第十五話 広がる世界と小さな変化
ヴィルがEランクへ昇格してから数日。
ギルドで受けられる依頼も、これまでとは少しずつ変わり始めていた。
依頼掲示板には、以前より難易度の高い依頼が並んでいる。
「本当にEランクの依頼が受けられるんだ。」
ヴィルは嬉しそうに依頼書を眺めた。
「少し難しくなった。」
アイナも静かに頷く。
薬草採取だけではなく、街道の巡回や護衛、複数の魔物討伐など、責任の重い依頼が増えていた。
「頑張ろう!」
「うん。」
二人は顔を見合わせ、笑顔で頷いた。
受付へ向かうと、アッシュが一枚の依頼書を差し出す。
「今日は街の見回りだ。」
「また見回りですか?」
ヴィルが依頼書を見ると、思わず目を丸くした。
「範囲が広い……。」
以前担当した街道だけではない。
今回は隣町へ続く街道の一部まで含まれていた。
「Eランクになれば行動範囲も広がる。」
アッシュは二人を見ながら続ける。
「魔物も以前より多いかもしれん。」
「油断するな。」
ヴィルは力強く頷く。
「はい!」
アイナも真剣な表情で答えた。
「……行ってきます。」
◇ ◇ ◇
二人は街を出て、広くなった担当区域を巡回する。
「結構広いね。」
「今日は歩く距離も長そう。」
途中、小さなスライムを発見する。
「任せて。」
ヴィルが前へ出る。
一撃でスライムを倒すと、魔石へ変わった。
「順調だね。」
さらに街道を進むと、今度はゴブリンが二体現れる。
「ヴィル!」
「うん!」
ヴィルが正面から飛び込み、一体の攻撃を盾で受け止める。
その隙にアイナの矢がもう一体へ命中した。
「炎よ。」
小さな火球が炸裂し、ゴブリンは倒れる。
残った一体もヴィルの剣で仕留められた。
その後もスライムやゴブリンを数体討伐しながら巡回を続ける。
大きな異常は見つからず、夕方には街へ戻った。
「依頼達成です!」
ヴィルが魔石を提出すると、アッシュは満足そうに頷く。
「問題なし。」
「Eランクの依頼も十分こなせているな。」
その言葉にヴィルは嬉しそうに笑った。
「ありがとうございます!」
アイナも小さく笑みを浮かべる。
二人は確実に成長していた。
◇ ◇ ◇
翌朝。
再びギルドを訪れると、いつもより少し空気が張り詰めていた。
依頼を受けようとした二人を、アッシュが呼び止める。
「ヴィル、アイナ。」
「はい!」
「最近、この周辺で怪しい人物の目撃情報が増えている。」
ヴィルは首を傾げる。
「怪しい人ですか?」
「ああ。」
アッシュは表情を引き締める。
「旅人を装っているらしいが、目的は分かっていない。」
「犯罪者か、それとも別の何かか……まだ調査中だ。」
「だから、お前たちも十分注意しろ。」
「分かりました!」
ヴィルはいつも通り元気よく返事をした。
しかし、その隣ではアイナの様子が違っていた。
「……はい。」
返事はしたものの、その声は震えていた。
顔色も少し青い。
両手は無意識に強く握り締められている。
ヴィルはその横顔を見て、すぐに気付いた。
(もしかして……。)
怪しい人物。
その言葉が、アイナの過去を思い出させたのだろう。
奴隷商人。
犯罪組織。
追われ続けた日々。
無理に聞く必要はない。
そう思ったヴィルは、何も言わずにそっとアイナの手へ自分の手を重ねた。
「ヴィル……?」
突然のことにアイナが驚く。
ヴィルは優しく微笑んだ。
「大丈夫。」
「私もいるから。」
その一言だけだった。
アイナは少しだけ目を見開く。
そして、ゆっくりと握り返した。
「……うん。」
震えていた手から少しずつ力が抜けていく。
胸の奥を締め付けていた不安も、少しだけ和らいだ気がした。
ヴィルは何も追及しない。
それでも隣にいてくれる。
ただ手を握ってくれるだけで、不思議と安心できた。
「行こうか。」
「……うん。」
二人は並んでギルドを後にする。
繋がれた手は、しばらく離れることはなかった。
その温もりは、アイナの凍りついていた心を少しずつ溶かしていく。
しかし、二人はまだ知らない。
アッシュが口にした「怪しい人物」が、やがてアイナの過去、そして二人の運命を大きく揺るがす存在へと繋がっていくことを――。




