6話 内装を決めよう
「まさか、新しい職場がこんな状態だとは思ってもみなかったよ……」
「本当に申し訳ありません……」
しずくが自宅から持参したサンドウィッチを分け合いながら、少し遅めの昼食を取った後、項垂れているマスターに問い詰めたところ、何と、この喫茶店の新装開店日は明日で、カーテンや壁紙などの内装や新しい家具や備品は、これから手配することになっていたらしい。
「あの、実はこのことについても、天音さんには事前に説明していたのですが──」
「もー、天音叔母さんったら、いくら何でも説明を端折りすぎだよ! まあ、それはともかくとして、明日開店するのに、いまだに店内がこの状態なのはかなりまずいと思うよ。とにかく急いで内装や家具を整えないと」
──とは言っても、こんな森の中に、家具や備品や食器を購入できる店があるとはとても思えない。しずくの意見を聞いてから準備しようと思っていた、とマスターは言っていたが、一体どうするつもりなのだろう?
「内装や家具を整えていくにあたって、しずくさんに何か意見はありますか?」
「うーん、そうだなあ。とりあえず、あの窓際に、いくつかテーブル席を設けたいかな。そうすれば、外からお茶してる様子が見えて、お客さんが店に入りやすくなると思う」
「なるほど。では、四人掛けのテーブル席を窓のそばに設けましょう。それとは別に、やはり二人席もあったほうがいいですよね?」
「うん、そうだね。 あとは店の奥にいくつかソファ席も作りたいな」
「おお、いいですね。いかにも喫茶店ぽいです!」
「店内は寛ぎやすいように明るすぎず暗すぎず、って感じにしたいけど──ああ、こんなことになるとわかっていれば、いろいろと資料を準備してきたのになあ!」
「内装や器具のカタログならありますよ」
「え? あるの?!」
しずくが驚いていると、突然カウンターの上に、百科事典並みに分厚いカタログが、ででんと現れた。マスターに促されて紙面をめくると、テーブルや椅子、室内用の照明器具の他に、壁紙や食器類までもが網羅されている。
「わ、凄い! このカタログ、喫茶店に必要なものが全部揃ってる!」
「実は、このカタログに載っている物は全て、しずくさんの世界にある物を参考にして、一から作り上げた物なのです。照明器具などの電化製品に関しては、電気の代わりに魔石や魔法を使っていますが、性能はさほど変わらないはずですよ」
いつか喫茶店を開く時のために、長年に渡って準備していたんです、とマスターは胸を張った。
「おお~、それは凄いね! でも、このカタログで選んだ物って、すぐに取り寄せられるのかな? それに、代金の支払いは大丈夫?」
「そのあたりのことについては、ぼくが何とかするので心配はいりません。とにかく今は、値段は一切気にせずに、店に必要な物をどんどん選んでもらえませんか?」
「わかったよ。それじゃあ、高そうな物であっても遠慮せずに、さくさく選んでいくからね!」
「はい。よろしくお願いします!」
頭の中はまだ疑問符だらけだが、明日に開店が迫っている今は、悩んでいる時間ですら惜しい。
しずくは再び分厚いカタログに向きあうと、マスターに時折意見を求めながら必要な品物にチェックを入れ、手渡された店の間取り図に商品番号を書き込んでいった。
そして、ようやく喫茶店の営業に必要な物を全て選び終えた時、彼女の腕時計の針は、午後三時を回っていた。




