83話 特製ケーキを試作しよう!
とても意外なことに、ヴィリオーサに呼ばれて参上した死神蜜蜂たちは、いずれも細やかな気配りができる紳士だった。
彼らは、腰が引けているしずくたちを驚かせないよう、適度な距離を取ると、殊更にゆっくりとした動作でお辞儀をした。
そして、きちんとマスターから店に立ち入る許可を得ると、巣を小分けにして持ってきた蜂蜜を、わざわざ貯蔵庫まで運び入れてくれた。
そこで、お礼に作り置きをしていたホールケーキを持たせてやると、彼らはしずくに何度も頭を下げ、ギチギチと喜びの声を上げて去って行った。
「なんだか、とてもいい蜂さんだったね。普段は大人しい人ほど怒らせると怖い、って良く言うけれど、もしかして死神蜜蜂さんたちも、そんな感じなのかな?」
「縄張りさえ侵さなければ、彼らとはよき隣人として付き合っていけるのかもしれませんね」
(あの紳士な空飛ぶ伊勢海老が、殺意満々で自分を襲撃して来る光景なんて、絶対に見たくないなあ)
しみじみとそう思ったしずくは、この先何があっても、彼らの縄張りには決して踏み込むまい、と固く心に誓った。
「はちみつが足りなくなったら、またあの蜂さんたちが持ってきてくれる、ってりりちゃんが言ってるきゅる!」
「りりちゃんは、蜂さんたちのために、お花畑を作ってあげてたきゅる」
「だからずっと仲良しきゅる」
「そっか、そういうことだったんだね」
心優しいヴィリオーサは、長い間死神蜜蜂たちを手助けしていたようで、滅多に人が立ち入らない上に、ヴィリオーサが好みの花をいくらでも咲かせてくれるポリュグ山は、死神蜜蜂たちにとっては、この上ない楽園であるらしい。
彼らはかつて、遥か北の大陸にある神域に住んでいたが、はちみつ欲しさに彼らの巣を襲撃してくる恐ろしい敵に目をつけられてしまったため、わざわざポリュグ山に移住してきたらしい。
──さっき何匹かの死神蜜蜂が、やたらと〈白い死神〉を警戒していたように見えたのは、できれば気のせいだと思いたいしずくである。
「それじゃあ、早速新しい食材を使って、ケーキを試作してみるね!」
全員で協力して、クリムの実を収穫してから店に戻ると、しずくはごーちゃんたちと一緒にカウンターの中に入り、ケーキ作りに取り掛かった。
製作過程は前回とほぼ同じだが、今回は土台のクッキー生地に程良く塩味を利かせるようにした上で、クリームチーズ生地には〈死神はちみつ〉を使い、その上には、クリムの実の中身にサウー砂糖を混ぜて作った特製クリームを乗せた。
そして、これらを〈白い死神〉に頼んで冷やし固めてもらうと、クッキー、クリームチーズ、クリームの三層からなる、特製クリームチーズケーキが完成した。
「すっごく美味しそうきゅる~!」
「さっきよりも、いい匂いがするきゅるよ!」
「真っ白で、ふわふわで、見ているだけで幸せになるきゅる~!」
「見た目は問題なさそうだけど、肝心なのは味なんだよね……」
今度は、しずくもみんなと一緒に試食する。
ほぼ一斉にフォークですくったケーキを口に入れるなり、誰からともなくため息が漏れた。
しばらくの間、一同が無言でもくもくと食べ進める中、一番最初に声を上げたのは、マスターだった。
「これは、美味しいですね! クッキー生地の塩味と、クリームチーズ、クリームの味のバランスが絶妙です!」
そう言っておいて、休むことなくパクついているところを見ると、余程このケーキが気に入ったようだ。
「このクリーム、お口に入れたら、しゅわわわんって溶けちゃったきゅる!」
「もったりとしたクリームなのに、口の中に入れてみると軽くてしつこくない。これは食べる手が止まりませんね」
「先輩、このクリームチーズも絶品ですよ! さらになめらかで、さわやかな甘さの中にコクがある。これなら、いくらでも食べられちゃいます!」
ポピーやクアウラ、ワトルなどの、マスター以外の男性陣も大絶賛である。
ちなみに、〈白い死神〉はというと、ケーキに思いっきり顔を突っ込んで、かつかつと終始無言でむさぼっている。
「見た目も綺麗で、中身もこんなに美味しいだなんて、夢のようきゅる」
「こんなに美味しいケーキを食べられるだなんて、ももは、しずくちゃんやりりちゃんに出会えてよかったきゅる!」
『すごく……おいしい……』
ネリネ、モモ、りりちゃんたちの女性陣にも大好評のようだ。
(これなら、いけるかも!)
皆の様子を見て確かな手ごたえを感じたしずくは、満足そうに微笑んだ。




