86話 まさかの輸送方法
「そ、それは、何と言うか──」
「彼らの機動力と数の多さがあれば、さほど時間をかけずにケーキを全部運べると思うんです。もちろん、シグベルムの皆さんを怖がらせないよう、運んでもらうのは城壁の外までにして、街の中に運び入れるのはクアウラさんたちにお願いするつもりですが──」
言葉を無くしているクアウラに、ワトルがためらいがちに話しかける。
「先輩、僕はしずく様のご提案に賛成です。死神蜜蜂は確かに恐ろしい存在ですが、彼らの縄張りに立ち入ったり敵意を見せたりしない限り、襲われることはありません。現に先日も、われわれを襲ってくるような様子は一切見られませんでした」
「……確かにそうだったな。むしろ、こちらを気遣っている様子すら見受けられた」
「それなら、彼らに協力を仰いでも大丈夫ではないでしょうか? それに、僕はもう二度と、見た目や噂だけで、相手を悪しき者と断ずるような真似はしたくありません」
「! そうだな。お前の言う通りだ」
〈喫茶シルエ〉に来た当初は、先代神官長の嘘を鵜呑みにして、ヴィリオーサが生贄を求める凶暴な竜だと思い込んでいた彼らだが、その意識は確実に変わってきているようだ。
自分たちの偏見を正そうと努力している二人を、ヴィリオーサの金色の目が、しっかりと見据えている。
クアウラたちが戸惑いながらも努力している姿は、勇気を出して懸命に自身を変えようとしているヴィリオーサを、少なからず勇気付けたのかもしれなかった。
死神蜜蜂たちによるケーキ輸送の準備のため、クアウラたちが急いでシグベルムに帰って行くと、しずくたちはすぐにケーキ作りを再開した。
マスターとシュクレドラゴンたちが、正確に材料を計量していく一方で、ごーちゃんたちが焼き上げたクッキーを砕き、溶かしバターと混ぜてケーキ型に敷き詰めていく。
しずくとヴィリオーサは、二層目のクリームチーズ生地と三層目のクリームとをせっせと作りながら、下地を敷いたケーキ型に流し入れていく。
ちなみに、三層目のクリーム作りも、ごーちゃんたちが作り方を覚えて手伝ってくれるようになったので、しずくとヴィリオーサの負担はかなり軽くなっている。
そして最後に、全ての層を重ねたものを〈白い死神〉が氷魔法で冷やし固めていく。
店にある冷蔵庫には入りきらないため、ケーキは凍らせておくことにしたのだが、その徐々に凍らせていく速度と絶妙な温度調整は、いまや完全に職人の域に達している。
普段〈白い死神〉に対して厳しいマスターも、この点に関しては手放しで褒めていた。
この話、以前、間違えて42話のあとにUPしちゃってました……(;´∀`)




