94話 美味しいケーキを召し上がれ!
「すごく美味しい! テナ、こんなに美味しいケーキは、生まれて初めて食べたよ!」
「確かに、これは美味い! これまでにいろいろな料理を口にしましたが、こんなにも美味い物は食べたことがありませんぞ!」
ヴィリオーサとシグベルム国民が打ち解けたのを見計らい、満を持して〈りりちゃん印のクリームチーズケーキ〉を振る舞ったところ、テナとネクワドが絶賛したのを皮切りに、ケーキを口にしたシグベルム人たちの間で、大絶賛の嵐が吹き荒れた。
「ヴィリオーサ様が、手ずからこんなにも美味しいものを作って、われわれに振る舞って下さるとは!」
「神官長様、このケーキ、本当に美味いですね!」
「そうだろう、そうだろう! お前たち、良く味わって食べるのだぞ?」
クアウラたち神官が感激しているそばでは、長老派の議員たちが涙を流しながら、ケーキを味わっている。
「神官たちに真実を知らされても、頑なに生贄の神事を断行しようとしたわれわれを許し、こんなにも美味い物を振る舞って下さるとは……! われらはこれより先、生涯をかけてヴィリオーサ様のために尽くしますぞ!」
「おじいちゃんたち、重いきゅる。あまり重すぎるのは、嫌われるきゅる」
「普通に接してもらうほうが、りりちゃんは喜ぶきゅるよ」
「む! そうなのですか?!」
「そうきゅるよ。でもまずは、おひげについたクリームを何とかするきゅる!」
老議員たちが、ポピーとモモに諫められている姿は、まるでおじいちゃんが孫に叱られているかのようで、周囲にいる者たちはみな、その光景を見てほっこりしている。
「はいはい、順番に並んでくださいね~! まだまだケーキはたくさんありますから、急がなくても大丈夫ですよ~!」
「そこ、走らないきゅる! 大人なんだから、ルールは守るきゅる!」
「左の列が最後列です。新たに並ぶ人は、左の列に並んでください!」
しずくとネリネは、神官たちと一緒になってケーキを配る事に専念しており、マスターはケーキの空き箱の中に身を隠しながら、かわいらしい声を張り上げて列整理の指示を出している。
順番を守らずに列に割り込もうとした者が、マスターの魔法で容赦なく弾き飛ばされたのを見た人々は、みな文句も言わずに行儀よく並んでいる。
ちなみに、珍しい容姿のしずくやネリネに強い興味を覚えた者も数多くいたが、みな自分たちの順番が回って来ると、目の前の美味しそうなケーキに夢中になり、いつの間にか気に留めなくなっていた。
「ケーキと一緒に、コーヒーやミルクティーはいかがですか? 本日は特別価格、一杯三百メルダで提供しておりますよー!」
「あのコーヒーが、たったの三百メルダなの? じゃあ、せっかくだから、いただこうかしら!」
「かしこまりました! 神官さん、こちらのお客様にもコーヒーをお願いします!」
「お、何だか良い香りだな。俺とかみさんにもコーヒーを頼む!」
「ありがとうございます! すぐにご用意いたしますね!」
「さっきご馳走になった紅茶の茶葉はあるかしら? とても美味しかったから、家でも飲みたいの」
「ごめんなさい。あいにくお持ち帰り用の茶葉は、ついさっき売り切れてしまいました。でも、〈喫茶シルエ〉にお越しいただければ、先程の茶葉以外にも、美味しい茶葉を何種類も取りそろえていますよ!」
「まあ、そうなの? 〈喫茶シルエ〉って、確か神官長のクアウラ様が、北の草原に出店しているお店だっておっしゃていたわね──まだ当分の間は営業するのかしら?」
「はい。そのつもりです。コーヒーや紅茶の他にも、〈りりちゃん印のクリームチーズケーキ〉や、軽食やデザートなどもご用意できますので、宜しければ、お友達もお誘いあわせの上で、ぜひお立ち寄りくださいね!」
──ちゃっかり店の宣伝までして、メルダ硬貨の獲得に余念がないしずくである。
そんな彼女のそばでは、再び小さな紅色のドラゴンに変化したヴィリオーサが、ケーキの手渡しに精を出している。
『はい、どうぞ。落とさないように気を付けてくださいね』
「ありがとうございます! ヴィリオーサ様!」
「まあ、なんて美味しそうな香りなのかしら!」
「守護神竜さまのお手製ケーキが食べられるなんて、俺、幸せです!」
手渡す側のヴィリオーサも、手渡される側のシグベルム人も、双方笑顔であった。
こうして、和気あいあいとした雰囲気でケーキの配布が行われていた中、遅れてやってきたのは、焦った様子の〈白い死神〉だった。




