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蒼と紅の冒険譚  作者: レイヴン
旅立ち
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第十七話 初めての対人戦

朝日がカーテンの隙間から部屋へ差し込む。


アイナはゆっくりと目を開けた。


昨夜は嫌な夢を見たはずだった。


暗い牢屋。


冷たい鎖。


思い出したくもない過去。


それでも、いつもとは違っていた。


目を覚ました時、不思議と胸の苦しさは残っていない。


「……?」


ふと隣のベッドを見る。


誰もいない。


「ヴィル?」


部屋を見回したアイナは、思わず吹き出しそうになった。


ベッドの横。


床の上で毛布にくるまりながら、ヴィルが気持ち良さそうに眠っている。


どうやら寝ている間に転げ落ちたらしい。


「……ふふ。」


自然と笑みがこぼれた。


「寝相、悪い。」


昨夜の不安が嘘のように消えていた。


こんなふうに笑えたのは、いつ以来だろう。


アイナは鏡の前へ向かい、寝癖を整え始める。


長い深紅の髪を丁寧に梳かしていると、


「ん〜……。」


床から小さな声が聞こえた。


ヴィルが目を覚ましたのだ。


「……あれ?」


きょろきょろと辺りを見回し、自分が床に寝ていることに気付く。


「また落ちたぁ……。」


頭をかきながら苦笑するヴィル。


アイナは思わず笑ってしまった。


「ヴィル。」


「寝相……悪い。」


「うぅ……。」


ヴィルは恥ずかしそうに頬をかく。


「昔からなんだよね。」


「宿でも何回か落ちてたし。」


「ふふ。」


アイナは小さく笑う。


その笑顔を見たヴィルも嬉しそうだった。


「よかった。」


「今日は笑ってる。」


アイナは少し照れながら頷いた。


「……うん。」


◇ ◇ ◇


身支度を終えた二人は宿の食堂で朝食を食べる。


焼き立てのパン。


温かいスープ。


目玉焼き。


「いただきます。」


「いただきます。」


「今日は何の依頼にしようか?」


「見回りか討伐かな。」


そんな他愛もない話をしながら食事を済ませる。


一緒に暮らし始めたことで、これまでより自然に会話が増えていた。


食後、二人はギルドへ向かった。


◇ ◇ ◇


「おはようございます!」


ヴィルが元気よく挨拶すると、アッシュも頷く。


「今日も依頼か。」


「はい!」


依頼掲示板から選んだのは、森の巡回と魔物討伐を兼ねた依頼だった。


「気を付けろ。」


アッシュは昨日と同じように真剣な表情で言う。


「最近は物騒だからな。」


「はい。」


二人は森へ向かった。


◇ ◇ ◇


森の中。


スライムを二体。


ゴブリンを三体。


順調に討伐を終えた。


「今日も依頼達成だね。」


ヴィルが剣を鞘へ納める。


「帰ろうか。」


アイナが頷いた、その時だった。


「いやぁぁぁぁ!!」


少女の悲鳴。


森中へ響き渡る。


ヴィルとアイナは同時に顔を上げた。


「今の声!」


「向こう!」


二人は全力で駆け出す。


木々を抜けた先。


そこには十歳くらいの少女が尻もちをついていた。


その前には黒い服を着た男が三人。


少女を囲み、逃げ道を塞いでいる。


「いや……来ないで……!」


男の一人が少女の腕を掴もうとした。


その瞬間。


「やめろ!!」


ヴィルの声が森へ響いた。


三人の男が振り返る。


ヴィルは少女の前へ立ち、剣を抜いた。


アイナもすぐ後ろで弓を構える。


「何をしてる!」


ヴィルが鋭く睨みつける。


男たちは一瞬驚いた様子を見せたが、すぐにいやらしい笑みを浮かべた。


「ほぉ。」


「これはまた……。」


一番大柄な男がヴィルとアイナを舐め回すように見つめる。


「なかなかの上玉じゃねぇか。」


「子ども一人だけの予定だったが……。」


「二人増えたな。」


男たちは下卑た笑い声を上げた。


その笑いを聞いた瞬間。


アイナの身体が震えた。


(この笑い声……。)


忘れることのできない記憶が蘇る。


ヴィルは小さく一歩前へ出る。


「アイナ。」


「うん……!」


短く返事をする。


恐怖はある。


それでも今は一人じゃない。


ヴィルが前にいる。


「その子は私たちが守る。」


ヴィルが剣を構えた。


男の一人が鼻で笑う。


「小娘が。」


「捕まえろ!」


その号令と同時に三人が一斉に飛び出した。


「ヴィル!」


三方向から迫る男たち。


魔物とは違う。


人間相手の戦い。


ヴィルは一瞬だけ反応が遅れた。


「っ!」


剣が振り下ろされる。


咄嗟に盾で受け止める。


ガキィン!!


金属音が響く。


しかし右からもう一人。


「しまっ!」


避けきれない。


ヒュッ!!


一本の矢が風を切った。


「ぐっ!」


男の肩へ突き刺さる。


「アイナ!」


「ヴィル!」


アイナは素早く二本目の矢をつがえる。


さらに火魔法を重ねる。


「炎よ!」


火球が男たちの足元で炸裂した。


爆炎に驚いた男たちが距離を取る。


「助かった!」


ヴィルはすぐに体勢を立て直し、前へ踏み込む。


「はあっ!」


剣が男の剣とぶつかる。


力は相手が上。


それでも風魔法で身体を加速させ、正面から押し負けない。


男は驚いたように目を見開く。


「このガキ……!」


アイナは周囲を見渡しながら次の矢を構える。


ヴィル一人に集中させない。


そのために援護を続ける。


二人にとって初めての対人戦。


相手は魔物とは違い、狡猾で連携も取れている。


それでもヴィルとアイナは背中を預け合い、一歩も退かなかった。


森の静寂を破る剣戟と矢の音。


少女を守るための戦いが、今まさに始まった。

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