78話 どんなケーキにするのか考えよう!
甘いものに目がないヴィリオーサは、この店のパンケーキを初めて口に入れた時、そのあまりの美味しさに感激して、『こんなケーキを作ってみたい!』と、強く思ったらしい。
──もし自分で作った美味しいケーキを振る舞えば、シグベルムの人たちも怖がらずに仲良くしてくれるのではないか。
同時に、そんな望みを抱くようになった。
彼女の説明を聞いたしずくは、自分の胸をトンと軽く拳で叩くと、大きくうなずいた。
「大丈夫、お料理のことなら任せて! 私、ケーキ作りも得意だから!」
『!』
「一から作り方を教えてあげる。だから、一緒に美味しいケーキを作ろうよ!」
「美味しいケーキ、いっぱい作るきゅる!」
くいしん坊のポピーが喜んで手を叩く。
「楽しそうきゅる! ももは賛成きゅる!」
「ねりねも、手伝うきゅる!」
「なるほど。美味しい手作りケーキをヴィリオーサ自らが振る舞うことで、彼女が生贄を求めるような恐ろしい竜ではないと、シグベルム国民にわからせるのですね。ふむ、単純ですが意外といい考えかもしれません」
「マスターもそう思うでしょ? 一見怖そうに見えるりりちゃんが、実はびっくりするほど美味しいケーキを作る──それって、きっとギャップ萌えすると思うんだよね」
『ぎ、ぎゃっぷもえ??』
ヴィリオーサが戸惑っているうちにも、しずくたちはどんどんと計画を立てて行く。
「問題は、神事まであまり日数がないことなんだけど──クアウラさん、神事が行われるのはいつでしたっけ?」
「三日後の夕刻です。いくつかの儀式を行ったあと、赤子たちをポリュグ山の麓に用意した祭壇に連れて行くことになっています」
「じゃあ、もしケーキを届けるのなら午前中、少なくとも昼頃までには間に合わせる必要がありますね」
説明を聞いたしずくは、いくつかケーキの候補を思い浮かべる。
「たった三日だけだと、りりちゃんに教える時間やケーキを試作する時間はあまり取れないよね……。それなら、デコレーションが難しいクリーム系のものや、冷めると固くなって味が落ちるパンケーキは除外かな。うーん……それ以外のもので、簡単に作れて美味しいケーキとなると──」
「シグベルムは、美食の国として有名ですから、さぞかし国民の舌も肥えていることでしょう。となると、普通のケーキは食べ飽きているかもしれませんね」
悩んでいるしずくに、マスターが更にハードルを上げて来た。
「ちなみに、シグベルムにはどんなケーキがあるんですか? うちで取り扱っているようなケーキもありますか?」
しずくに尋ねられたクアウラとワトルが即答する。
「いいえ! この店で扱っているケーキはどれも見たことがありません」
「僕らの国のケーキは、どれも生地がもったりしたものが多いです」
「生地がもったり、というと、こんな感じのケーキですか?」
しずくはメニュー表にあるデザートのページを開くと、パウンドケーキの絵を指差した。
「そうです、そうです! こんな感じのケーキです。この中に乾燥させた果物を練り込んだり、上に生の果物を載せたりしています」
「なるほどね」
しずくは、何度もうなずくと、シグベルムで使われているケーキの材料やトッピングについても詳しく聞き出した。
彼らの話をまとめると、クッキーやパウンドケーキはあるが、柔らかいスポンジケーキはなく、トッピングに関しては、生クリームがないので主に新鮮な果物や蜂蜜、ジャムなどが使われているようだ。
「それに、シグベルム人がいつも食べているチーズは、熟成させたタイプのものばかりで、フレッシュチーズは作っていないみたいだね……」
そのため、彼らがこの店でレアチーズケーキを食べた時は、かなり驚いたらしい。
「どうでしょうか? われわれの話が、少しでも役に立てばよいのですが」
「少しどころか、大いに役立ちましたよ。おかげで、作るケーキが決まりました!」




