75話 ここにつれてきたことは、あやまらない
「なるほど……。それで、とうとう力尽きてしまったところを、小鳥さんの魔法で強引に運ばれてしまったんだね」
まさか、ここまで激しく抵抗されると思っていなかった〈白い死神〉は、自分の思い通りにいかないことに腹を立て、朝を迎える頃になると、神力を抑えることをすっかり投げ出していたらしい。
そのため、彼が苛立ちに任せて発生させた猛吹雪のせいで、ヴィリオーサの住処はおろか、周辺一帯が全て雪景色になってしまったそうだ。
「ああ、だから店の外があんな状態になってたんだ……」
窓にびっしりと張っていた霜は、今は水になって流れ落ちているが、外に積もっていた雪は溶けずにそのまま残っている。
(あれを全部雪かきするのは大変そう。マスターに頼んだら、魔法で溶かしてもらえるかな?)
しずくが半笑いで遠い目をしていると、シュクレドラゴンたちが〈白い死神〉の元にわらわらと詰めかけて、口々に叱り始めた。
「小鳥さん、誘拐は犯罪きゅる! しっかり反省するきゅる!」
「下は雪だから落としても大丈夫、っていう考えは大間違いきゅる!」
「小鳥さんとりりちゃんとでは、大きさが違いすぎるきゅる! だいたい、りりちゃんに、もしものことがあったら、二度とサウーの木を生やしてもらえなくなるきゅるよ?」
『ぴっ?!』
その言葉を聞かされた瞬間、〈白い死神〉が悲鳴を上げる。
明らかに動揺している小鳥を見て、マスターが呆れた顔をした。
「なるほど、そういうことでしたか。あなたが謝罪したいだなんて、おかしいと思ったんですよ。ヴィリオーサに嫌われたら、サウーの木を生やしてもらえない──そう思ったから、反省したフリをしたんですね!?」
「小鳥さん、りりちゃんに謝りたいのは、嘘だったきゅるか?」
「ひどいきゅる!」
「見損なったきゅる!」
『だって……さうーのおさとう……』
「砂糖欲しさで、ヴィリオーサ様にあんなひどいことを?!」
「先輩、あの白い小鳥──正体は不明ですが、僕が知っている神様の中で一番やばいです!」
クアウラとワトルが、尻尾を巻いて戦慄している。
しょんぼりして俯く白い小鳥に、しずくが諭すように話しかけた。
「ねえ、小鳥さん。りりちゃんを店に連れて来てくれたことには感謝するけど、家に押し入って強引に連れ出したり、荷物扱いして空から落とすのはやりすぎだよ。本当は小鳥さんだって、そう思っているんでしょ?」
『……たしかに、ちょっとやりすぎた。おれ、ちょっとむかついてた』
「これからは、むかついたからって、こんなことは絶対にしちゃだめだからね?」
『うん』
「わかったのなら、りりちゃんにも、きちん謝ってね」
『……わかった』
意外にも〈白い死神〉は素直にうなずいて、しずくの肩に飛び乗った。
ヴィリオーサは一瞬だけビクついたが、〈白い死神〉がじっとしているのを見ると、逃げ出そうとはせずに、注意深く様子を伺っている。
『おれ、ひどいことした。はんせいしてる』
一同に見守られる中、〈白い死神〉がヴィリオーサに謝罪する。
自分をひどい目に遭わせた相手からしおらしく頭を下げられたヴィリオーサが、動揺している。
『でも、おまえ、ここにつれてきたことは、あやまらない』
「小鳥さん?!」
「あなたねえ、この期に及んで、まだそんなことを──」
打って変わってふてぶてしく開き直った〈白い死神〉は、マスターに咎められてもつんとしたままで、ヴィリオーサから目を離さない。
『だって、おまえ、またぱんけーきがたべたい、ってないてた。おれ、みせにつれてきてやった。なにがふまん? おまえ、やりたいこと、がまんする。おれ、りかいふのう』
〈白い死神〉を見つめ返したヴィリオーサは、すぐに紙に言葉を書いて差し出した。そこには歪んだ文字で、「やりたいことを我慢するのは、わたしが姿を見せると、みんなを怖がらせてしまうから」と書かれている。
すると、〈白い死神〉が不思議そうに首を傾げた。
『おれ、わからない。おまえ、ほんとうは、わるいやつ? いけにえたべてた? だから、こわがられる?』
ヴィリオーサは何度も首を横に振ると、凄い速さで文字を書き始めた。今回はかなり長文のようだ。
しばらくしてから差し出された十数枚もの紙には、彼女が望まぬ生贄を捧げられるようになるまでの詳しい経緯が書かれていた。
次回、ヴィリオーサの受難のはじまりが明らかに……
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