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神様の遺言状 ~世界に一軒だけの喫茶店はお客様の悩み事も解決いたします~  作者: はんぺん
第二章 引きこもりの竜と仲直りのチーズケーキ

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93話 神竜さま、泣かないで

「ねえ、おじいちゃん、神竜さまは、どうしてあんなに泣いているの?」


 不思議そうにネクワドの顔を見上げた少女が、(しわ)だらけの手を握る。


「ヴィリオーサ様は、わしらシグベルムの民と仲良くしたいと望んでおられるのに、お姿を見せただけで怖がられてしまうことを、とても嘆いておられるのだよ」 


 幼い犬人族の少女は、小さな耳をぴくぴくと動かしながら小首を傾げた。


「神竜さまはこわい竜じゃないの? お母さんがテナにいつも言っているみたいに、わるい子を食べたりしない?」


 ネクワドは無邪気な顔で尋ねて来る孫に、くしゃりと笑いながら首を横に振る。


「いいや。ヴィリオーサ様は、とてもお優しくていらっしゃる。だから、誰かを傷つけるようなことは決してなさらないよ」

「じゃあ、神竜さまはいい竜だったんだね!」


 自分自身をテナと呼ぶ少女は、たたた、と小走りでヴィリオーサの足元に駆け寄ると、いまだに泣き止まずにいる紅色の竜を見上げた。


「神竜さま、さっきまでこわがっていてごめんなさい。テナ、あやまるから。だから、もう泣かないで」


 小さな声に気付いたヴィリオーサが、ゆっくりとテナに顔を向ける。

 テナは一瞬だけびくっと体を強張(こわば)らせたが、すぐにヴィリオーサの目を真っすぐに見返すと、にっこりと笑いかけた。


「テナ、神竜さまと仲良くする。だから、もう泣かなくても大丈夫だよ?」


 ヴィリオーサは、涙で(うる)んだ目をぱちぱちと瞬きすると、幼い少女の顔をじいっと見た。テナはそんな彼女に再び話しかける。


「神竜さまが好きな物はなあに? テナは、お母さんが作ってくれるふわふわのパンが好き!」


 ヴィリオーサは、ゆっくりとかがんで大きな顔を近づけると、幼い少女を怖がらせないように、小さな小さな声で返事をした。


『わたしは、甘い物が好きです。特に、生クリームをたっぷり乗せた、ふわふわのパンケーキが大好き……』


 すると、たちまち少女がキラキラと瞳を輝かせた。


「ぱんけーき? なまくりーむ? よくわからないけど、なんだか美味しそう! テナも食べてみたいな!」

『……実はわたし、この国の人たちと仲良くしたくて、パンケーキに負けないくらいおいしいケーキを作ってきたんです。わたしが頑張って作ったケーキを、テナは怖がらずに食べてくれますか?』

「うん。いいよ! 神竜さまが作ったケーキ、テナ、食べてみたい!」

『……! ありがとう、テナ。そう言ってもらえて、とても嬉しいです……』


 ヴィリオーサが笑顔になったのと同時に、突然辺り一帯に、かわいらしい花がポンポンと咲き出した。

 広場がたちまち花畑になったのを見たテナが、ネクワドの手を取って、「すごいすごい」と喜びながら飛び跳ねている。

 そんな彼女を見ていた他の子どもたちは、我慢できない様子でヴィリオーサの足元に駆け寄って来ると、色とりどりの珍しい花に埋もれながらはしゃぎ出した。

 すると、飛び出した我が子を追いかけて来た親や、花を近くで見ようとする者、幸せそうにはしゃぎまわる子どもたちにつられた者などが次々に寄って来て、いつの間にかヴィリオーサの周りは、シグベルムの民で埋め尽くされていた。


「……良かった。もう誰もりりちゃんを怖がっていないみたい」

「そのようです。これできっと、彼女の望みは叶うでしょう」


 お互いを見て微笑み合うしずくとマスターのそばでは、花に囲まれた三匹のシュクレドラゴンたちが、きゅるきゅると(のど)を鳴らしながら大はしゃぎしている。

 しずくが頭上を見上げると、泣くのをやめたヴィリオーサは幸せそうに微笑んでいて、頬を濡らしていた涙の跡はすっかり乾いていた。


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