↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼と紅の冒険譚  作者: レイヴン
旅立ち
12/31

第十一話 信頼と光魔法

「だから、一緒に倒そう。」


右腕から血を流しながらも、ヴィルは前へ出た。


痛みで右手は痺れている。


それでも剣は離さない。


アイナはその背中を見つめ、小さく息を吸った。


「ヴィル……その腕……。」


「大丈夫。」


苦しそうに笑いながらも、ヴィルは前を向いたままだった。


「アイナ。」


「うん。」


「私が隙を作る。」


ヴィルは盾を構え直す。


「その瞬間にお願い。」


「全部……倒して。」


アイナは一瞬だけ目を閉じる。


そして力強く頷いた。


「任せて。」


その言葉を聞いたヴィルは笑った。


「よし。」


ゴブリンたちが奇声を上げながら突撃する。


「ギャア!」


先頭の一体が棍棒を振り下ろす。


ガキィン!!


ヴィルは左手の盾で受け止めた。


右腕は使えない。


だからこそ、無駄なく盾を操る。


受け流す。


弾く。


体勢を崩させる。


「今!」


その一声と同時に、アイナが弓を引き絞る。


ヒュッ!


矢が一直線に飛ぶ。


体勢を崩したゴブリンの胸へ突き刺さった。


「炎よ!」


矢尻から炎が噴き上がる。


爆ぜる炎。


ゴブリンは悲鳴を上げ、そのまま魔石へ変わった。


残る二体。


一体が横へ回り込み、もう一体が正面から突っ込む。


ヴィルは冷静だった。


「風よ。」


足元へ風をまとわせる。


一歩だけ踏み込む。


真正面のゴブリンへ盾をぶつけた。


「ギャッ!」


怯んだ瞬間。


ヴィルは身体をひねり、横から来た棍棒を剣で受け流す。


金属音が森へ響く。


右腕に激痛が走る。


「っ……!」


歯を食いしばる。


まだ倒れない。


「アイナ!」


「うん!」


アイナはすでに次の矢を番えていた。


放つ。


ゴブリンは避ける。


だが、それも予想の内だった。


「炎よ!」


火球が着弾する。


爆風に巻き込まれたゴブリンの動きが止まる。


「そこ!」


二本目の矢。


眉間へ命中。


ゴブリンは崩れ落ち、魔石へ変わった。


「あと一体!」


最後のゴブリンは仲間が倒されたことに焦ったのか、大きく叫びながらヴィルへ飛び掛かった。


「ギャアアア!」


棍棒が振り下ろされる。


ヴィルは半歩だけ動く。


盾で軌道を逸らす。


そのまま剣を振るう。


しかし右腕の痛みで斬撃が浅い。


「しまっ……!」


ゴブリンはまだ倒れない。


逆に距離を詰めてきた。


「ヴィル!」


アイナが叫ぶ。


ヴィルは咄嗟に盾を押し出す。


ドンッ!!


