第九話 連携して戦う
朝のギルドは、今日も多くの冒険者で賑わっていた。
ヴィルとアイナが依頼掲示板を眺めていると、受付に立つアッシュが手招きした。
「お前たち、少しいいか。」
「はい。」
二人が受付へ向かうと、アッシュは一枚の依頼書を差し出した。
「最近の働きは見ていた。薬草採取に魔物討伐、どれも安定している。」
ヴィルは少し照れながら笑う。
「ありがとうございます。」
「だから、そろそろ一段上の依頼を受けてみろ。」
依頼書にはこう書かれていた。
『フォレストウルフ五体討伐』
「森の奥で数が増えているらしい。放っておくと旅人が襲われる危険がある。」
ヴィルは依頼書を見つめた。
「フォレストウルフ……。」
「群れで動く魔物だ。角ウサギよりずっと素早い。」
アイナの表情が少しだけ強張る。
それに気付いたアッシュは穏やかに笑った。
「安心しろ。」
そして二人を真っ直ぐ見た。
「今のお前たちなら達成できる。」
その一言には迷いがなかった。
ヴィルはアイナを見た。
「行こう。」
アイナも小さく頷く。
「……うん。」
◇ ◇ ◇
町を出る前、二人は武具屋へ立ち寄った。
店主が矢束を並べる。
「これなら丈夫だぞ。」
アイナは少し緊張しながら矢を手に取る。
「これだけあれば十分かな……。」
以前までは一本一本が貴重で、無駄撃ちはできなかった。
しかし依頼を重ね、少しずつ報酬も貯まってきた。
ようやく戦いで思い切って矢を使えるようになったのだ。
店を出ると、ヴィルが笑う。
「新しい矢、楽しみ?」
「……少し。」
アイナは嬉しそうに矢筒を背負い直した。
◇ ◇ ◇
森へ入る。
木漏れ日が差し込む静かな森。
しかし奥へ進むにつれ空気が張り詰めていく。
ヴィルは剣の柄に手を添えた。
「気配がする。」
アイナも弓を構える。
その瞬間だった。
茂みから灰色の影が飛び出す。
「来た!」
フォレストウルフだ。
鋭い牙を剥き、一直線に飛びかかる。
ヴィルは一歩踏み込み、剣を振るった。
「はあっ!」
風をまとった斬撃が狼を弾き飛ばす。
だが、それで終わらない。
左右からさらに二体。
「アイナ!」
「任せて!」
弓を引き絞る。
放たれた矢が一体の肩へ突き刺さる。
「炎よ!」
矢尻に火が宿る。
次の瞬間、小さな爆炎が弾けた。
「ギャアッ!」
狼が悲鳴を上げて転がる。
ヴィルはすぐに残る一体へ向き直った。
「風よ!」
足元へ風をまとい、一気に間合いを詰める。
鋭い一閃。
狼は魔石へと変わった。
「あと三体!」
息を整える間もなく、遠くから唸り声が響く。
木々の間から三体のフォレストウルフが姿を現した。
その中心に、一回り大きな個体がいる。
「リーダー……?」
ヴィルが呟く。
大きな個体が低く唸ると、二体が左右へ散った。
「囲まれる!」
ヴィルはすぐに理解した。
「アイナ、下がって!」
「うん!」
アイナは距離を取りながら矢を放つ。
一本。
二本。
三本。
正確な射撃が狼の動きを止める。
「炎よ!」
火球が飛び、傷口を焼く。
その隙にヴィルが駆ける。
「はああっ!」
剣が風を切り裂き、一体を仕留めた。
しかし残る二体は止まらない。
一体が大きく跳び上がった。
狙いは――アイナ。
「っ!」
避けきれない。
その瞬間。
ヴィルが二人の間へ飛び込んだ。
ガキンッ!!
小盾が牙を受け止める。
衝撃で足が滑る。
「ヴィル!」
「大丈夫!」
狼が再び飛びかかる。
ヴィルは盾で押し返し、そのまま剣を振り抜いた。
鮮やかな斬撃。
狼は地面へ倒れ、魔石へ変わる。
残るは最後の一体。
リーダー格のフォレストウルフは警戒するように距離を取った。
「アイナ!」
「うん!」
二人の視線が交わる。
もう言葉はいらなかった。
アイナが矢を放つ。
狼は横へ跳ぶ。
その動きはヴィルの予想通りだった。
「そこだ!」
風をまとった身体が一気に加速する。
狼の横へ回り込み、渾身の一撃を叩き込む。
「終わりだ!」
剣閃が走る。
リーダー格の狼は静かに崩れ落ち、魔石へと姿を変えた。
森に静寂が戻る。
ヴィルは剣を納め、大きく息を吐いた。
「終わった……。」
アイナも安堵の表情を浮かべる。
「うん……。」
二人で魔石を拾い集め、依頼達成の証を確認する。
「五体、全部あるね。」
「よかった。」
帰り道。
ヴィルが少し心配そうに尋ねる。
「さっき怖くなかった?」
アイナは少し考え、静かに答えた。
「怖かった。」
「ごめん。」
「でも。」
アイナはヴィルを見る。
「ヴィルが守ってくれるって、信じられた。」
その言葉にヴィルは少し照れくさそうに笑った。
「これからも守るよ。」
「……うん。」
小さく頷いたアイナの表情は、どこか安心しきったものだった。
ギルドへ戻ると、アッシュが魔石を確認して満足そうに頷く。
「見事だ。」
「達成しました!」
ヴィルが元気よく答える。
「危ない場面もありましたけど……。」
アッシュは笑みを浮かべた。
「危険があるのは当然だ。それでも互いを信じ、役割を果たした。」
そう言って二人を見渡す。
「もうお前たちは、立派なパーティーだ。」
その言葉にヴィルは笑顔を見せ、アイナも少し照れながら微笑んだ。
二人はまだ駆け出しの冒険者。
それでも今日の戦いで、一人ではなく"二人で戦う強さ"を確かに手に入れたのだった。




