71話 強制連行
「小鳥さん?!」
「やはり、あなたでしたか……」
驚くしずくのそばで、マスターがうんざりした顔をしている。
「さっき、空から何か降ってきたけど、あれは小鳥さんのしわざだったの?」
『つれてきた』
「連れて来た? 誰を?」
『おまえたち、こまってた。だから、おれ、つれてきてやった』
〈白い死神〉は、「だから褒めろ」とでも言わんばかりに、瑠璃色のつぶらな瞳を向けて来た。
何となく嫌な予感がしたしずくは、思わずマスターと顔を見合わせる。
『ヴヴヴヴ……』
店の外から、地を這うような恐ろしい唸り声が聞こえて来たのは、その時だった。
「ひえっ!?」
驚いたしずくが体を強張らせると、シュクレドラゴンたちが、急に慌てだした。
「しずくちゃん、大変きゅる!」
「今の声、りりちゃんきゅる!」
「助けて、って言ってるきゅる!」
「ええっ!?」
慌てて店を飛び出すと何故か外は猛吹雪で、辺りは真っ白で何も見えない状態になっていた。
「寒っ! 何これ?! ついさっきまでは雨だったのに!」
「立っているだけで凍えそうきゅる」
「うう……しっぽの先まで、ちべたいきゅる」
「なんだかねむくなってきたきゅる……」
「しっかりしてモモ! ここで眠っちゃだめ!」
彼らが猛烈な寒さの中で震えていると、すぐそばで、何か大きなものが身じろぎする気配がした。
「まさか!」
はっとしたしずくが、気配がした方に駆けて行くと、目の前にこんもりとした雪山が現れた。苦しそうな呻き声は、この巨大な雪山の中から聞こえてくるようだ。
「……もしかして、りりちゃんなの?」
すると次の瞬間、雪山からゆっくりと首が生え、巨大な竜の顔が現れた。
返事はなかったが、その大きな金色の目からは、次々と大粒の涙がぼちゃんぼちゃんと零れ落ちている。
手足と翼、口の周りを氷漬けにされて身動きできない状態で、苦しそうに唸り声を上げる深みのある紅色の竜は、間違いなくヴィリオーサだった。
「これはひどいきゅる……」
「氷で作った縄で、身動きがとれないようにされてるきゅるよ……」
「これをやったのは、きっと小鳥さんきゅる。容赦がないきゅる」
ドン引きしている三匹のドラゴンたちの会話を聞いて、しずくは遠い目をした。
──これって、「連れて来た」のではなく、「拉致してきた」の間違いなのでは?
マスターの暴言に傷ついて巣にこもっていたのに、無理やりこんなひどい目に遭わされたら、ますます引きこもりに拍車がかかってしまうのではないだろうか。
目の前で泣きながら震えているヴィリオーサを前に、しずくは寒さを忘れる程に心配した。




