98話 マスターの憂鬱(ゆううつ)
チェック作業終わったので、第三章をスタートします!
世に美食の国として名高いシグベルム共和国に、ヴィリオーサが降り立ってからしばらくたった頃。
連日シグベルム人の客で満員の〈喫茶シルエ〉では、閉店後のカウンターの中で、ホクホク顔のしずくが売上金を確認していた。
「こんなにメルダ硬貨がたくさん! これでやっと、街でお買い物ができる!」
「……ぼくが、こんなにも落ち込んでいるのに、しずくさんは、ずいぶんと嬉しそうですね」
恨みがましそうなマスターを見たしずくが呆れ顔になる。
「そんなことを言ったって、マスターが会議に出るのは決定事項なんでしょ? なら、いつまでもウダウダ言ってないで、さっさと出かける準備をしなくちゃ」
「うう、しずくさんが冷たいです……」
この世界にとって重要な役割を担う太古の神の一柱である、〈大地の神〉ヴィリオーサの所在が明らかになったことにより、急遽神々の間で、今後の事を話し合うための会議が行われることになった。
当然ながら、神であるマスターの所にも連絡が来て出席することになったのだが、しずくたちを置いて店を離れるのが嫌で堪らない彼は、こうして朝からぐずっているのだ。
「今回開かれる会議は、この世界が滅びちゃわないようにするための、とても重要な会議なんでしょ? それなら絶対に出席しないと」
マスターの話によると、今この世界は、緩やかに滅びに向かっているらしい。
その原因は、大きな戦が幾度も起こったことで、大地の多くが瘴気や魔物に侵され、すっかり荒れ果ててしまったせいなのだという。
「大きな戦が起こった地では、恐れや憎しみ、恨みや絶望といった、膨大な負の念が生み出され、それらが魔力と結びついて大量の瘴気溜まりを生み出しました。すると、そこから次々に恐ろしい魔物が吐き出されることとなり、ただでさえ戦で疲弊していた国々は、湧き続ける魔物に対処しきれずに滅びてしまったのです」
すると今度は、滅びた国から逃げ出した者と、彼らに土地を奪われそうになった者の間で戦が起こるようになり、ますます大地の荒廃に拍車がかかってしまった。
だが、事態を重く見た創造神が、自らの神力で世界中を覆っていた瘴気を浄化したことにより、その神のみわざを目の当たりにした人々は、自分たちが今どれだけ危機的な状況にあるのかを、ようやく理解した。
そのため、以降は大きな戦が起こることもなく平和が保たれていたが、住み暮らす土地の豊かさの差で生じる貧富の差は、ますます広がる一方であったため、今でも国同士の小さな小競り合いが絶えることはなく、戦の要因となりそうな火種はそこかしこで燻ぶっており、荒れ果てた土地が回復しない限り、近い将来、再び豊かな土地をめぐって大きな戦が起こることは、もはや時間の問題だった。
だが、そんな暗雲が立ち込める中、大地を豊かにする権能を持つ太古の神の一柱であるヴィリオーサが、なんと数千年ぶりに人々の前に姿を現したのだ。
「〈大地の神〉であるヴィリオーサの権能は、どんなに荒れた土地でも再生して豊かにすることが可能です。そして既に、ヴィリオーサや土属性の神々は、荒廃した土地を再生してまわることを快く引き受けてくれています。だから後は、どこから手を付けていくのかを決めるだけなのですが──」
だが、どの神も、自分が守護する土地が一番大事であるため、再生する場所の順番を決めるのは容易なことではないのだと言う。
今回の会議は殊更に長引きそうだ、とマスターはずっと憂鬱そうな顔をしていた。
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