7話 初めて見る魔法
「うわ、もうこんな時間?! ごめんマスター、なるべく急いだつもりだったけど、思っていた以上に時間がかかっちゃった!」
「いえいえ。しずくさんがテキパキと選んでくれたおかげで、何とか明日の開店までに間に合いそうです」
「でも、これから品物を発注しても、さすがに今夜中には届かないでしょう?」
「大丈夫です。品物の入荷も設置も、あっという間に終わりますから。まあ、見ていて下さい」
マスターは得意げにそう告げると、かわいらしい声で呪文を唱え始めた。すると、照明が無いせいで薄暗かった店内が突然明るくなり始める。
「ちょ?! 何だか急にまぶしくなってきたけど、これって大丈夫なの?!」
「ぼくの魔法が発動しているだけですので、何も心配はいりませんよ」
「魔法? マスターって魔法が使えたの?! でも、まぶしすぎて目が開けていられないほどの魔法って、一体なに?!」
「……はい、終わりましたよ。もう目を開けても大丈夫です!」
「うう、なんだか目の奥がチカチカするよ……」
おそるおそる目を開けたしずくは、目の前の光景を見た瞬間に唖然とした。
そこには、ついさっきまで必死になってカタログから選んでいた壁紙や照明、テーブルや椅子やソファなどが、彼女が指定した通りの位置に、寸分の狂いもなく納まっていた。
「何これ、凄い! 魔法って超便利! 食器や料理器具がちゃんと棚の中に入ってる!」
「どうです? 内装の仕上がりもばっちりでしょう?」
「照明の明るさもイメージ通りだし、予想していた以上に素敵な店になったかも!」
「これも、しずくさんが設置場所を細かく指定しながら、カタログから選んでくれたおかげです。本当にありがとうございます」
早速試してみたところ、カウンター内に備え付けられたコンロやシンクも、問題なく使えるようだ。照明器具と同様に、これらの物には魔石が使われており、スイッチをいれたり蛇口のレバーを上げると、自動的に魔法が発動して、火や水が出る仕組みになっているらしい。
「どれも使い心地は、あちらで使っていたものとほとんど同じだね。このシンクもちょうどいい高さで使い易いし、調理器具も新品だから料理をするのがとっても楽しみ! あ、でも、明日開店なら、今日中に食材のチェックをして、簡単に料理の下ごしらえをしておいたほうがいいよね?」
「食材……下ごしらえ……」
「マスター、この店のメニュー表ってどこにあるの?」
「メニュー表……」
「この店でどんな料理を出していたのか──材料とか具体的な味や盛り付けについても詳しく教えてもらいたいんだけど」
「具体的に……」
「だって、あんまり味が変わると常連のお客さんがガッカリしちゃうでしょ? 出来れば前の調理担当さんがレシピを残していれば良かったんだけど」
「常連のお客さん……レシピ……」
「それと、他の従業員さんに紹介してもらうのは、明日の開店前ってことになるのかな? できれば早めに名前を教えてもらって、注文方法についてもいろいろと打ち合わせをしておきたいな」
「他の従業員……」
「……マスター? さっきからずっと顔色が悪いけど、大丈夫? もしかして、さっき凄い魔法を使ったから疲れちゃった?」
プルプルと小刻みに震える白蛇の顔を心配そうにのぞき込むと、彼が耐えかねたように声を張り上げた。




