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蒼と紅の冒険譚  作者: レイヴン
旅立ち
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第十話 絶対守る

フォレストウルフ五体討伐。


少し前までなら考えられなかった依頼を、ヴィルとアイナは無事に達成した。


報酬を受け取ってギルドを出る帰り道。


夕暮れの街を歩きながら、ヴィルは嬉しそうに笑っていた。


「思ったより大変だったけど、達成できてよかったね。」


「……うん。」


「アイナの弓、本当に頼りになったよ。」


「そんなこと……。」


照れたように目を逸らすアイナ。


「ヴィルが前で戦ってくれたから。」


「それが私の役目だからね。」


ヴィルは当たり前のように笑う。


その笑顔を見て、アイナは胸の奥に小さな違和感を覚えていた。


(……私は。)


いつからだろう。


ヴィルの言葉を信じるようになっていた。


戦うときも。


食事をするときも。


宿へ帰るときも。


気付けば隣にヴィルがいるのが当たり前になっている。


(人を……信じるなんて。)


奴隷だった頃は、誰も信じられなかった。


優しい言葉のあとには暴力が待っていた。


笑顔の裏には必ず何かあった。


だから、人を信じることなど二度とないと思っていた。


なのに。


「アイナ?」


「え?」


「どうしたの?」


「……なんでもない。」


小さく首を振る。


(私は……変わってきてる。)


そのことに、自分自身が一番驚いていた。


◇ ◇ ◇


翌朝。


いつものようにギルドへ向かうと、アッシュが二人を呼び止めた。


「ちょうどよかった。」


「おはようございます!」


「おはよう……ございます。」


アッシュは一枚の依頼書を差し出した。


「街の見回りだ。」


ヴィルが依頼書を見る。


「街道でゴブリンの目撃情報?」


「ああ。」


アッシュは頷く。


「まだ被害は出ていないが、旅人が襲われる前に始末したい。」


「数は?」


「三体ほどという報告だ。」


ヴィルはアイナを見る。


「どうする?」


「……受けよう。」


アイナは迷わず答えた。


「よし。」


ヴィルは依頼書を手に取る。


「行ってきます!」


◇ ◇ ◇


街道へ続く森の入口。


鳥の鳴き声だけが響く静かな道だった。


ヴィルは周囲を見回す。


「静かだね。」


「でも……何かいる。」


アイナは弓を握る。


風が止まる。


その瞬間だった。


「ギギャ!」


草むらから緑色の小柄な魔物が飛び出した。


ゴブリンだ。


一体。


二体。


三体。


「いた!」


ヴィルが剣を抜く。


「アイナ、後ろお願い!」


「うん!」


ゴブリンたちは棍棒を振り上げ、一斉に突っ込んでくる。


ヴィルは真正面から迎え撃った。


ガキン!


棍棒を盾で受け止める。


「はあっ!」


返す刃で一体を斬り伏せる。


魔石へ変わる。


その隙に二体目が横から飛び込む。


「風よ!」


風をまとった斬撃がゴブリンを吹き飛ばす。


アイナも弓を引いた。


放たれた矢が三体目の肩へ突き刺さる。


「炎よ!」


火球が炸裂する。


ゴブリンは悲鳴を上げながら倒れた。


「終わっ――」


ヴィルがそう言いかけた、その時だった。


ガサッ。


森の奥から音が響く。


「……!」


振り返る。


そこにはさらに三体のゴブリンが現れていた。


「増援!?」


ゴブリンたちは奇声を上げながら突撃してくる。


「アイナ!」


「わかってる!」


アイナはすぐに矢を放つ。


一本目。


命中。


だが残る二体は止まらない。


ヴィルも前方の二体を相手にしていた。


四方から棍棒が振り下ろされる。


ガキン!


盾で受け止める。


しかし横からもう一撃。


「くっ!」


体勢が崩れる。


「風よ!」


風を足へ集中させ、無理やり距離を取る。


「数が……!」


さすがに多い。


一体なら問題ない。


二体でも対応できる。


しかし三体同時では攻撃の隙がほとんどない。


一方のアイナも苦戦していた。


「炎よ!」


火球を放つ。


一体の足元で爆ぜる。


転倒した隙に矢を放つ。


「はっ!」


矢は胸へ命中。


ゴブリンは倒れた。


しかし残る二体が左右へ散る。


「しまっ……!」


同時に来る。


アイナは後ろへ飛び退く。


一本。


二本。


矢を放つ。


一体の肩へ命中。


さらに火球。


爆炎がゴブリンを包む。


「まだ!」


最後の一体が目前まで迫る。


アイナは素早く矢をつがえた。


距離は近い。


外せない。


「お願い!」


放たれた矢は喉へ突き刺さった。


ゴブリンはその場へ倒れ込む。


「はぁ……はぁ……。」


息を整える。


その瞬間だった。


「ヴィル!」


叫ぶ。


ヴィルはまだ二体を相手にしていた。


そのうち一体が突然方向を変える。


狙いは――


「アイナ!」


ゴブリンが一直線に駆ける。


あまりにも突然だった。


アイナの反応が一瞬遅れる。


(間に合わない。)


棍棒が振り上げられる。


その時。


「風よ!」


轟っ!!


ヴィルが全身へ風魔法をまとった。


地面を蹴る。


まるで風そのものになったような速度。


アイナの前へ飛び込む。


ドゴッ!!


鈍い音が響く。


「ヴィル!」


棍棒が右腕へ直撃した。


衝撃でヴィルが吹き飛ぶ。


地面を転がりながらも立ち上がる。


右腕から赤い血が流れていた。


「だ、大丈夫!?」


「大丈夫……。」


そう答えるが、右腕は震えている。


剣を握る力も弱くなっていた。


ゴブリンたちは勝機と見たのか、一斉に笑いながら距離を詰めてくる。


「ギャギャギャ!」


「まだ……終わってない。」


ヴィルは左手で盾を構え、震える右手で剣を握り直す。


痛みで腕が痺れる。


それでも剣は離さない。


アイナはヴィルの背中を見つめていた。


(また……。)


また守られた。


奴隷だった頃。


誰も助けてくれなかった。


苦しくても。


泣いても。


誰も。


だけどヴィルは違う。


自分が傷付いてまで守ってくれた。


「ヴィル……。」


その声にヴィルは振り返らず言った。


「アイナ。」


短く息を吸う。


「私は大丈夫。」


その声は震えていた。


痛みに耐えているのが分かる。


それでも続ける。


「だから、一緒に倒そう。」


その一言で、アイナの瞳に強い光が宿る。


「……うん。」


弓を握る手に力が入る。


ヴィルが前へ踏み出す。


アイナも静かに矢をつがえた。


まだ戦いは終わっていない。


二人は互いを信じ、迫り来るゴブリンたちへ再び立ち向かうのだった。

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