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神様の遺言状 ~世界に一軒だけの喫茶店はお客様の悩み事も解決いたします~  作者: はんぺん
第二章 引きこもりの竜と仲直りのチーズケーキ

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85話 シグベルムの現状

 夕方になると、再びクアウラとワトルがやって来て、今現在のシグベルムの状況を知らせてくれた。

 

 クアウラは今朝早くに、神官長の権限を使って緊急議会を招集すると、ヴィリオーサに関する誤解を解くべく、生贄(いけにえ)の儀式が行われるようになった経緯と、建国時から今に至るまでの彼女の功績とを、議員たちに事細かに説明した。

 

 その後は、議会と神殿が中心となり、『実は、ヴィリオーサは豊穣(ほうじょう)の権能を持つ神竜であり、大地の恵みをもたらすことで、建国時から国を支えてくれた善神である』という真実を、シグベルム国民全員に知らしめた。

 

 もちろん、先代の神官長であったジャガンの犯した罪と卑劣な行為についても、(あま)すことなく国民に伝え、同時に、ジャガンの妻だったアリンの兄や、生贄を出した家族の子孫たちが、「生贄の赤子は全員、ヴィリオーサによって神事終了後に家に戻されていた」とはっきり証言した。


「シグベルムから脱出した人の子孫なんて、よく見つけ出せましたね」

「これに関しては、アリン夫人の兄君が協力してくれました。彼は、アリン夫人を国外に逃がす際、生贄にされた我が子を取り戻せた他の家族たちと連絡を取って、これまでずっと交流を深めていたのです。そのおかげでこんなにも早く、彼らの協力を得ることができました」

「生贄を出した家族の子孫の方々は、アリン夫人の兄君と同じように、ヴィリオーサ様にはとても感謝していて、明日の神事でお目にかかれるのが楽しみだ、と嬉しそうに話していましたよ」


 クアウラたちや彼らの仲間である神官たち以外にも、ヴィリオーサの味方をしてくれる者がいてくれることは、しずくたちにとって、とても心強い。


「国民の多くは、われわれの説明に耳を傾けてくれました。ですが、長老派と呼ばれる一部の者やその支持者たちは、納得できずに生贄の神事を強行しようとしています」

「僕らも手を尽くしましたが、どうしても止めることができませんでした。力が及ばず申し訳ありません」


 泣きそうな顔で頭を下げるワトルに、ヴィリオーサが急いで文字を書いた紙を渡す。


 ──建国当時から続いていたことを否定されたのだから、反発する人がいてもおかしくはありません。無理に彼らを押さえつけて、国内が二分されることは避けるべきです。わたしは、あなたがたシグベルム民が、争うことなく仲良く暮らすことを望んでいます。


「ヴィリオーサ様! なんと慈悲深い!」

「長老派の奴らが、ヴィリオーサ様のお心の広さや優しさを知れば、こんな争いは起こらないのになあ……」


 自身の事よりもシグベルム国民を案じてくれるヴィリオーサに感動して、クアウラが祈るように手を組むと、ワトルが悔しそうにつぶやいた。

 そんな彼らに、ヴィリオーサが再び文字を書きつけた紙を渡す。


 ──やはり、生贄の儀式をやめてもらうには、わたし自身が、直接国民の皆さんの前で弁明するしかないと思います。


「それは、これ以上ない解決方法ですが、本当に宜しいのですか?」

「ヴィリオーサ様は、御自身の姿を人目に(さら)すことを、忌避(きひ)していらっしゃるのでは?」


 心の底から彼女を気遣う神官たちに、ヴィリオーサは覚悟を決めた様子でうなずいて見せた。

 その彼女の迷いのない視線を受け止めたクアウラとワトルは、真摯(しんし)な表情でその決意を受け止める。


「わかりました。それでは、ヴィリオーサ様の大きなお体でも無理なくお越しいただけるように、当日は議事堂前の広場を確保しておきましょう」

「僕らから国民に向けて、ヴィリオーサ様自らがお越しになることを通達しておきます!」


 幾分緊張した面持ちのヴィリオーサに、クアウラとワトルが力強く約束する。

 手持ちのメモに、たった今決めたことを書き込んだクアウラが、しずくに向き直った。


「我々からのご報告は以上ですが、ケーキ作りの進捗はいかがでしょうか? 何とか予定の時刻までに間に合いますでしょうか? 


「ええ。なんとか間に合うと思います。ただ、シグベルムまでケーキを運ぶ人手が足りません。そこで、ちょっとお二人にご相談したいのですが」

「はい。なんでしょうか? しずく様」

「シグベルムの城壁前まで、死神蜜蜂さんたちに、ケーキを運んでもらってもいいでしょうか?」

「……は?」


 思わぬことを打診された二人は、そろって顔を引きつらせた。


ご覧いただきありがとうございます!

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