72話 やりすぎきゅる!
あの後、遅れてやって来たマスターが、寒さを防ぐ魔法をかけてくれたおかげで、しずくたちは歯の根が合わないほどの寒さから解放された。
間近からヴィリオーサの巨体を目の当たりにしたクアウラとワトルは、最初こそ、その恐ろしい姿を見て硬直していたが、まるで雑に梱包された荷物のように氷の縄でぎっちりと縛られ、止めどなく大粒の涙を零す哀れな神竜の姿を見ているうちに、恐怖心よりも同情心が勝ったらしかった。
「マスター様、どうかこの氷の縄を解いていただけないでしょうか? このままでは、ヴィリオーサ様があまりにもお気の毒です」
「僕からもお願いします。僕らにお手伝いできることがあれば、なんでもいたします!」
「マスター、私からもお願い!」
「あるじ様、ぽぴーたちもお願いするきゅる!」
祈るように必死で手を合わせる神官や、しずくたちから懇願されたマスターは、「さっさとこの吹雪を止めて縄を解かないと出禁にしますよ?」と〈白い死神〉を脅し、ヴィリオーサを自由にした。
それでもまだ震えが止まらないヴィリオーサをどうにか宥め、落ち着かせたしずくたちは、小さなドラゴンに変化した彼女を抱えると、急いで店の中に運び入れた。
『~~~!』
「ああ、よっぽど怖かったんだね。だけどもう、大丈夫だからね」
小さな紅色のドラゴンが、顔中を涙でびちゃびちゃにしている姿は、見ていてとても痛々しい。
店内に入ると、ドアの近くで待ち構えていたごーちゃんたちが、すばやくタオルと毛布を差し出した。さすがは気配りの達人である。
「可哀そうに。すっかり体が冷え切っちゃってるよ」
「しずくさん、今ぼくが魔法で温めますから、ヴィリオーサをこちらの椅子に座らせてください」
しずくは、カウンターに近いテーブルの椅子に毛布を敷き詰めると、タオルで濡れた体を拭いたヴィリオーサを、抱え上げるようにして座らせた。
昨日は自力で飛んで椅子に座っていたヴィリオーサだが、今は翼が凍り付いて動かせないのだ。
マスターにヴィリオーサの世話を任せておいて、しずくはごーちゃんたちと共に急いで食事の準備に取りかかった。
その間、犬人族の二人は濡れてしまった床を拭いてくれており、窓際のテーブルでは、三匹のシュクレドラゴンが〈白い死神〉を取り囲んで説教していた。
「小鳥さんは、乱暴すぎるきゅる!」
「怖がりな女の子をいじめちゃだめきゅる!」
「体を凍らせるのは、やりすぎきゅる!」
だが、どんなに非難されようとも、〈白い死神〉は不思議そうに小首を傾げるだけで、全く堪えていないようだ。
しまいには、ほりほりと足で頭を掻き始めたのを見て、珍しく激怒したモモが大声で叫んだ。
「りりちゃんは、〈豊穣の神様〉きゅるよ! あまりいじめると、サウーの木を生やしてもらえなくなるきゅる! 小鳥さんはそれでもいいきゅるか?!」
『!?』
足をあげたままでピシリと固まった〈白い死神〉は、つぶらな目を見開いてモモの顔を何度も見返すと、急に落ち着きを失くしてテーブルの上をぐるぐると回り出した。
どうやら、今回は〈白い死神〉ではなく、シュクレドラゴンたちに軍配が上がったようだった。




