃さない。


「ありがとう!」


剣を振るう。


男は辛うじて受け止めたものの、大きく体勢を崩した。


「ちっ!」


舌打ちをしながら距離を取る。


アイナは次々と矢を放ち続ける。


狙うのは急所ではない。


ヴィルが戦いやすくなる位置。


相手の動きを制限する場所。


「左!」


「うん!」


ヴィルは声だけで意図を理解する。


左から迫っていた男へ盾を向ける。


ガンッ!


棍棒を弾き返す。


その隙にアイナの火球が飛んだ。


「炎よ!」


爆炎が男たちの前で弾ける。


煙が立ち込める。


「今!」


ヴィルが煙の中へ飛び込む。


男たちは慌てて剣を構えた。


しかし完全には踏み込めない。


後ろには少女がいる。


ヴィルは何よりも少女を守ることを優先していた。


そのため、大きく前へ出ることができない。


男たちもそれを理解しているのか、じりじりと距離を詰めてくる。


「嬢ちゃん。」


一人の男が笑った。


「その子を渡せ。」


「そうすりゃ命だけは助けてやる。」


ヴィルは即座に首を横へ振る。


「断る。」


「絶対に渡さない!」


少女はヴィルの後ろで震えていた。


「お姉ちゃん……。」


「大丈夫。」


ヴィルは振り返らずに答える。


「絶対に守るから。」


その言葉を聞き、少女は小さく頷いた。


アイナも少女の前へ少しだけ移動する。


「安心して。」


「私たちがいる。」


そう言った自分自身に、少し驚いていた。


少し前までの自分なら、人を安心させる言葉など掛けられなかった。


それでも今は違う。


ヴィルの隣だから。


守りたいと思えた。


「行くよ!」


ヴィルは剣を握り直す。


「風よ!」


足元へ風が集まる。


一気に加速。


地面を蹴り、男との距離を一瞬で詰めた。


「速っ!」


男が目を見開く。


ヴィルの剣が横薙ぎに走る。


男は間一髪で受け止めた。


ギィィン!


火花が散る。


「まだ!」


ヴィルは風の勢いを利用し、そのまま連続で斬り込む。


上段。


横薙ぎ。


突き。


父との修行で身につけた基本剣術を、風魔法でさらに鋭くする。


男は必死に防ぐ。


「このガキ……!」


「ただの冒険者じゃねぇ!」


しかし相手も場数を踏んでいる。


連続攻撃の合間を見つけると、剣を滑らせるように受け流した。


ヴィルの体勢が少し崩れる。


そこを別の男が狙う。


「もらった!」


「ヴィル!」


アイナが叫ぶ。


矢を放つ。


男は咄嗟に身をひねる。


矢は肩をかすめるだけだった。


それでも十分だった。


ヴィルはすぐに距離を取り直す。


「ありがとう!」


「うん!」


二人の呼吸はぴったりだった。


しかし状況は変わらない。


相手は三人。


こちらは二人。


しかも守るべき少女までいる。


少しでも判断を誤れば、一気に崩される。


ヴィルは唇を噛んだ。


(このままじゃ……。)


長引けば不利になる。


その時だった。


「おい!」


森の奥から声が響く。


「誰かいるぞ!」


「急げ!」


複数の足音。


男たちの表情が変わる。


「ちっ!」


現れたのは剣や槍を持った冒険者たちだった。


依頼で近くを巡回していたパーティーらしい。


先頭の男が状況を見るなり叫ぶ。


「人さらいだ!」


「囲め!」


一気に人数が増える。


男たちは互いに顔を見合わせた。


「……仕方ねぇ。」


「今日は引くぞ!」


「逃がすか!」


ヴィルが追おうとする。


しかし男たちは煙玉を地面へ叩き付けた。


ボンッ!!


白い煙が一気に広がる。


「けほっ!」


視界が真っ白になる。


煙が晴れた頃には、男たちの姿は消えていた。


「逃げられた……。」


ヴィルは悔しそうに拳を握る。


応援に来た冒険者が肩を叩いた。


「無茶するな。」


「君たちだけでよく時間を稼いだ。」


「ありがとう。」


ヴィルは頭を下げる。


「助かりました。」


少女は涙を流しながらヴィルたちへ駆け寄った。


「ありがとう、お姉ちゃん!」


「怖かった……。」


ヴィルはしゃがみ込み、優しく頭を撫でる。


「もう大丈夫。」


アイナも穏やかに微笑む。


「お家まで送ろう。」


少女は何度も頷いた。


◇ ◇ ◇


少女を家まで送り届けると、両親は涙を流して何度も頭を下げた。


「本当にありがとうございました!」


「娘が無事で……。」


ヴィルは照れくさそうに笑う。


「間に合ってよかったです。」


アイナも静かに会釈した。


◇ ◇ ◇


夕方。


二人はギルドへ戻り、アッシュへ一部始終を報告した。


アッシュの表情はすぐに険しくなる。


「やはり現れたか。」


「三人組でした。」


ヴィルが答える。


「少女を連れ去ろうとしていました。」


「逃げられたのは残念ですが、被害者を守れたのは大きい。」


アッシュは二人を見つめる。


「初めての対人戦だったな。」


「はい。」


「どうだった?」


ヴィルは少し考えた。


「魔物とは全然違いました。」


「怖かったです。」


アイナも静かに続ける。


「でも……。」


ヴィルを見る。


「一人じゃなかったから。」


ヴィルも笑って頷いた。


「私も。」


アッシュは腕を組みながら満足そうに息を吐く。


「いい経験になった。」


「だが覚えておけ。」


「人間は魔物より厄介だ。」


「次はもっと冷静に戦えるようになれ。」


「はい!」


二人は力強く返事をした。


ギルドを出る頃には、街は夕焼けに包まれていた。


初めての対人戦。


勝ったとは言えない。


敵を捕まえることもできなかった。


それでも少女を守り抜き、無事に家族のもとへ帰すことはできた。


ヴィルとアイナは互いに顔を見合わせ、小さく笑う。


この経験は、二人をまた一歩、本物の冒険者へと成長させたのだった。

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