69話 流血する前に止めた
「神官さん、大丈夫きゅるか?」
心配したポピーにつんつんと突かれて、一言も発することができずに凍り付いていた二人が、ようやく解凍した。
「ま、まさか──」
「いや、あり得ない話ではない。かつてシグベルムの地にたどり着いた先祖も、われわれと同じようにヴィリオーサ様を見た目だけで判断して、かの神は肉食に違いないと思い込んだ可能性は十二分にある!」
いち早く冷静さを取り戻したクアウラが、狼狽するワトルに言い聞かせる。
「私が知る限り、りりちゃんはとても優しいから、生贄なんて捧げなくても、誠意を持ってお願いすれば、国の守護だって快く引き受けてくれたと思いますけどね」
「残念ながら、我々の先祖にはそれがわからなかったのでしょう。この地に来る以前に彼らが崇めていた神は、血のように真っ赤な体をした口から赤黒い炎を吐く大蛇で、もし怒らせると家畜や人を丸吞みにしていたそうですから、ヴィリオーサ様もその手の神なのだと、勝手に思い込んでいたのかもしれません」
「待って。怒ると家畜や人を丸吞みする大蛇って、それって本当に神様なの? 怪物か魔物の間違いなのでは?!」
しずくが顔を引きつらせていると、苦悩がにじんだ顔をしたクアウラが、突然テーブルに頭を打ち付けた。
「何と言うことだ! まさか、血に飢えた土着の神と、神竜であるヴィリオーサ様を同一視した挙句、生贄などという野蛮な行為を神事と称して押し付けていたとは! 私はヴィリオーサ様に、何と言ってお詫びすれば……!」
「せ、先輩! 落ち着いてください!」
「とりあえず、何度も頭を打ち付けるのは止めようよ!」
しずくやワトルが必死に止めていると、突然クアウラがテーブルの上に突っ伏した。
「だいぶ興奮しているようでしたので、とりあえず魔法で寝かせました」
かわいらしい声に振り返ると、そこには、ふて寝していたはずのマスターが、ぱたぱたと羽ばたきながら宙に浮いていた。
「マスター様、ありがとうございます!」
「助かったよ、マスター。あのままだったら、クアウラさんの頭が割れていたかも!」
「妙な音がして目が覚めたのですが、大事に至らなかったようで良かったです」
二人から感謝されたマスターは、少し照れくさそうに笑って見せた。




