80話 名物ケーキを作るには
「しずく様は、一体何がご不満なのでしょう?」
「僕は、これでも十分に美味しいと思いますけど……」
クアウラやワトルが困惑しているそばでは、シュクレドラゴンたちも一様に首を傾げている。
「そうきゅるよ、しずくちゃん。ポピーも、とっても美味しいケーキだと思うきゅるよ?」
「うーん。皆が褒めてくれるのは嬉しいけど、これだと味も見た目も普通すぎるんだよね。りりちゃんが作るケーキには、もっと特色を出さないと」
「特色──というと?」
クアウラが、首を傾げてしずくを見る。
「たとえば、りりちゃんの手助けがないと調達できないような珍しい材料を使うとか──とにかく、りりちゃん抜きでは作れないケーキにする必要があるんです」
「ヴィリオーサ様にしか作れないケーキ、ですか?」
「ええ。今回作るケーキは、これからもずっと、シグベルムの人たちに喜んで食べてもらえるような──シグベルムの名物になるようなケーキにしたいんです」
「わが国の名物に……」
「そして、ゆくゆくはシグベルムに来る観光客を通じて、りりちゃんのケーキを世に広めたいと思っています」
話を聞いていたマスターが、興味深そうな顔をする。
「なるほど。しずくさんは、ヴィリオーサが作ったケーキを広く世に知らしめることで、世界中の人々が彼女を恐れないようにしたいと考えているのですね」
「うん、そういうこと。りりちゃんが、甘い物好きでケーキを作りが上手い竜として有名になれば、外見だけを見て怖がる人をなくせるかもしれないでしょ?」
そう言うと、しずくは真剣な顔で、ヴィリオーサをひたと見据えた。
「みんなから恐れられなくなれば、自由に外に出かけて行ける。本当は、りりちゃんだって、もっと広い世界を見て回りたいんじゃない?」
ヴィリオーサは、口をぎゅっと引き結ぶと、じわりと金色の目を潤ませて、こくんとうなずいた。
「ふむ。これ以上美味しくするのなら、もっと味や食感にも変化をつけたいですね」
「マスターもそう思う? 私も、何かこう、食べてみて物足りないと思ったんだよね。かといって、ムースやクリームを加えるのは手間がかかるし、上に果物を乗せるのもありきたりだしなあ……」
『さうーのおさとう、いれたらいい』
「それは、単に小鳥さんが食べたいだけでしょ! うーん。何かいい案はないかなあ。例えば、ケーキに使えるような変わった食材があればいいんだけど」
眉を寄せて悩むしずくを、じっと見つめていたヴィリオーサが、不意に何かに気付いたように目を見開くと、急いで羽ペンを走らせた。
同じテーブルでケーキを食べていたシュクレドラゴンたちが、興味津々で彼女の手元をのぞき込む。
「クリムの木の実のクリーム、きゅるか?」
「死神蜜蜂のはちみつ? 怖そうな名前のはちみつきゅるね」
「どちらも聞いたことがない食材きゅる」
三匹がしきりに首を傾げているそばでは、二人の犬人族の神官と〈白い死神〉が、何故か興奮した様子で息を荒くしていた。
「し、死神蜜蜂のはちみつ、ですと?! それは滅多なことでは手に入れられないと言われている、幻の死神はちみつのことでは?!」
「そうか! 死神蜜蜂は寒冷地の神域に生息する蜂だから、ヴィリオーサ様の住処があるポリュグ山の奥地にいても、おかしくはないですもんね!」
「しにがみはちみつ、さうーのおさとうのつぎに、すきなもの! くりむのきのみのくりーむ、さうーのおさとういれると、さいこうのあじ! おれの、だいすきなおやつ! ぜったいつかうべき!」
「ええー……」
鼻息も荒く、目を爛々とさせながら迫って来る二人と一羽に、しずくは思わず顔をひきつらせた。
一体どんなケーキができるのか……(*^-^*)
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