74話 今までずっと戦っていたらしい
『!!』
目の前に突然〈白い死神〉が現れた途端、ヴィリオーサがぶるぶると震え出した。
掃除を終えて、隣のテーブルでコーヒーを飲んでいたクアウラとワトルが何事かと腰を浮かし、しずくとマスターが慌ててカウンターを飛び出した。
つい今しがた、自分をひどい目に遭わせた相手が、テーブルの上をぴょんぴょんと飛び跳ねながら近づいてくる──その恐怖から逃れるべく後ろに仰け反ったヴィリオーサは、今にも椅子ごと倒れそうになっている。
「りりちゃん、危ない!」
「それ以上は接近禁止です!」
危うく倒れそうになったヴィリオーサを、ギリギリのところでしずくが受け止めると、ほぼ同時に、マスターが真上から〈白い死神〉に飛び乗り、全体重をかけて抑え付けた。
『ひどい。おれ、あやまろうとしただけ』
「だからといって、嫌がる相手に無理やり迫るのはダメでしょ!」
不満な顔をした小鳥を諫めるように、しずくが言い返す。
マスターが乱暴に〈白い死神〉を引き離し、しずくがヴィリオーサを椅子に座らせて落ち着かせると、鼻をぐずつかせた彼女が、何もない空間から紙と羽ペンを取り出した。
向かいの椅子に座ったしずくが、「あ、この光景は見覚えがあるなー」と思いながら、黙って見守っていると、涙目のドラゴンが、カリカリともの凄い勢いで文字を書き始めた。
次々と彼女が手渡してくる紙には、昨日この店を後にしてから今までの間に起きた出来事が切々と綴られていた。
皆で読んでみたところ、ヴィリオーサがポリュグ山の巣に逃げ帰ってしくしくと泣いていると、夕暮れ時になってから、突然〈白い死神〉が訪ねて来たらしい。
驚いた彼女は、即座に植物を生やして防壁を作り、招かれざる客を閉め出した。
創造神ゼオロビムには通じなかったが、彼以外の訪問者たちは、皆この方法を使えば諦めて帰って行くのが常だった。
だが、今度もこの方法は全く意味をなさなかった──何故なら、相手が〈白い死神〉だったからだ。
〈白い死神〉はゼオロビムと同じで全く空気を読まないし、ヴィリオーサの気持ちを思い遣ろうなどと微塵も思っていない。
この時、〈白い死神〉の脳内は、彼女を〈喫茶シルエ〉に連れ帰ったご褒美にサウー砂糖をいっぱいもらおう、という魂胆でいっぱいだった。
しかも、ヴィリオーサにとって不幸な事に、ついさっきまで〈喫茶シルエ〉に居座ってサウー砂糖入りミルクティーを存分に堪能していた〈白い死神〉は、いつも以上に気力がみなぎっていた。
そんな彼は、目の前に生い茂る緑の防壁を氷雪の権能で凍らせて易々と砕くと、ヴィリオーサの住処に無理やり押し入ろうとした。
もちろん、そうはさせじと、ヴィリオーサは再び防壁を築いて行く手を阻む。だが、その防壁を、〈白い死神〉が再び壊しにかかる──
──そんな彼らの攻防は、なんと、今日の昼前まで続いていたらしい。
りりちゃん、思わず涙もひっこんだ模様……




