84話 ケーキ作り開始
どんなケーキにするかが決まったので、しずくはいよいよ、ヴィリオーサに作り方を教えることにした。
「時間がないから、ビシバシいくけど、頑張ってついて来てね!」
その言葉通り、土台となるクッキー生地や、クリームチーズ生地やクリームの作り方、冷やすタイミングなど、しずくは一切手を抜かずにヴィリオーサを厳しく指導した。
最初、やる気はあってもどこか不安そうな顔をしていたヴィリオーサだが、何度も失敗を重ねながら数をこなすうちに、だんだんとコツをつかんで自信を深めていった。
やがて閉店時間となり、犬人族の二人や〈白い死神〉が店を後にしてからも、依然としてヴィリオーサの特訓は続いていた。
そして、何度かの休憩と仮眠を挟み、ヴィリオーサの作ったケーキに、ようやく合格点が出されたのは、翌日の昼を過ぎた頃だった。
「うん! この出来栄えなら、お客さんに出しても大丈夫! りりちゃん、お疲れ様、りりちゃん! よくここまで頑張ったね!」
『ありがとう、しずくちゃん。わたし、凄く嬉しい……!』
お互いに感激の涙を浮かべたしずくとヴィリオーサは、共に手を取りあって喜んだ。
そんな彼女たちを、マスターや三匹のシュクレドラゴン、八体のお手伝いゴーレムたちが、温かな拍手で称えている。
今朝、開店と同時に店に来て、二人の作業を手伝いながら、既にいくつもの試作ケーキを平らげている〈白い死神〉も、体中をクリームまみれにしながら満足そうな顔をしている。
「正直に言うと、僕はヴィリオーサがここまで頑張るとは思っていませんでした。ヴィリオーサ、あなたもやれば出来るではないですか。見直しましたよ!」
マスターから、手放しで褒められたヴィリオーサは、嬉しそうな顔でもじもじしている。だが、以前とは違ってもう俯いてはいない。
みんなと一緒に手早く昼食を済ませたしずくは、ぱん、と両手を叩くと、この場にいる全員の顔を見回した。
「さて、本当はこれからゆっくり寝たいところですが、今からが本番です! 今日と明日の二日間だけで、シグベルムの人に食べてもらうケーキを用意しなきゃいけないからね!」
「作業時間に余裕がありませんから、それぞれ出来ることを分担したほうがいいと思います。材料の計量やクッキーの焼き時間を見るくらいなら、ぼくやポピーたちでも出来ますから、そちらについては任せてください」
「ありがとうマスター! すごく助かる!」
しずくが喜んでいると、ごーちゃんたちが、てこてこと歩いて来て、物言いたげに見上げてきた。
「ん? みんなそろってどうしたの?」
「ごーちゃんたちも、お手伝いしたいって言ってるきゅる」
「土台のクッキー作りは任せて欲しいって言ってるきゅるよ」
「何度も見ていたから、手順や焼き加減は完璧にマスターしたって言ってるきゅる!」
「なにそれ!? うちのゴーレムたちが、優秀すぎる!」
『おれは?』
しずくが感動していると、試作品のケーキを全部平らげた〈白い死神〉が頭を上げた。
トラブルメーカーの白い小鳥は、今回に限っては一番の功労者である。
「もちろん、小鳥さんも優秀だよ! 小鳥さんの氷魔法がなければ、こんなにさくさくケーキを作ることはできなかったしね──という訳で、昨日からずっとで申し訳ないけれど、今日と明日もお手伝いを頼めるかな?」
『わかった! まかせろ』
気を良くした〈白い死神〉が、あっさりと了承する。
彼の話によれば、得意な氷魔法を使うだけで、たくさん褒められて美味しいおやつをもらえるこの仕事は、守護神として崇拝されているテスレンカ法国で、御祭神として神殿でじっとしている仕事よりも遥かに楽しいらしい。
無事に役割分担が決まったところで、しずくたちは早速ケーキ作りに取りかかった。
ケーキ型については、どのような方法なのかはわからないが、昨日中にマスターが大量に調達してくれたので、足りなくなる心配はない。いつも肝心な事を言い忘れてしずくたちに怒られてばかりいるが、やはり、いざという時はとても頼りになるマスターなのだ。




