95話 真の正体
『でおくれた! けーき!』
『おお! なにやら、甘くていい匂いがするでござるなあ!』
今日の〈白い死神〉は、彼一羽だけでなく、以前森の中で〈喫茶シルエ〉を営業していた時の常連客──侍言葉を話すゴーレムを連れている。
すると、そんな彼らに気付いた人々が、何故か驚いたようにざわめき始めた。
「おい、あれって、〈鉱物の神〉のリド様じゃないか?」
「リド様と言ったら、西大陸のドワーフたちの間で崇められている有名な神じゃないか!」
「そんな神様が、どうしてシグベルムに?」
驚いたことに、侍ゴーレムは、この世界では割と名の知れた神であったらしい。
一方、〈白い死神〉は真っ先にケーキを受け取る列に並ぼうとして、早くもマスターに見つかっていた。
「今日はもう来ないかと思っていましたが……」
『かんせいしたけーき、おれ、またたべてない』
「ヴィリオーサが失敗したケーキを散々おなかに入れたのに、まだ食べる気なのですか?!」
『あまいもの、べつばら』
「きっとあなたの腹の中は、異次元にでも繋がっているのでしょうね」
マスターと〈白い死神〉が、いつものように不毛な応酬を繰り広げていると、ケーキを配っているりヴィリオーサの元へ、のしのしと侍ゴーレムがやってきた。
「ヴィリオーサ殿、お久しぶりでござる!」
『あなたは……リド? どうしてここへ?』
「拙者、本日は、たまたま出会った〈白い死神〉殿から、ヴィリオーサ殿が数千年ぶりにポリュグ山の住処を出られたと聞いて、挨拶しに参りました!」
侍ゴーレムの名は、リドというらしい。
彼の口調からは、何故かヴィリオーサに対する敬意が、ひしひしと感じられる。
「りりちゃんは、このお客様と知り合いだったの?」
『そうかそうか! 料理長は、このお方の事を愛称で呼ぶほどに仲よくなったのだな!』
驚いたしずくがヴィリオーサに問いかけると、リドが嬉しそうにからからと笑った。
『リドがこの世界に創り出された時、自我が芽生えるまでのほんの少しの間だけ、わたしが面倒を見ていたことがありました。彼は義理堅いことに、ずっとそのことを覚えていてくれたようです』
「そうだったんだね。でも、何でりりちゃんが面倒を見ることになったの? 〈豊穣の神〉と〈鉱物の神〉って、あまり繋がりがなさそうだけど」
首を傾げているしずくに、リドが愉快そうな顔を向けた。
「何を言っておるのだ、料理長。ヴィリオーサ殿は〈豊穣の神〉ではないぞ? まあ、作物を実らせるのも、確かにこのお方の権能の一部ではあるが」
「え? そうなんですか?! 私はてっきり〈豊穣の神〉だとばかり……。じゃあ、りりちゃん──ヴィリオーサ様の正体って……?」
リドはカラカラと笑いながら、高らかに言い放った。
「ヴィリオーサ殿は〈大地の神〉でござる! 権能はその名が示す通り、この世界の大地にまつわるもの全てでござるよ!」
つまり、大地に根ざすものであれば、植物でも鉱物でも思うがままに育成することができ、土地を潤すのも枯らすのも自由自在なのだという。
「ヴィリオーサ殿がその気になれば、大地に蔓延る瘴気を浄化することさえ可能でござる!」
「えーっ?! じゃあ、りりちゃんって、実はものすごーく偉い神様なんじゃ……」
「然り。ヴィリオーサ殿は、たった五柱しかいない太古の神の一柱で、この世界の維持に欠かせない権能を持つ、凄い神なのでござるよ!」
「えーーーーっ!!」
しずくの上げた声と、二人の話を聞いていたシグベルム人の叫び声が、綺麗に重なった。
──後日、この日の出来事は、シグベルム共和国の歴史の中で、最も重要な事件の一つとして語られる事となった。
また、この年を境に、シグベルムの国史や歴史書では〈劫火を司る炎の神・火炎竜ヴィリオーサ〉という記述が消え、代わりに〈大地の神・守護神竜ヴィリオーサ〉という、称賛と敬愛を込めた新しい名称が書き記されていく事となるのである。
次回、第二章ラストです