ゴブリンが体勢を崩した。


「今だ!」


アイナは大きく息を吸う。


弓を限界まで引き絞る。


狙う。


ぶれない。


ヴィルが信じて作ってくれた、この一瞬だけを。


「はぁっ!」


放たれた矢は風を切り裂き、一直線に飛ぶ。


ゴブリンの喉を正確に射抜いた。


「ギ……。」


小さく声を漏らし、その身体は光に包まれる。


そして魔石へと変わった。


森は静寂に包まれた。


「終わった……。」


ヴィルは安心したように剣を納める。


その瞬間。


ガクッ。


「ヴィル!」


膝をついた。


右腕から流れる血が地面を赤く染める。


苦しそうに息を吐く。


「ちょっと……痛かったかも。」


無理に笑おうとするが、その表情は苦悶に歪んでいた。


アイナはすぐ駆け寄る。


「動かないで。」


「でも……。」


「お願い。」


その真剣な声にヴィルは黙って頷いた。


アイナはヴィルの右腕へ両手を添える。


静かに目を閉じた。


「光よ。」


柔らかな白金色の光が手のひらから溢れる。


温かな光が傷口を包み込む。


ヴィルは驚いて目を見開いた。


「これ……。」


裂けていた皮膚がゆっくりと閉じていく。


血が止まり、腫れも引いていく。


骨まで響いていた痛みが、少しずつ消えていく。


数分もしないうちに、腕は元通りに動かせるまで回復していた。


ヴィルは何度か腕を動かして驚く。


「すごい……。」


アイナは少しだけ俯く。


「私……火魔法だけじゃない。」


「光魔法も使えるの。」


ヴィルはさらに驚いた。


光属性。


それは回復魔法を扱える極めて珍しい属性。


さらに、アイナは火属性も扱う。


二つの属性を持つ魔導士など滅多にいない。


「すごいじゃない!」


ヴィルは心から嬉しそうに言った。


「こんなに早く治るなんて!」


「……昔から。」


アイナは少しだけ寂しそうに笑う。


「怪我をしても誰も助けてくれなかったから。」


「自分で治せるようになっただけ。」


その一言だけで、どれほど過酷な過去だったのかが伝わる。


ヴィルは静かにアイナの手を握った。


「ありがとう。」


「助かったよ。」


アイナは小さく首を振る。


「違う。」


「え?」


「ありがとうは……私。」


ヴィルは首を傾げる。


「私を……かばってくれた。」


アイナの瞳が少し潤んでいた。


「また守ってくれた。」


ヴィルは照れくさそうに笑う。


「仲間だから。」


「当たり前だよ。」


その言葉に、アイナも少しだけ笑った。


「……うん。」


二人は魔石を拾い集め、街へ戻った。


◇ ◇ ◇


ギルドへ戻ると、アッシュがすぐに二人へ気付いた。


「帰ったか。」


「依頼達成しました!」


ヴィルが袋いっぱいの魔石を差し出す。


アッシュは数を確認し、静かに頷いた。


「全部倒したか。」


「はい。」


しかしヴィルの服についた血痕を見る。


「怪我をしたのか?」


「ちょっとだけ。」


「もう治りました。」


ヴィルが腕を動かして見せると、アッシュは驚いた。


「その傷が?」


アイナは少し戸惑いながら答える。


「……光魔法です。」


アッシュの目が見開かれる。


「光属性か。」


「しかもこの治癒速度……。」


一瞬だけ考え込む。


「その力は滅多にいない。」


「むやみに人へ見せるな。」


アイナは静かに頷いた。


「……はい。」


アッシュは改めて二人を見る。


「今日の依頼、見事だった。」


「報酬だ。」


袋を受け取るヴィルは笑顔だった。


「ありがとうございます!」


◇ ◇ ◇


帰り道。


夕焼けが街を赤く染めている。


「今日は豪華にしよう!」


ヴィルが笑う。


「うん。」


食堂では温かいシチューと焼き立てのパンを注文した。


「いただきます。」


「いただきます。」


戦いの後の食事は格別だった。


「おいしい。」


アイナが自然にそう口にする。


ヴィルは嬉しそうに笑う。


「最近、いっぱい話してくれるようになったね。」


アイナは少し照れながら答えた。


「……そうかな。」


「うん。」


「前よりずっと。」


少し沈黙が流れる。


やがてアイナは静かに口を開いた。


「ヴィル。」


「ん?」


「私……。」


少しだけ笑う。


「ヴィルとなら。」


「これからも……やっていけそう。」


その言葉を聞いたヴィルは満面の笑みを浮かべた。


「もちろん!」


「これからも一緒に頑張ろう!」


「うん。」


その返事は、初めて出会った頃とは違う。


迷いのない、温かな声だった。


こうして二人は少しずつ信頼を積み重ねていく。


蒼い風は紅い炎を守り、紅い炎は蒼い風を支える。


互いに足りないものを補い合う二人は、まだ駆け出しの冒険者でありながら、誰にも負けない絆を育み始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。