77話 わたしの望みは
『おまえ、いけにえ、たすけてた?』
文章を全て読み終えた〈白い死神〉からの問いかけに、ヴィリオーサは目を逸らさずにうなずいた。
彼女は、生贄の神事を止められなかった代わりに、生贄にされた赤子を密かに家族の元へと戻していた。
そして、その家族たちが皆シグベルムから出奔していたのは、生贄を出したせいで居づらくなったのではなく、生きて戻った赤子を守るためだった。
「これで、ぼくらの推測が裏付けられましたね」
「やっぱり、生贄の神事をやり始めたのは犬人族だっんだね」
うなずき合うマスターとしずくに、クアウラやワトルが明言する。
「この事実を国民に知らせれば、いずれヴィリオーサ様を恐れる者はいなくなるでしょう」
「アリン夫人の兄君にお願いして、この話が真実だと証言してくれるよう、協力を取り付けます。商業ギルドの顔役である彼の言葉なら、みな信じてくれると思います」
彼らの言葉を聞いてもなお不安気な様子のヴィリオーサに、尊大さの塊のような〈白い死神〉が声をかけた。
『おまえ、わるくない。だから、もっと、じしんもて』
ヴィリオーサが息を吞み、金色の目を瞠る。
『わるいのは、かってにこわがるやつ。おまえ、きにせず、すきなことしろ──でも、やりすぎには、きをつけろ』
「あなたが、それを言いますか!?」
思わずマスターが突っ込むが、白い小鳥はしれっとしている。
『もし、やりすぎたら、あやまればいい。だから、おまえ、すきにいきろ』
言いたいことを全て言い終えたのか、〈白い死神〉はしずくの肩から飛び立って窓際のテーブルに舞い下りると、のんびりと毛づくろいをし始めた。
いまだにぽかんとしているヴィリオーサに、しずくが優しく語りかける。
「ねえ、りりちゃん。今回は私も小鳥さんと同じ意見だよ。りりちゃんは何も悪いことをしていないんだから、見た目だけで悪い竜だと決めつけてくるような人は、放っておいていいと思う」
ヴィリオーサは驚いて、しずくの顔をじっと見つめている。
「少なくとも、私たちはりりちゃんの本当の姿を見ても、もう怖いとは思わないし、りりちゃんが好きなことをするのが迷惑だなんて思わないよ」
「ぼくも同感です。あのバカ鳥のように、あなたが誰かに迷惑をかけるような真似をするとは思えませんしね」
相変わらず〈白い死神〉へのあたりが強いマスターである。
「だからね、りりちゃんはもっと自由に生きていいんだよ?」
何度もぱちぱちと瞬きするヴィリオーサに、しずくが悪戯っぽく笑いかける。
「あのね、りりちゃん。実は、この〈喫茶シルエ〉には、『困ったり悩んだりしているお客様を手助けする』っていう裏メニューがあってね──」
『?』
「だから、もしやりたいことがあるのに、どうしたらいいのか、わからなくて悩んでいるのなら、私たちに相談してみない?」
『……!』
思いがけない提案をされ、驚きと嬉しさで顔を紅潮させた内気な竜が、恥ずかしそうにもじもじしながら告げたのは、とてもささやかな願いだった。
『もし、叶うのなら、シグベルムの人たちと仲良くなって、自分で作った美味しいケーキを一緒に食べてもらいたい……です。……あの、こんな望みでも、お手伝いしてもらえますか?』
「もちろんだよ!」
小さな紅色の竜は、しずくたちが自分に向かって力強くうなずくのを見ると、感激のあまり金色の瞳を潤ませた。




